ESGを指標とする経営が、持続的な成長と長期的な存続に不可欠な時代を迎えている。ESGの経営理念と基本方針を策定し、本業を通して社会課題解決に挑む日本エスコンの取り組みを追った。
「IDEAL to REAL(理想を具現化し、新しい未来を創造する)」をコーポレートメッセージに掲げる日本エスコン。分譲事業を中核に商業・物流開発、まちづくりなど多面的に事業を手掛ける同社は、住まいだけでなく豊かな暮らしや生き方まで提供する、いわば「ライフ・デベロッパー」だ。そんな同社が重要な成長戦略の1つとして位置付けるのがESGの推進である。
「SDGs採択以降、持続可能な社会実現への意識が高まっています。そうした中、当社が今後も成長し続けるためにはESG経営を推進し、社会課題の解決に取り組む必要があると考えました。そこで、2018年にESG経営理念とESG基本方針を定めて中期経営計画に盛り込み、2020年1月には全社横断組織としてESG推進グループを新設しました」
そう語るのは、取締役執行役員で、社長室長としてESG推進の運営管理責任者を務める(2023年1月当時)藤田賢司氏だ。社長室が運営を担うことで、トップダウンによる実行力を持つ推進体制を整えた。一方、推進グループメンバーは現場の第一線で活躍する18名で構成。若手から部長クラスまで、建築設計、商業施設管理、経理財務など多様な部署から選抜している。
「役員の私は毎週、経営会議に参加するので、推進グループのやりたいこと、解決したい課題を経営層に諮り、動き出せるものから取り組んでいます。もともと、トップと現場の距離感が近く風通しの良い社風ですので、ESG推進もボトムアップが浸透しています」と藤田氏は話す。推進グループはE・S・Gの3チームに分かれて活動しており、チームミーティングと全体ミーティングをそれぞれ月1回のペースで開催。チームリーダー主導のもと、何に対してどう取り組むか検討を重ね、着実に成果とノウハウを蓄積している。
「E(環境)に関する取り組みでは、『環境にやさしい不動産開発』を掲げ、ZEH(ゼッチ)マンション※1の積極的な開発、環境配慮型の分譲マンション開発に関する東京理科大学との共同研究、中部電力・スプレッドとの3社共同による世界最大規模の自動化植物工場建設、不動産セクターのESG達成度を測る指標・GRESB※2の認証取得とスコアアップなどを行っています。
S(社会)に関する取り組みとしてはNSC(地域密着型商業施設)『tonarie(トナリエ)』の開発・運営による地域コミュニティーの形成や活性化に貢献しました。その他にもプロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場『ES CON FIELD HOKKAIDO』を核とする北海道ボールパーク『F ビレッジ』のまちづくり構想に参画した上で、『企業版ふるさと納税』を活用し、3億円を地域活性化事業のパートナーである地元・北広島市への寄付も実施しました。
G(ガバナンス)に関する取り組みとしては、コーポレートガバナンス向上のための活動や環境省『エコアクション21』への参画など、多様な活動を推進しています。
いずれも、ものづくりやまちづくりの事業を通して取り組む課題です。事業と別物では地に足の着いた活動にはなりません。ESGは慈善事業ではなく、しっかりと利益を上げ、株主や投資家など全てのステークホルダーの期待に応える必要があります。本業とマッチングし、向上し続ける視点が大事です」(藤田氏)
推進グループが目指す課題解決はコストアップを伴うものも多い。理想を追求しながら経営的なバランスも取る難しさを実感しつつも、いかに乗り越え、相乗効果を創り出せるか。「IDEAL to REAL」を体現する挑戦が続いている。
※1…ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス・マンションの略。住まいの断熱性・省エネ性能の向上や再生可能エネルギーの導入により、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指す
※2…不動産セクターの会社やファンドなどのESG配慮を測る年次ベンチマーク評価