その他 2023.09.01

トップダウンから社員が意思決定する組織へ変革:デルタインターナショナル

トップダウンから社員が意思決定する組織へ変革するデルタインターナショナル
左より、デルタインターナショナル マーケティング課 マネージャー 工藤 和美氏、執行役員 管理本部 本部長 海野 隆弘氏、取締役 兼 事業本部長 枝澤 政隆氏、マーケティング課 シニアマネージャー 弓倉 みづほ氏

 

2022年で設立30周年を迎えた食品輸入販売のデルタインターナショナル。経営陣の強力なリーダーシップで躍進を遂げてきた同社は、3度にわたる改革を成し遂げ、カルチャーチェンジを果たした。

 

業務管理を中心に「第1の改革」に着手

 

ロカボ食(低糖質食)の「ロカボナッツシリーズ」や、各国の原料生産者と提携したドライフルーツ「くだもの屋さんシリーズ」を販売するデルタインターナショナルは、1992年設立の商社である。製菓メーカーにナッツなどの商品を納入するBtoBビジネスからスタートし、2000年には自社ブランドのくだもの屋さんシリーズを小売店に卸すようになった。

 

同社はさまざまな国の生産者とパートナーシップを組み、品質の高い商品を提供する仕組みを築いている。また、コロナ禍による健康志向やダイエットブームに乗り、消費者の支持を受けて右肩上がりで急成長を遂げてきた。2016年にはロカボナッツシリーズの「一週間分のロカボナッツ」が大ヒット。2011年に約80億円だった売上高は、2023年には250億円と約3倍に成長した。

 

しかし、業績が伸びる一方で、同社は組織体制に課題を抱えていた。

 

「とにかく業績を伸ばすために走り続けてきたので、世界の産地を開拓するバイヤーや販路を切り開く営業職が全社員の大部分を占めるという組織体制でした。給与も実績重視の年俸制でしたし、業務を管理するシステムもバラバラで非効率。業績としては急成長を遂げていましたが、個人商店の集まりのような会社でしたから、もっと組織として動ける体制に変革したいと感じていました。そのような時期にタイミング良く海野が入社してきたので、組織体制の見直しを依頼しました」

 

組織構造改革の背景をそう振り返るのは、デルタインターナショナル取締役兼事業本部長の枝澤政隆氏である。そして、改革を現場で実行したのが、執行役員で管理本部本部長の海野隆弘氏だ。

 

2012年に入社した海野氏が取り組んだのは、役員会議などで意思決定がスムーズに行える仕組みの構築と、社員が働きやすい環境の整備であった。まず手を付けたのが、業務の新しい仕組みづくりである。

 

「働きやすい環境づくりとして、年俸制から給与制へ移行しました。就業管理や経費精算、稟議システムも紙ベースでしたが、ソフトウエアを導入するなど管理部門の業務改革も行いました。また、商品の輸入から発送・在庫・顧客管理までを効率的に行えるように、基幹システムの入れ替えを当社全体で行いました」(海野氏)

 

脱トップダウンのための「第2、第3の改革」

 

海野氏が手掛けた業務改革は、デルタインターナショナルの組織構造改革における「第1の改革」に過ぎない。同社はその後、「第2、第3の改革」を社内の状況に合わせて実行していった。

 

第2の改革が始まったのは、2017年である。それまでの同社は、創業メンバーの1人である若菜孝彦氏の強力なリーダーシップに社員が追随する形で業績を伸ばしてきた。しかし、2009年の若菜氏の急逝により組織体制の強化を余儀なくされた。2009年から2015年までは創業メンバーの菱沼正克氏が独自のアイデアと実行力で業界での非常識を常識に変えていき市場を開拓。2015年に現代表取締役社長である鳥海敬氏が社長に就任した2年後の2017年、組織をけん引していくリーダーとして外部のマネジャー育成プログラムに選ばれたのが、当時の営業・商品・管理部門の部長クラス人材であった。

 

「私もその中の1人でした。外部のマネジャー育成プログラムを半年間ほど受講してマネジメントの基礎から学び直しました。さまざまなマネジメント手法を学びましたが、その特徴を一言で表すなら『個人視点からチーム視点への移行』です。また、チームで成果を出すための方法、あるいは、チームで人を育てていくスキルなどを身に付けていきました。

 


クルミ・アーモンド・ヘーゼルナッツを2:1:1の割合で配合した「ロカボナッツ」。ナッツ本来のおいしさを追求している(左)
「世界の農園から本当においしいドライフルーツを。」という商品コンセプトのもと、各国の原料生産者と提携したドライフルーツ「くだもの屋さんシリーズ」(右)

 

この受講で大きく変化したのは、自分の視野が広くなったことです。加えて、担当部門の戦略立案とそれを実践するための施策づくりを行うことで、実務能力も向上したと感じました」(枝澤氏)

 

業務の効率化や組織体制の改善、各部門をけん引するミドルリーダーのマネジメント力の強化と、段階を踏みながら組織構造改革を推進してきたデルタインターナショナルが「第3の改革」に着手したのは2020年だった。

 

第1、第2の改革の中心的人物としてリーダーシップを発揮してきた枝澤氏は、その後も外部の勉強会に積極的に参加し、見聞を広めた。そして、「持続的な会社の成長のためには人材育成が不可欠である」という認識を深めていったという。

 

そこで外部のアドバイスを受けながら第3の改革である人事改革に踏み切り、併せて企業文化の大きな転換も試みた。それが、「『平等から公平』への価値基準の移行」である。

 

また、社員のキャリア戦略・開発に力を入れるとともに、適材適所に人材を配置して能力を最大化できるようタレントマップを描いた。

 

「給与体系については、給与制を継続しながら、年功序列ではなく成果主義の要素を組み込んで公平になるようにしました。加えて人事評価も、上長の査定のみで決めていた評価から、年に2回マネジャー以上が参加する評価会議を設け、部署間で評価基準にばらつきがないよう他部署への評価を行っています。

 

同時に、個人の成果よりもチームの成果を重視することで、チームワークの向上を推進していきました」(枝澤氏)

 

結果として、評価制度の改革と同時に、部門ごとにKPI(重要業績評価指標)を定めるなど目標を明確にして取り組むようになった。従来は目標を明確に数値化することがほとんどなかったが、社員がゴールを共有することで一体感も醸成していったという。

 

さらに、従来は会社の方針やそれに基づく施策を経営陣のみで決定していたが、それでは経営陣と社員の分断を招きやすいということで、各部門の部・課長クラスが参加する「シニアリーダーズ会議」を設置。ここでさまざまな施策を決定し、経営陣と社員の双方に伝達して合意を図る新体制を築いていった。