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モデル企業

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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.07.01

深化と探索、両利きの経営で「壁をつくらない」未来戦略

萩原工業


フラットヤーンを織って作った織物を青くコーティングすることでブルーシートが完成する

 

 

リサイクル可能な環境貢献価値が追い風に

売上高300億円突破の推進力となり、設立60周年(2022年)以降も持続的な成長を実現する未来戦略が、2度の3カ年中期経営計画(中計)だ。2019年始動の「UPGRADE For Next 60」に続き、現在進行形の「飛躍に向けた原点回帰 v for J」は、2025年10月期に売上高330億円・経常利益33億円、財務面もROE8%以上など、資本効率・健全性の強化を目標に掲げる。

現中計「v for J」は、過去最高業績でv(victory)字回復を果たし、さらなる成長軌道に乗るJ (Jump)字成長を目指すという内容だ。成長へ向け、「3つの戦略」(技術を、磨く。製品を、広げる。市場を、創る。)と、「+1」(社員の成長と幸福を、伸ばす。)を推進する。

主力製品のブルーシートは国産トップメーカーだが、実はホームセンター市場のシェアは4%で、その多くは安価な海外製輸入品が占める。建設業などのBtoBやECのBtoCを販売チャネルに、独自のシート加工技術で「ホームセンターでは買えない、輸入品にはない」付加価値や高品質を提供するのが強みだ。

「立体縫製の輸送用ボックスシートや100mサイズの巨大シート、広告PRや美観を可能にする工事現場を覆う印刷シートなどを開発しました。細やかなサービスができないと、ニッチ市場では生き残れません。防災用ブルーシートも、屋根にかけて終わりでは駄目で、いかに作業しやすいシートをつくれるかが肝です。全国23の自治体と防災協定を結び、輸入品との耐久性・耐候性の違いを伝え、備蓄・活用策や災害時のスピード供給を支援しています。2024年の元日に起きた能登半島地震も、経済産業省の要請で翌2日にはシート3万枚、土のう11万袋の出荷態勢が整い、現地の状況を確認しながら5日に出荷しました。

近年は遮熱シートの需要が増え、世界一遮熱効果のあるシートを開発中です。まだあるシートの可能性に気付いていないだけで、1つずつ価値を具現化していこうと取り組んでいます」(浅野氏)

同社製品の価値の1つとして、ポリ素材でリサイクル可能なことが挙げられる。近年、世界的な環境意識の高まりを追い風に高評価を得ているという。資源循環が難しい塩化ビニール製の海外製品から切り替える顧客が国内外で急増。「少しコスト高になっても、高品質かつリサイクル可能なことで環境貢献のイメージが高まるなら」と、特に海外から供給が追い付かないほどのオファーが相次いでいる。また、機械事業も不純物を除去するスクリーンチェンジャーなど、リサイクル用途機器の需要が急伸している。

「プラスチック製品メーカーとして、環境に貢献する事業推進は避けては通れない道です。SDGsを学ぶ子ども世代の成長とともに、さらに重要になっていくでしょう」(浅野氏)

付加価値を創出し、貢献価値を高めるためには、いかに素早く情報をつかみ、必要とされる形をつくり、選ばれるかが鍵となる。浅野氏は、職務階層を減らして効率良く成果が出やすいよう組織体制を刷新。課長職は6年でローテーションする独自の制度を導入した。

「組織は生きものですから、すぐに陳腐化しリーダーが落ち着いてしまいます。常に新しい発想で動く会社であり続けるために、あえて人事を変えています。リーダーは新天地で、新しいことをして成果を出そうと頑張ってくれますし、組織が変わることが若い社員の埋もれた才能を生かすきっかけにもつながります。人をうまく動かすリーダーがいる部門は、着実に成長しています」(浅野氏)

 

「ハミダセ、アミダセ。」でさらなる飛躍へ

2024年秋には「v for J」に続く新中計の策定に着手する浅野氏は、「現状の延長線上ではなく、非連続なことをしないと持続的な成長は難しいでしょう」と抱負を語る。

非連続を起こすには「投資」が欠かせないものの、二の足を踏む経営者は少なくない。浅野氏も「利益化やキャッシュフローの回収は計画通りに進む方が少ない」と笑うが、「維持更新の守りも戦略的な攻めも、ものをつくる力が高まり、お客さまに有益になる投資を最優先し、恐れず惜しまず積極的に行っています」(浅野氏)

現中計は3カ年で105億円を投資する。60億円かけた笠岡新工場は、分散する生産拠点を集約し、製造・加工のワンストップ化とリードタイムの短縮を実現。付加価値を高める加工設備・作業スペースを確保し、特注シートに対応可能な国内唯一の広幅インクジェット印刷機を導入した。

産官学や地域・業界など社外との連携も、持続的な成長への原動力になっていく。例えば、フラットヤーンの粘着テープメーカーであるダイヤテックスとは、BCP(事業継続計画)を想定した供給を補完し合う関係を構築。能登半島地震の支援も、物流提携する福山通運が優先的に輸送した。

「同業社とは競合しつつ、一緒に何ができるかを考える時代です。1社単独では成長に限界があるからこそ、連携して巻き込み、できることを増やすのが重要ですし、楽しみも大きいです」(浅野氏)

他には、岡山大学や大原美術館と異業種の地域連携で、芸術鑑賞と自己表現コミュニケーションを通して心理的安全性を高める研修をスタートした。ストレスを軽減し安心して働き、やりがいや成長意欲、幸せの実感が高まり、組織風土もより良くなるという中計のうち「+1」の領域でのグレードアップが狙いだ。人材流動化にも適応し、多国籍・経験者の採用に加え、退職した社員のカムバック採用も積極的に受け入れている。

「自社にない経験知や多様性ある人材を増やし、愛社精神を発揮してグローバルに活躍してもらうことが、当社の成長力を高めます。やっぱり非連続であることが大事ですし、その先に売上高500億円達成が見えてくるでしょう」(浅野氏)

かつて1970年代に100億円を突破した時も、フラットヤーン製品に安住せず、自社開発・製造で磨いた「切る・伸ばす・巻く・織る」の独自技術を機械製品として事業化し、非連続を起こした萩原工業。「ハミダセ、アミダセ。」をコーポレートスローガンに掲げる今、常識や固定観念にとらわれず、岡山から世界へと貢献フィールドを「はみ出し」、新たな素材・技術・工法・製品を「編み出し」ていく自社像が、そこにある。

「パラグアイから世界中へ『バルチップ』の活躍フィールドが広がりますし、海外で伸びている野菜・果物の包装ネットクロス『メルタック』も米国市場に新工場が誕生します。小さな一歩ですが、ハミダセ、アミダセ、さらにリエキダセ、で次代にも飛躍を遂げていきます」(浅野氏)

 

 


萩原工業 代表取締役社長 浅野 和志氏

 

 

萩原工業 (株)

  • 所在地 : 岡山県倉敷市水島中通1-4
  • 設立 : 1962年
  • 代表者 : 代表取締役社長 浅野 和志
  • 売上高 : 312億4500万円(連結、2023年10月期)
  • 従業員数 : 1297名(連結、2023年10月現在)