これまでに述べてきた事業戦略と経営基盤強化の取り組みを支えているのは、長年にわたって地道に浸透させてきた「KDDIフィロソフィ」だ。
2000年にDDI(第二電電)、KDD、IDO(日本移動通信)の3社合併により誕生したKDDIでは、それぞれ違う組織風土で働いてきた社員が共通のベクトルを持てるよう、「KDDIフィロソフィ」を制定したが、十分な議論と検討を重ねた上で、2013年にこれを改定した。
「当初は『フィロソフィを改定することにどれほどの意味があるのか』という意見も少なからずありました。しかし、トップ層が粘り強く繰り返し重要性を伝えていくと、だんだん後ろ向きなことを言えない空気になってくるものです。結果的には全社を挙げて真摯に取り組めるようになりました」と、最勝寺氏は当時を振り返る。
改定に当たっては、全社員が本気で実践できるものとなるように、部門や階層を超えて幅広く声を聞き、社員一人一人が理解し共感できるよう検討を重ねた。根底には、創業者である故・稲盛和夫氏の言葉もしっかりと継承されている。
「人事本部主導の各階層別研修や全社員横断研修の他、各組織においても担当者がフィロソフィ浸透のための年間計画を立て、地道に勉強会を続けてきました。売り上げを生まないコーポレート部門が主導する取り組みは、事業に専念したい社員から負担と思われてしまう面もあるでしょう。
しかし近年、非財務活動の重要性は広く認識されるようになりました。当社においても、215指標に及ぶ非財務関連データを過去10年分収集して外部に分析を依頼したところ、フィロソフィ勉強会の開催数とPBR(株価純資産倍率)が正の相関にあるという結果を得ました。KDDIフィロソフィを学び続けてきたことが、KDDIの価値向上に貢献できていると分かり、その重要性を再認識できました。
これまで見えにくかった非財務の取り組みを定量化し、収益との相関関係をできるだけ解明していこうという企業姿勢は重要であると、投資家の方からも一定の評価を頂いています。今後も、社内外への戦略的な財務・非財務の情報開示を通じて、ステークホルダーの皆さまのエンゲージメント向上に努めていく方針です」(最勝寺氏)
2022年度は、従来の投資家向けの統合レポートと、非財務(ESG)情報を中心とするマルチステークホルダー向けのサステナビリティレポートを合冊し、『サステナビリティ統合レポート2022』として発行。サステナビリティサイトでも非財務情報を開示している。さらに、メディアや投資家を対象とした記者説明会の実施や「KDDI SUMMIT 2023」の開催などを通して、パートナーと取り組んでいる社会課題の解決事例を広く発信している。
こうした活動の上で、いま問われているのは、環境や社会の課題に全社員が危機感を持ち、事業を通じて解決策を実行するサステナビリティ経営の重要性を強く意識することだと最勝寺氏は語る。
目下の課題は、「サステナビリティ中期目標(2022年度~2024年度)」として掲げた25項目の着実な達成だ。社内外への開示に向けて推進・報告体制を確立し、月次でマネジメントサイクルを回している。
企業価値を財務・非財務の両面で定量的に分析し、自社のサステナビリティを社内外のステークホルダーに開示する。そのための膨大な業務を未来への飛躍台とするには、KDDIにおけるサステナビリティ経営推進本部のような「伴走者」の存在が支えになるだろう。
「自社の業績だけを追いかけるのではなく、長期的な視点で社会課題の解決につながるインパクトをもたらしていく。その中で見いだした社会の成長を次なる事業戦略に生かし、企業価値を向上させ、再び社会に還元していく。そのような価値の好循環こそが、サステナビリティ経営によって当社が確立させようとしている『KDDI Value Creation Model』です。
サステナビリティ経営は、いまや経営の中心課題。各事業部門で自律的にサステナビリティ活動が実践されるよう、サステナビリティ経営推進本部のみならず、コーポレート統括本部が他部署やグループ会社など組織全体を巻き込んでけん引していかなければならないと考えています」(最勝寺氏)
PROFILE
- KDDI(株)
- 所在地:東京都千代田区飯田橋3-10-10
- 創業:1984年
- 代表者:代表取締役社長CEO 髙橋 誠
- 売上高:5兆4467億円(連結、2022年3月期)
- 従業員数:4万8829名(連結、2022年3月現在)