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【特集】

建設業の「働き方改革」

人材不足の中、 時間外労働の上限規制の適用開始が 2024年4月1日に迫る建設業。 労働環境の改善や生産性の向上など、 抜本的な「働き方改革」が待ったなしの状況だ。 業界全体の喫緊の課題に向き合う 実践経営のヒントを提言する。
2023.12.01

デジタル人材を育成し、デジタル変革を推進:竹中工務店

デジタル人材を育成し、デジタル変革を推進:竹中工務店の田邊紀光氏

竹中工務店 デジタル室 管理・教育グループ長 田邊 紀光 氏

 

「グループ成長戦略」に向けたデジタル戦略として、デジタル化による業務の効率化と事業の変革に取り組む竹中工務店。成否の鍵を握るのはデジタル人材であると位置付け、本格的な育成に乗り出した。

 

建設DXソリューションについて紹介する竹中工務店のサイト。建設プラットフォームをはじめ、同社がデジタル変革を通じて創出する価値や2030年に目指す姿などを掲載している
建設DXソリューションについて紹介する竹中工務店のサイト。
建設プラットフォームをはじめ、同社がデジタル変革を通じて創出する価値や2030年に目指す姿などを掲載している

 

デジタル変革を加速させる建設デジタルプラットフォーム

 

建設業界は、現場ごとにそれぞれ独自仕様の「もの」をつくる。そのためオートメーション化や業務標準化が難しく、労働生産性が低いという特徴があった。しかも建設技能労働者は減少が続いている上、2024年4月1日に「改正労働基準法」適用の義務化がスタート。年間総労働時間の上限規制などが設けられ、マンパワーに頼る働き方はできなくなる。

 

急ピッチでデジタル変革が求められる中、参考にしたいのが、確固たる将来のビジョンを描いた上で、全社を挙げてデジタル化に取り組む竹中工務店だ。

 

同社は「デジタル変革により2030年に目指す姿」として、「お客様の課題解決と事業機会の創出」「圧倒的なお客様満足を生み出すものづくり」「建築とそのプロセスでのサステナブルな価値提供」を策定。また、デジタル変革の推進体制として、デジタル変革推進タスクフォースを編成している。(【図表1】)

 

【図表1】デジタル変革の推進体制
デジタル変革の推進体制
出所 : 竹中工務店講演資料より抜粋・加工

 

「デジタル変革推進タスクフォースは、本社の管理系(経営企画、総務など)・プロジェクト系(営業、設計、生産など)のメンバーと、事業部門のメンバー(本支店のデジタル化推進責任者)で構成されています。デジタル変革推進タスクフォースの中で新たに設置されたデジタル室が事務局となり、デジタル部門と事業部門が二人三脚でデジタル変革を推進できる体制を築きました」

 

竹中工務店の組織体制についてそう説明するのは、デジタル室管理・教育グループ長の田邊紀光氏である。そのデジタル室が中心になって推し進めているのが、労働生産性と知的生産性を向上させるために全ての業務をデジタル化することだ。

 

例えば2020年4月、同社はコロナ禍で在宅勤務を開始したが、当時の勤怠管理体制は効率的とは言えなかった。例えば当初は、社員がそれぞれメールで所属グループに勤怠状況を報告し、その後、部・本支店を経て本社で全社員のデータを集約。この取りまとめに全社で毎日30時間を要していた。

 

生産性改善に向け、4月下旬には手間のかかる集計作業を撤廃。社員各自がデータを入力するだけで、人手を介さず自動集計できるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを導入し、1日当たり約30時間の労務を削減できたという。こうした業務改善を支えるのが、同社の「建設デジタルプラットフォーム」である。(【図表2】)

 

【図表2】建設デジタルプラットフォーム
建設デジタルプラットフォーム
出所 : 竹中工務店講演資料より抜粋・加工

 

建設デジタルプラットフォームは、事業に関わるあらゆるデータをクラウド上に一元集約・蓄積し、AIなどで利活用するための基盤である。営業や設計、生産準備、施工、維持保全など各部門がバラバラに活用していたアプリケーション群をひも付けることで、全社員が情報共有できるプラットフォームを構築したのだ。

 

田邊氏は建設デジタルプラットフォームについて、「業務の効率化や連携推進を図るだけでなく、ゆくゆくはまちづくりのプラットフォームに成長させることが目的」と話す。一例を挙げると、IoTを活用しクラウド上で管理することで、常駐が必要だったビルのマネジメント業務なども自動で行えるようになるという。

 

DXを自分事と捉え、変革できる人材を育成

 

働き方の変革や建設業界の課題解決の手段として、デジタル化が急速に進んでいる。だが、業務効率化のためのシステムを導入しても、現場で活用できなければ宝の持ち腐れとなる。また業務のデジタル化推進には、状況に応じた改善が不可欠だが、その際に求められるのが「デジタル」と「業務」に精通したハイブリッド人材だ。

 

同社は社員を4カテゴリーに分類し、ハイブリッド人材を育成する方針を打ち出した。(【図表3】)

 

【図表3】社員を4カテゴリーに分類し、ハイブリッド人材を育成社員を4カテゴリーに分類し、ハイブリッド人材を育成
出所 : タナベコンサルティング作成

 

4カテゴリーのうち、カテゴリーⅠは全社員の9割が該当し、各部門に在籍してデジタルで業務を行う。カテゴリーⅡは、各部署のデジタル活動をリードするキーパーソンであり、デジタルを活用してどのように仕事を変えていくかを考える存在だ。

 

カテゴリーⅢはデジタル変革を主導するデジタル技術専門人材、カテゴリーⅣはデジタルと事業の専門性を兼ね備えたビジネスアーキテクト(デジタル技術&事業エキスパート)になる。各カテゴリーで求められる能力や役割を明確にして、必要なスキルが身に付くよう育成し、2025年には全従業員のボトムアップを完了させる考えだ。

 

「デジタル人材の育成に向けてスタートさせたのがカテゴリーⅠの社員の育成です。手始めに新入社員に対して実施しました。そもそも当社では1年かけて『新社員教育』を実施し、幅広い知識を習得してもらいます。教育寮で生活しながら、2つから3つの部門をローテーションで経験します。2022年度からは事務系新入社員の配属ローテーションにデジタル室を加え、ITリテラシー、DXリテラシー、データリテラシーを身に付けてもらっています」(田邊氏)

 

ITリテラシーとは、ITの基本概要の理解とマイクロソフトのOffice(エクセル、ワード、パワーポイント)基本操作の習得、DXリテラシーはDXの基本と竹中工務店のデジタル化の概要の理解だ。その上で、BIツールの操作を習得し、データ分析・活用方法の基礎知識を身に付けてデータを読み取る力(データリテラシー)を養う。

 

「企業の持続的成長に向けてデジタル化が必須という意識を持ち、DXを自分事と捉え、変革に向けて行動する人材になってもらうことが重要です。業務の合間に無理なく受講できるよう、カテゴリーⅠのeラーニングコンテンツは1コマ20分程度に収めています」(田邊氏)

 

そうした工夫のかいもあり、研修後のリポートでは「全社員が危機感を持ち、DXの推進に取り組むべき」「建設デジタルプラットフォームを活用するためのデータリテラシーが必須」といった声が上がるなど、受講者の意識は大きく変化しているという。今後は、新入社員の教育研修で成果を得たコンテンツのダイジェスト版を作成し、一般社員にも展開する予定だ。

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