その他 2023.04.03

「攻め」と「守り」の両輪で「未来につづく安心」を:積水化学工業

プラスチック製のふた付きごみ箱「ポリペール」を使用してごみを収集する様子。急速な都市化で家庭ごみが増大して社会問題となっていた1960年代初頭、ポリペールを使用したごみ収集方式は革命的だった。社会課題を解決する製品を生み出し続けてきた積水化学グループはESG経営の先駆者である

 

 

プラスチック製品のパイオニアから、多様な事業ドメインを併せ持つコングロマリット企業へと成長。時代のニーズや社会課題をチャンスに変えるイノベーションで「未来につづく安心」の創造を目指し、持続的な企業成長を実現する。

 

 

事業を通じて社会課題を解決する「3S精神」

 

「住・社会のインフラ創造」「ケミカルソリューション」事業を展開する積水化学工業。長期ビジョン「Vision 2030」でビジョンステートメントとして掲げた「Innovation for the Earth」には、「サステナブルな社会の実現に向けて、LIFEの基盤を支え、“未来につづく安心”を創造していく」という意思が込められている。売上高2兆円の達成を目指す成長戦略の中核に位置付けるのが、ESG経営だ。

 

「当社には事業・製品・サービスで社会課題を解決する社是『3S精神』(Service、Speed、Superiority)が企業DNAとして根付いており(【図表1】)、SDGs採択の15年前に当たる2000年から環境経営、CSR経営に取り組んでいます。ただ、社会貢献や短期的な収益にとどまらず、より長期的な目線に立って世の中と向き合い、事業を通じて貢献を果たすESG経営をさらに推進するため、Vision 2030を策定しました。サステナブルな社会の実現と当社の持続的な成長、その両立を実現しながら成長していこうといった考えからです」

 

 

【図表1】積水化学工業グループの理念体系図

出所:積水化学工業より提供

 

 

そう語るのは、ESG経営推進部長の西山宏喜氏だ。同社の3S精神の発露は1960年代初頭にさかのぼる。東京五輪開催を目前に、同社は都市人口の増大による家庭ごみ処理問題の解決へ東京都と連携し、持ち運び可能なプラスチック製のごみ分別回収容器「ポリペール」を開発した。さらにごみ収集車による回収システムを提案し、消費者に向けて街を清潔にする啓発活動を展開。ごみ処理や衛生環境改善のデファクト・スタンダードとして全国に定着した。まさにESG経営の先駆けであり、原点だ。

 

未来へ安心を届けるために推進するESG経営は、3つの事業カンパニーのトップも参画する社長直轄組織の「サステナビリティ委員会」で、「マテリアリティ(重要課題)」を決定。さらに、7つある分科会が「際立ち」「社会課題解決」「未来につづく安心」の3ステップで具体策を立案、実践し、モニタリングも推進する。その第一歩として西山氏が作ったのが【図表2】だ。

 

 

【図表2】積水化学工業グループのESG経営の概念図

出所:積水化学工業より提供

 

 

「ESGの横串を通す概念図なしに、社会や自社の持続性を叫ぶだけでは、社員が腹落ちして納得できないと考え、図示することに心を砕きました。

 

事業と別物の社会貢献だけになっていないか。E・S・Gの位置付けは適正か。各分科会の取り組みがトレードオフになっていないか。利益確保と投資コストのバランスは取れているか。急速に高まる人権意識など社会的な課題の最新情報も、委員会や分科会に伝えています。ESG経営で何よりも大事なこと。それは、経営・社員・ビジネスに、どう実装していくかですから」(西山氏)

 

同社の取り組みは「Global 100※1」に2018年から6年連続で選出され、世界的な評価を得ている。

 

 

※1…カナダのメディア・投資調査会社であるコーポレートナイツ社が世界約6700社を対象に、サステナブルレベニュー(環境・社会貢献度の高い製品・サービスの販売で得た収益)などESGの観点で持続可能性の上位100社を評価。日本企業選出は4社