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【特集】

ESG経営

企業の長期的な存続を評価するための指標「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」が、新たな投資判断基準として急速に広がっている。環境や社会への配慮、健全な管理体制の構築などによって、社会と自社の持続的成長を目指す企業の取り組みを紹介する。
2023.04.03

「攻め」と「守り」の両輪で「未来につづく安心」を:積水化学工業

 

「サステナビリティ貢献製品」で市場拡大へ

 

社会と自社のサステナビリティを実現へ導くESG経営は、2020年に中期経営計画「Drive 2022」で始動した。

 

マテリアリティは、ステークホルダーとグループ経営の2軸で、それぞれ重要性が高い課題を総合的に評価。「ガバナンス・DX・環境・人材・融合」の5項目を特定しKPI(重要業績評価指標)も明示した。トップ自らも社会課題解決に向けたコミットメントで「攻めのESGと守りのESG、その両輪で加速させる」と社内外に発信。400億円に上るESG投資予算額とともに、同社の本気度はステークホルダーに大きなインパクトを与えた。

 

「攻めのESG」は、際立つ人材や技術力、品質、挑戦する風土でイノベーションを創出し、各ドメインのビジネスでマテリアリティを解決することだ。その姿を最も体現するのが「サステナビリティ貢献製品」。自然・社会環境の課題解決とビジネスの持続的成長に貢献度が高くアウトカムを生み出す製品を認定登録する評価制度である。気候変動対応など認定製品・サービスでスタートし、その後も資源循環に資する製品などが増加。貢献製品の売上高は7724億円(2021年度、売上高比率66.7%)で目標を上回り、Drive2022のKPI8000億円の達成に向け視界は良好だ。

 

さらに、サステナビリティ貢献製品の中で市場拡大や新事業創出を戦略的に展開する「プレミアム枠」を設定。3事業カンパニーがそれぞれに収益性と持続性を併せ持つ戦略の枠組みと目標を定めている。「各カンパニーが、社会課題を解決するサステナビリティ貢献製品のポートフォリオに力を入れていくと、方向性を明確にしています。同時に、ESG経営を中心に置く全社的なベクトル合わせや加速にもつながっています」と西山氏。

 

「守りのESG」は、経営リスクを軽減・回避するガバナンスだが、いわゆるコーポレートガバナンスとは一線を画し、内部統制的な意味合いを持つ。5大インシデント(安全、品質、経理、法務・倫理、情報管理)の抑制、リスクマネジメントを強化するBCP(事業継続計画)などのマテリアリティを具体化し、持続経営力を向上するKPIとしてROIC※2を導入。ビジネスモデルや業務プロセスのDX、気候変動や再生可能エネルギーなどの環境対応、人材活性化につながる活動など、資本増強による競争優位確立や将来のコストを減らす「攻守」の取り組みも展開する。

 

また新たに、ROICの向上と長期資本コストの低減で生じる企業価値を測る物差しとして「セキスイ・サステナブル・スプレッド」を定義。ビジネスの予算計画と実績にセキスイ・サステナブル・スプレッドをコミットし、管理職以上の方針にリンクするとともに、担当業務がどれだけ資本コストの削減につながり企業価値向上に資するか、社員一人一人にも見える化する仕組みだ。その数値が大きくなるほど貢献の証しとなり、「サステナブルとは、ESGとは、仕事そのもの」(西山氏)というメッセージにもなる。

 

さらに、攻めと守りに共通する要として人事評価制度も刷新した。担当業務で持続的な成長に果たす役割を明確にし、マテリアリティへの挑戦行動を毎期の初めに上司との面談で決定。実績に応じ加点評価する。「業務を通じた成長が個人レベルの社会課題解決貢献力向上につながる手応えを実感している」と西山氏は語る。

 

「目的はイノベーションを起こすこと。そのために個々の役割における挑戦行動をしっかりと評価し、エンゲージメントスコアなどで意識の変化をトレースしています」(西山氏)

 

 

未来や社会からバックキャストする

 

百社百様に手探りで推進する企業が多く、まだ黎明期にあるESG経営。先進的に取り組む積水化学工業も、サステナブルな社会の実現に貢献した実績をどう表現するか最適解の探求が続いている。

 

「サステナビリティ貢献製品の自然・社会資本への貢献度を計算し『SEKISUI 環境サステナブルインデックス』に反映しています。また、製品の社会的価値や、どれだけの人的資本を投入し、どのような課題解決効果があったかを示すインパクト加重会計に基づく評価も進めています。

 

2030年までのGHG(温室効果ガス)排出削減については、2022年に新たに目標を制定し、ビジネス活動分に加え、サステナビリティ貢献製品を利用する顧客の削減貢献効果も独自の計算式で算出。

 

当社では社会課題解決の観点でインパクトある表現や発信の工夫にも挑んでいます」と西山氏は話す。

 

マテリアリティの1つである「融合」が、ESG経営にフィットする手応えを感じているという。社内組織の垣根を越え、グループ内の28技術プラットフォームを融合する「ESGタスクフォース」を新設。各カンパニーのサステナビリティ貢献製品を、技術や顧客、商流、温室効果ガス削減や資源循環など多様な社会課題と結び付けた、新たな製品・ビジネスが生まれ始めている。

 

「各カンパニーの頑張りを、上手に組み合わせることで、さらなる付加価値を提供できます。社外のオープンイノベーションもマテリアリティに定め、KPIを設定しています。温室効果ガス排出量削減など、サプライヤーと一緒に取り組む課題解決も数多くあります」(西山氏)

 

ESG経営に取り組もうとする経営者や担当者が、KPIの妥当性に苦心するケースも少なくない。

 

「何をKPIにするかに妥当性は必要です。ただ、長期ビジョン達成に向けてのマテリアリティは解決しなければならないことですし、その達成を可能にするKPIに妥当性の是非はありません。必要不可欠な数値なのです。

 

リーズナブルかどうか、無理はないかだけで進めていくと、イノベーションや挑戦は絶対に生まれません。『未来』や『社会』からの、バックキャストを当たり前のように習慣付けることが大事でしょう」(西山氏)

 

積水化学工業のグループスローガン「世界にまた新しい世界を」は、サステナビリティとイノベーションが正のスパイラルで描き出す、未来と社会を物語っている。

 

 

※2…投下資本利益率。調達した資金に対し、どれだけ利益を生み出したかを示す。経営効率性の財務指標

 

 

 

積水化学工業 ESG経営推進部長 西山 宏喜氏

 

 

PROFILE

  • 積水化学工業(株)
  • 所在地:大阪府大阪市北区西天満2-4-4
  • 設立:1947年
  • 代表者:代表取締役社長 加藤 敬太
  • 売上高:1兆1579億4500万円(連結、2022年3月期)
  • 従業員数:2万6419名(連結、2022年3月現在)

 

 

 

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