その他 2023.12.01

M&Aを通じた待遇改善や設備投資で働きやすい環境を創造 TAKUMINOホールディングス

TAKUMINOホールディングス 取締役 グループCFO 香川 慶人 氏

 

ホールディングス化による経営基盤の強化、大幅なベースアップ、学び合う企業文化の醸成、グローバル人材の積極採用。建設会社の「働き方改革」に大きな示唆を与えるTAKUMINOホールディングスの取り組みを追った。

 

 

建設工事の監督や管理を行う国家資格「1級土木施工管理技士」を保有する若手リーダーの1人であるベトナム人女性。現場管理に育児に奮闘中

 

 

 

M&Aによる経営基盤強化で生産性向上と人材確保

 

少子化や就労者の高齢化に伴う建設業界の人手不足は深刻だ。そうした中、追い打ちをかけるように2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が建設業にも適用される。特に、人材確保や業務効率化に悩む中堅・中小建設会社が置かれた状況は厳しい。

 

しかし、そんな状況の中でも、人材の採用・育成・定着や生産性向上を推進し、働き方改革で成果を上げる企業グループがある。橋梁保全・補修、一般土木・道路舗装などを行う土木・土木メンテナンス事業、各種鋼構造物設計・製作・加工や各種溶剤・塗装などの建築・エンジニアリング事業などを手掛けるTAKUMINOホールディングスだ。

 

同グループの中核企業である小野工業所は、1889年に福島県で創業した約135年の歴史を誇る建設会社である。1994年に株式会社化し、2015年以降はM&Aを繰り返して成長を遂げている。

 

「2015年に東日本大震災の復興事業が一段落したのですが、当時から人手不足や部材を供給してもらうパートナー不足で苦労していました。事業安定化を考えたとき、部材を安定供給してくれる企業との資本提携は不可欠という考えからM&Aを推進。橋梁部材を製造するテッコー(現・香取ベンダーテクニカルの北茨城工場、東京都大田区)との資本提携を皮切りに、シナジーが見込める複数の企業と資本提携しました。

 

M&Aを経営戦略として推し進めた背景には、当社の事業の安定化や、後継者不足に直面する会社の事業を継承して後継者問題を解決するという理由の他にも、M&A後の統合効果を最大化するためのPMI(Post Merger Integration)活動を通じて、生産性の向上や人材の確保・育成などを図り、グループ各社の働き方改革を推進するという側面があります」

 

M&Aを実行してきたTAKUMINOホールディングス取締役グループCFOの香川慶人氏はそう説明する。2019年にホールディングス化し、2023年10月現在で計11回のM&A実績を持つ同社は、土木・土木メンテナンスを手掛ける小野工業所、アラタ工業、木戸建設、香取ベンダーテクニカル、橋梁保全研究所、また建築・エンジニアリングを行う博陽工業、ゼット企画設計、大牟田鉄骨、坂口工業、さらに木材リサイクル事業の河津造園という事業会社10社を擁している。

 

 

人材定着のため8.1%のベースアップ敢行

 

グループ化に当たって同社はPMIを大切にしており、経営ビジョンや組織文化の浸透、人事制度や業務ルール、業務プロセスなどの標準化などに注力している。例えば、グループ各社で異なる人事制度システムを統一することにより、等級制度や評価制度をグループ共通の“物差し”として明文化した。また、それに伴って、賃金制度も地域で競争力のある水準に変えていった。

 

単独の企業では負担が大きかった採用や人材育成などは、ホールディング会社を中心に取り組むように転換した。具体的には、採用活動に関する情報やノウハウをグループ全体で共有。新卒採用は、就活サイトの活用やインターンシップの開催などで母集団を大きくし、内定承諾の期限は3日間と一般企業より短く設定して内定辞退を減らしている。

 

また、中途採用については約50のエージェントと提携し、紹介やダイレクトリクルーティングによるスカウトで即戦力の獲得を行っている。事業会社は従来よりも大きな予算で人材の確保と育成ができるようになり、社員のスキルアップや意識改革も進んだという。

 

さらに、人材の定着施策としては、社員が安心して働けるように福利厚生を充実させている。例えば、同社が毎月2万円を積み立てる確定拠出年金制度を導入。社員は60歳以降に年金としてこれを受け取ることができる。その他にも、業務に必要な知識や資格取得のための費用を同社が負担する資格取得支援制度や、住宅費用を一定額補助する借り上げ社宅制度などを導入し、経済的なサポートを行うことで安心して働ける環境を整備している。

 

同時に、建設業界で話題となった施策も打ち出した。2022年10月に発表したグループ全体の大幅な賃上げである。

 

「従業員1人当たり平均8.1%のベースアップを行うことを決めました。大手ゼネコン以外でのベースアップとしては高い方だと考えています。少子化が進む中、良い人材を確保するには、待遇面での魅力も打ち出す必要があることが理由です。また、時間外労働の上限規制適用に向け、各現場で働き方や労働環境の改善に挑んでいる従業員の処遇向上という意味もあって、大幅アップに踏み切りました」(香川氏)