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100年先も一番に
選ばれる会社へ、「決断」を。
【特集】

未来へつなぐ事業承継

2025年に日本の6割以上の経営者が70歳を超え、127万社が後継者不在と言われる中、次期社長の社内登用や外部招聘によって「所有と経営を分離」する事業承継が増えている。単に今の事業を引き継ぐのではなく、100年先を見据えていかに成長させるか。 そのことを経営目線で考え、未来を描いて自社と事業を継承していく「MIRAI承継」のメソッドを提言する。
2024.03.01

人と組織文化、ブランドを生かすM&Aが奏功:地球の歩き方

インバウンド向けの情報サイト「地球の歩き方 GOOD LUCK TRIP」では、日本各所の見所や文化、歴史などの情報を発信。画像は中国語繁体字版サイト

 

相手を深く知り、人と組織を生かす

 

こうした取り組みは、「やってみる」という新たな組織文化の賜物である。同時に、自ら現場に入り込み、社員を深く理解し、現場のアイデアや企画を生かすトップマネジメントがなければ実現しなかったことだ。

 

「特別なことをしたつもりはありませんが、社員が自由に発想し、行動できる雰囲気づくりを心掛けました。また、社員と頻繁にコミュニケーションを取り、時間の許す限り編集会議にも出席し、自由闊達に意見を交換しました」(新井氏)

 

旧社時代、「地球の歩き方」はすでに世界各地を網羅しているため、改訂版の制作が大半で、ゼロから企画・取材・編集をする機会はほとんどなくなっていた。そんな中、アイデアや企画を提案し、制作するチャンスを与え、未知の領域へ挑戦する雰囲気を醸成していったのだ。新型コロナの規制が緩和された2022年秋からは社員との「ランチ会」を定期的に設けるなど、コミュニケーションの機会を増やし、社員のパーソナリティーを把握して円滑な組織運営を図った。

 

「地球の歩き方は内的要因ではなく、コロナ禍という外的要因で事業存続ができなくなっただけで、もともと社員のモチベーションも高かったので、社員の皆さんが自社の目指すべき方向を理解し、会社の課題を自分事として捉えてくれたおかげでV字回復できたのだと考えています」(新井氏)

 

 

「ないと困る」ブランドであり続けるために

 

ダイヤモンド・ビッグ社の特別清算が報じられたとき、インターネット上で「地球の歩き方がなくなる」といった誤報が広まると同時に、ツイッター(現X)などで「ないと困る」といった声が上がっていた。

 

「『ないと困る』と言われるのは、まさに地球の歩き方の培ってきたブランド力であり、そこにある期待感だと思います。今の時代にフィットさせ、ブランドを生かしながら、世の中に必要とされ続けるためにどうすべきか。現実を受け止めながら、一歩ずつ前進していきたいと思います」(新井氏)

 

国内版という新市場に参入し、自社らしいコンテンツで成功を収めてきた同社。昨今は海外渡航者数も戻りつつあり、海外版の売れ行きも復調気配だ。そんな中、インバウンドを対象にしたウェブサービスもスタートさせている。

 

「インバウンド向けの旅行情報サイト『GOOD LUCK TRIP』を開設し、海外の方々に日本の見どころや文化・歴史などの情報を発信しています。アジアをはじめ多くの国々の方に利用いただいており、月間630万PVを獲得しています。また、地方自治体では地域創生の一環としてインバウンド集客に力を入れているところが増えていますが、こうした地域と連携して、地球の歩き方がこれまでの経験で培ってきた知見を生かし、協業できればと考えています」(新井氏)

 

試練を乗り越え、事業承継という手段で再生を果たした「地球の歩き方」。常識にとらわれない発想と卓越したコンテンツで、これからも新たな価値提供を目指していく。

 

 

(株)地球の歩き方

  • 所在地 : 東京都品川区西五反田2-11-8
  • 設立 : 2020年12月(事業開始2021年1月)
  • 代表者 : 代表取締役社長 新井 邦弘
  • 売上高 :20億2832万円(2023年9月期)
    ((株)学研ホールディングス売上高:1641億円、連結、2023年9月期)
  • 従業員数 : 46名(2023年9月現在)

 

 

 

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