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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2024.06.01

地域密着型ゼネコンを目指す工事会社のM&A戦略 小松物産

オーナーが守りたいのは「お金」ではない

「当社がこれまでに買収した15社のうち、10社のオーナーにはご子息がいましたが、後継者候補ではありませんでした。『この家に生まれたら会社を継ぐのが当然』という発想は、もう過去の話です。中には2代目、3代目のオーナーが50歳代で会社を売りに出したケースもあります」と相原氏は語る。

次世代のキャリアの多様性が広がることは喜ばしいものの、下水道・電気・ガスなど生きるために不可欠なライフラインの公共工事を請け負う会社がなくなってしまったら、その地域に未来はない。「従業員や事業を何とかして守らなければ」と苦悩するオーナーに対し、同じ地域の建築業界を支えてきたからこそ提示できる条件があるのではないか。そう考えた相原氏は、交渉に当たり次の9つの条件を提示することにした。

①商号の継続使用
②従業員の継続雇用
③従業員の待遇維持
④社長の内部昇格
⑤業務遂行方針の継続
⑥対象会社単体で利益を確保
⑦取引金融機関との関係を継続
⑧取引士業(税理士など)との関係を継続
⑨取引先との関係を継続

さらに、小松物産が労働環境の改善(就業規則の見直しなど)、制度の充実(退職金制度など)、職場環境の改善(設備など)、人材の確保・育成をサポートする。販売支援のほか、グループ間の協業・取引によってシナジーを生み出せることを、丁寧に伝えている。

「買取金額だけで比べられたら、当社は大手の金融機関やファンドの足元にも及びません。しかし、過疎地域の縁の下でライフラインの施工を長年担ってきたオーナーが求めているのは『お金』ではないのです。

さまざまな風雪に耐えながら20年以上も地域に根差して純資産を築くのは、一朝一夕にできることではありません。その会社を手放すということは、愛娘を嫁に出すのと同じような気持ちだと思います。当社は尊敬の念を持ってオーナーの話を傾聴し、学ぶ立場であると肝に銘じています。

また、買収に当たっては、隣に誰が住んでいるのか分からないことも多い首都圏とは異なり、人と人の距離感がとても近い地域だからこそ、配慮が必要なことも多々あります。M&Aの成功には『対象企業が向き合ってきた地域性についての理解』が必須なのです」(相原氏)

M&Aは独学で学んだが、本質は営業と全く同じだと相原氏は断言する。傾聴に徹して相手の置かれている状況を理解し、何を望んでいるのか見極める。最終的に金額ではなく、人で選ばれる。それが小松物産の考える「幸せなM&A」だ。

 

買収した企業は永久保有

2017年に買収した北海マテリアル(北海道)を皮切りに、宮城で4社、福島で5社、山形で2社、新潟で3社と、計15社をグループに迎え入れた小松物産。買収後1年間は緊張感が高かったものの、翌年、無事に配当が入ると、キャッシュフローはすぐに軌道に乗った。すでに銀行からの借入金の60%を利益と配当で返済しているという。

今後も土木、鉄骨、金物、電気、ガス、空調、内装と、各分野に精通する工事会社を幅広く買収し、将来的には全て自社完結で建築できる地域密着型ゼネコンを目指している。

「一般的な建設会社は、現場代理人だけ立てて、後は下請け任せです。当社は、下請け機能もグループ内に組み込み、自分たちが現場に入って手を動かしたい。いわば技術者のプラットフォームを形成するためのM&Aです。永久保有する覚悟で買収していますから、オーナー様にも安心していただけるのだと思います」(相原氏)

同グループ全体の売上高は、2024年3月期で600億円。そのうちグループ会社の売上高が250億円を占め、15億円の純利益を計上している。同社は6年後の創業80周年にグループ全体で売上高1000億円、純利益50億円の達成を目指し、今後もM&A戦略を推進していく方針だ。

「中小企業の場合、オーナーが個人名義で株式を保有しているケースが多いでしょう。固定資産を含む会社の資産が10億円規模の企業となると、ご遺族が現金で支払わなければならない相続税は億単位に上ります。

バブル崩壊後の1994年以降、固定資産税評価額は公示価格の70%と定められていますが、市場価格が基準ではないため、結果的には納税者が重い負担を強いられている現状がある。地域のライフラインを支えてきた会社はもちろん、そのご家族の未来を守るためにも、M&Aという経営手法を全国の中小企業が学び、活用していく意義があります。日本は今、そのような時代に突入しているのではないでしょうか」(相原氏)

 


小松物産 常務取締役 相原 裕貴氏

 

 

小松物産(株)

  • 所在地 : 宮城県仙台市青葉区一番町1-4-28 小松物産ビル9F
  • 創業 : 1950年
  • 代表者 : 代表取締役社長 小松 敬之
  • 売上高 : 600億円(グループ計、2024年3月期)
  • 従業員数 : 750名(グループ計、2024年3月現在)