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【特集】

組織構造変革

ビジネスモデル転換のために事業戦略を再構築したにもかかわらず、収益・生産性を上げられない企業は少なくない。共通点は、既存の組織に事業戦略推進の責任を課すだけであることだ。戦略に応じて組織と機能を見直し、生産性向上につなげる「組織構造の変革メソッド」を提言する。
2023.09.01

人事と事業を結び付けるHRビジネスパートナー:DeNA

ディー・エヌ・エー(以降、DeNA)は、エンターテインメントと社会課題領域の両軸で事業を展開。ゲームを中心としたエンタメ領域で培った課題解決メソッドを応用し、社会保障費軽減に向けた持続可能なヘルスケアサービスや、スポーツを軸としたにぎわいのある街づくりのほか、社会のさまざまな課題解決を支援している。

 

同社は2014年、「事業に資する人事」を目的にHRビジネスパートナー(以降、HRBP)制を導入した。HRBPとは、戦略人事(事業戦略の実現に向けた人事機能)の遂行に関わり、経営者や事業部門のパートナーとして、人事面から部門をサポートする役割を担う人材のことである。経営陣の一員で人事部門の最高責任者であるCHRO(最高人事責任者)とは違い、HRBPは各事業部に配属される人事担当者のようなイメージだ。

 

同社では、人事が事業領域に深く入り込み、効果的に戦略人事を実践している。集約するメリットが高いオペレーション領域については本部機能とする一方、採用・人材育成・組織開発などのマネジメント領域は「事業部人事」として、各事業部にHRBPを配置してサポートする(【図表】)。つまり、事業部へ人材マネジメント機能を委譲し、現場の実態に即した組織デザインや効果的な専門教育などを、事業部の主導で行える組織体制を実現しているのだ。

 

 

【図表】DeNAの人事フォーメーション

出所 : DeNAの資料よりタナベコンサルティング作成

 

 

ただ、各事業部にHRBPを配置しても、縦割り組織のままでは全社としてのシナジーは生み出せない。そのため、事業部人事同士のコミュニケーション頻度を増やすとともに、情報はネットワーク上で見える化することにより、組織の縦割り化を防いでいる。特定の1人が人事のリーダーシップを発揮するのではなく、組織として戦略的に推進している点が重要といえる。

 

人事機能の強化策はHRBPだけではない。次に、同社が掲げる人材戦略の4テーマ「人材獲得」「人材育成・配置」「組織風土」「働く環境」から、それぞれ特徴的な取り組み事例を取り上げる。

 

1. リファラル採用

 

DeNAが人材獲得で注力していることが2つある。1つ目は、事業の要員計画から人材定着まで一気通貫でHRBPが関わること、2つ目はリファラル採用の強化である。

 

同社では、計画立案から入社までの全プロセスにHRBPが関わることで、入社後の事業戦略に見合う活躍まで見越した戦略的採用を実現している。人事部門が採用オペレーションだけを担っていると事業戦略との乖離が起きやすく、結果として本社が採用した人材と現場が求めている人材にギャップが生じやすい。そうした問題をこの仕組みで解消しているのだ。

 

また、社員が知人を会社に紹介するリファラル採用を強化している。リファラル採用者は内定辞退率が低く早期離職も少ないため、採用効率を高める手法として知られる。同社の場合、2022年は採用者全体の約20%以上がリファラル採用による入社であった。

 

2. マネジャー育成

 

DeNAの調べによると、人が大きくパフォーマンスを上げる(または下げる)きっかけは「マネジャーが変更した」瞬間であることが分かったという。そこで同社は新入社員の育成のみならず、マネジャー育成にも力を入れている。

 

マネジャーは事業と組織の結節点になる存在であるとし、6つのマネジャー要件「①ゴールを示す、②強みや個性を理解し活かし合う、③適切に任せ、挑戦を支援する、④自分が抜けても大丈夫な組織を作る、⑤結果を出す、⑥インテグリティー:誠実性」を定め、昇格時に満たしているかをチェックしている。

 

また、これらの要件に合致しているかを社員からフィードバックされることで、マネジャー自身が自律的に改善サイクルを回せる仕組みを確立していることも特徴だ。事業戦略を推進し、結果が求められるマネジャーとしての素養と日常行動を人事・社員の両面から測ることで、自社の価値観に合った人材を育成している。

 

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