「くらしをシアワセにする、ぜんぶ。」というコンセプトを掲げ、家具、インテリア、リフォーム、おもちゃ、生活雑貨など、幅広い商品をそろえる「テックライフセレクト」(群馬県北群馬郡吉岡町)
ヤマダホールディングスの中核事業であるヤマダデンキは、家電量販店の雄として全国に直営の996店舗(2023年3月末時点)を展開し、着実に成長の歩みを進めてきた。2018年には「暮らしまるごと」という戦略を打ち出し、家電のみならず家具や住宅、リフォーム、金融などに関する商品を販売する方針を固め、顧客の暮らしを丸ごとサポートできるワンストップソリューションの提供をスタートさせた。
その新たな方針である「暮らしまるごと」戦略は、2018年以前から着々と進められていた。背景について、ヤマダホールディングス執行役員で経営企画室長を務める清村浩一氏は次のように話す。
「かつて、地デジへの転換やエコポイント制度によって、省エネ家電や地デジ対応テレビが飛ぶように売れ、2010年をピークに家電量販業界は好景気そのものでした。しかし、それは一過性のもので、エコポイント制度の終了と地デジ転換需要が一段落すれば市場が冷え込むことは想像にたやすく、その先を見越した戦略を立てなければいけないと、当時から危機感を抱いていました。
問題を解決するため導き出したのは、新しい領域の事業を手掛けて売り上げ拡大を図ること。具体的には家電と親和性の高い住宅や家具・インテリア、リフォームなど、衣食住の中の『住』に的を絞った事業戦略でした」
当時は、「暮らしまるごと」戦略を社外に公表していなかったものの、消費者の暮らしをさまざまな面からサポートするという方向性を定めていた同社は、新たな事業部を立ち上げたり、M&Aを行ったりして、少しずつ事業領域を拡大した。
例えば、住宅事業では、2011年に住宅メーカーを買収し、本格的に住宅産業に参入。以降、2018年のヤマダホームズ設立からレオハウスブランドの加入や不動産事業を展開し、高級注文住宅から普及帯の良質な住宅の建築やリフォーム、分譲、買い取り再販、不動産仲介など、住まいに対する幅広いニーズに対応できる体制を整えていった。
「暮らしまるごと」戦略を打ち出した2018年以降は、次々とM&Aを成立させた。2020年には、注文住宅のヒノキヤグループや、高級家具を販売する大塚家具を子会社化。住宅事業の強化や、家具・インテリアの品ぞろえを一気に増加させるなど、戦略を着々と形にしていった。
それとともに、住宅ローンを取り扱うヤマダファイナンスサービスをはじめ、クレジットカード会社や保証・保険会社、住信SBIネット銀行の設立によって、住宅やリフォームローンなど多彩な金融サービスを展開できる体制を構築した。
新事業を創出したヤマダホールディングスには、現在「デンキセグメント」「住建セグメント」「金融セグメント」「環境セグメント」「その他セグメント」という5つの事業セグメントがある(【図表】)。少子化による人口減少などにより家電市場の縮小が懸念される中、事業領域を暮らし全般に広げることで成長を目指す同社が、「暮らしまるごと」戦略を打ち出せた背景には、コア事業である家電小売りで業界最大手というアドバンテージがあったのは言うまでもない。
出所 : ヤマダホールディングス 「2022年 統合報告書」(2022年3月)よりタナベコンサルティング作成
ヤマダデンキが保有する6000万人の「ヤマダ会員」に対して、家電を中心にしながら、住宅や家具・インテリア、生活雑貨、住宅・リフォーム、金融などの暮らしに関するさまざまな商品を提供することで、さらなる成長を遂げることが可能になる。こうした事業戦略を掲げ、「YAMADA HD 中期経営計画」(2021年11月公表)では、2025年度に2兆円、2030年度には2兆5000億円の売上達成を目標にしている。
「暮らしまるごと」戦略を、中期経営計画に落とし込んでいる同社だが、このような体制が整備されたのはここ数年のことである。
「『暮らしまるごと戦略』を打ち出した2年後の2020年10月には、新会社設立やM&Aによって多くの事業会社を保有する企業グループになりました。それに伴って、事業戦略を実施していく上で、司令塔となる持ち株会社が必要という考えからヤマダホールディングスを設立しました。
ホールディングス化以前は約70社もの子会社がありましたが、これらを整理統合してスリム化できたことによって、グループ全体のガバナンス強化を図ることに成功しました。
加えて、権限と責任の所在を明確にするため、ヤマダデンキが出店するエリア単位で支社長制(現在は分社制度)を導入。エリア単位でマネジメントの強化を図りました」(清村氏)
さらに、ヤマダデンキでは店舗ごとに損益を可視化できる仕組みの導入も行った。それまで各店舗ではKPI (重要業績評価指標)を設定していなかったが、店舗ごとに詳細な目標を設定するなど、店舗やそこで働く従業員を定性的かつ定量的に評価できる仕組みづくりを進めた。
こうした新しい仕組みや制度を導入する一方で、同社が力を注いできたのが「異なる社風・風土の会社間のコミュニケーションの機会」を増やすことである。
「組織や制度改革を行っただけでは大きな効果は望めません。そこに従業員の仕事への高いモチベーションが加わって初めて業績は大きく伸びるものです。しかし、制度の導入とは異なり、従業員のモチベーションはすぐに変化しません。特にM&Aで当社グループの一員になった企業にはそれまでの歴史がありますから、企業文化も異なります。
ですから、給与体系などの待遇条件を平準化するとともに、頻繁にコミュニケーションの機会を設け、意思疎通を図るようにしました。事業部ごとの定期的なミーティングや事業部間の会議を定期的に開催して、グループとしての一体感を高めています」(清村氏)