その他 2023.06.01

働きがいを経営戦略とし「高め合う文化」で業績向上:コンカー

 

互いの成長を願う信頼のフィードバック

 

成長を実感し働きがいを醸成する同社の文化は、現在進行形で定着し続けている。その理由は、社員が互いの成長を願う持続的な取り組みにある。特に重要なのが、良いところや問題と感じることを、具体的に伝え合うフィードバックだ。

 

日常の業務や働き方で感じる問題やわだかまりなど、社員の声を吸い上げて「会社・他部門・上司」の2つの軸で強みと弱みを聞き出し、解決・改善に生かす「コンストラクティブフィードバック」を定期的に実施。また、フィードバックを全社員共通の行動として定着させるトレーニングも実施し、2018年以降は外部講師ではなく三村氏が自ら講師を務め、内容もコンカーらしいフィードバックへアップデートした。現在は新入社員を対象に実施するだけでなく、他企業からの参加者にも門戸を開いている。

 

批判や無関心ではなく、高め合い成長を促進し合うことがフィードバックの原点で、その機会を増やすことも大事だと語る三村氏。フィードバックには「4つの原則(プロトコル)がある」と指摘する。「マインドの大切さ、ポジティブとギャップ(ネガティブ)、方向性、受け止め力」だ。

 

「第1に、相手の成長を願う温かいマインドがないと、どんなテクニックを弄しても心に届きません。第2に、フィードバックは問題点などネガティブなことを指摘することと思い込みがちですが、良いところを伝えるポジティブフィードバックも大事です。第3は、部下から上司へ、同僚相互へ、と全方位のフィードバックが必要なこと。完璧な人間はいませんから上司も成長する機会が必要ですし、私も例外ではありません。

 

第4は、伝え手のスキルと思いがちなフィードバックも、実はコーチャビリティー(受け入れるスキル)が大事なこと。空中ブランコは、相手がしっかり受け止めてくれるという信頼があるから、手を離せます。同様に、受け手に対する信頼がないと『気を悪くするかもしれない』『逆切れされないだろうか』と不安になり、フィードバックができなくなります」(三村氏)

 

うまく伝えるだけでなく、素直に受け止めることが、相手の成長と互いのより良い関係づくりに大切だと理解し、そのやり方や心構えを身に付ける。また、ポジティブとギャップのフィードバック行動を起こす注意点やコツも、5W1Hのフレームワークに整理。さらに、9:1(ポジティブ:ギャップ)の頻度で日常的に濃度を上げるなど、フィードバックの成否に影響を及ぼす「6つのRight」(適切な「機会・環境・トーン・雰囲気・関係性・動機」)を満たすことにも心を砕く。

 

「6つのRightの準備がないと、スムーズな対話は生まれません。特にギャップフィードバックは難しく、改善要求が重いものは『ソラ・アメ・カサ』(問題解決やプレゼンテーションの手法)で、事実確認(空模様が怪しい)→深層課題の特定(雨が降る)→改善施策へ導く(傘を差す)、ことを慎重に考えてから動きます」(三村氏)

 

行動経済学のナッジ理論のように、フィードバックの受け手が自発的に望ましい行動を選択するように誘導するのは、伝え手からの一方通行の押し付けでは何も変わらないからだ。教え合う、感謝し合うことも大切にし、社員が講師となって自らの得意分野の講演をする「教えあう文化ワークショップ」、手書きの「感謝の手紙」の贈呈など、高め合う文化へと誘うさまざまな仕掛けや工夫を凝らしている。三村氏も、オンライン朝礼の絆ミーティング、新入社員とのウェルカムランチなど、つながりを深める機会づくりを惜しまない。

 

 

フィードバックを日本のスタンダードに

 

高め合う文化やフィードバックによる働きがいの向上は、コンカー全世界の中でも日本独自の取り組みだという。「No Feedback, No Concurーフィードバックなくして成長なしー」を合言葉に推進する成果は、独・英・仏各法人の合計売上高を上回る事業規模へ成長を遂げた業績が、雄弁に物語る。

 

定性的な目標は達成度を測る難しさがあるものの、人事制度と連動した評価はせず、フィードバックに積極的か、素直に耳を傾けているかなど、日常の働きぶりを重視。昇進判定にMVVの理解や高め合う文化の実践を加味し、管理職の中途採用は行わない。働きがいを実感して自らも成長した人材なら、評価がブレる心配が少ないだろう。

 

「採用で優秀な社員が集まり、一般的な外資系企業と比べて離職率も低くなりました。ただ、風通しが良く成長しやすい職場になっても、まだフィードバックが得意ではない社員はいます。フィードバックの浸透に終わりはありません」(三村氏)

 

同社が2023年2月、一般企業のビジネスパーソン600名を対象に独自調査を実施したところ、フィードバックが定着している職場と、していない職場では、自己成長の実感が2.7倍、職場への愛着は2.6倍もの違いがあった(【図表】)。フィードバックが当たり前になれば、個と組織の力が高まる成長を実感し、職場への愛着や働きがいが生まれることを裏付けるデータだ。ただ、全企業がそうならない現実もある。

 

 

【図表】フィードバックがもたらす職場への影響

©2023 SAP SE or an SAP affiliate company.All rights reserved.|PUBLIC|
出所:「フィードバックに関する調査」(2023年2月)を基にタナベコンサルティング作成

 

 

「サーベイなどでせっかく引き出した社員の声を、聞きっ放しにする企業が多いのです。何を言っても変わらないと社員が思ってしまうと、会社に対する信頼が薄れ、働きがいも低下します。当社は社員の声を具体的なアクションに落とし込み、何をどうしたかを共有することを地道に続けてきました。

 

働きがいが生まれるのは、自らの存在が認められ、互いに化学反応を起こしながら成長している証しです。思ったことをストレートに伝えない国民性もあって苦手意識が強いものの、正しいフィードバックの伝え方と受け止め方が広まり、日本のスタンダードになって、社員と企業、そして日本全体に成長を遂げる好循環が生まれれば良いと思っています」(三村氏)

 

自らの成長実感の原点は「ファクトとロジックの積み重ね」にあったという三村氏。著書『みんなのフィードバック大全』(光文社)の発刊も、フィードバックが足りない日本社会を変え、経営者やビジネスパーソンの一助にとの願いからだ。重要性を増す人的資本経営は「明日来る道」だからこそ、確かな備えが欠かせない。

 

 

※情報整理の6つの要素。「When(いつ)」「Where(どこで)」「Who(だれが)」「What(なにを)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」

 

 

 

伝え手のスキルと思いがちなフィードバックも、実は受け入れるスキルが大事になってきます

コンカー 代表取締役社長 三村 真宗氏

 

 

PROFILE

  • (株)コンカー
  • 所在地:東京都千代田区大手町1-2-1 三井物産ビル
  • 設立:2010年
  • 代表者:代表取締役社長 三村 真宗
  • 従業員数:340名(2023年4月現在)