その他 2023.03.01

「西松版ゼロエミッション・シティ構想」で環境と経済の好循環を:西松建設

 

2019年竣工の河内川ダム(福井県、左)、1995年竣工の鍋立山トンネル(新潟県、右)

 

 

請け負いからパートナーへ共同出資で収益性を追求

 

これから自治体との事業を進めていく経営母体は、共同出資により設立する特別目的会社(以降、SPC)だ。SPCは、特定の資産を裏付けとした有価証券を発行するために設立された法人で、一般的な入札制度のように「発注者」と「請負事業者」という関係性ではなく、官民ともに出資者として収益性を追求できる。

 

また、金融機関や投資家から資金調達を行えるため、自治体は多額の建設費を公金から支出しなくてもよい。企業としても、業績の良し悪しが他事業にまで波及するリスクを回避できる。SPCの設立により、官民協働による環境事業そのものの収益性が見えやすくなるのだ。

 

今後、西松建設の環境・エネルギー事業で問われるのは、2023年に山口県で着工予定の再生可能エネルギー発電所をはじめ、共創した資産をどう有効運用していくかという点である。

 

「IRR(内部収益率)※3など投資リターンの指標が問われることになるため、その目標値に見合う事業を創出していく方針です。常に新たな可能性も視野に入れながら、ポートフォリオ全体でハードル・レート(必要最低限の利回り)を超えることができる仕組みを確立したいと考えています」(細川氏)

 

また、ESGに対する関心の高まりを背景に、環境事業の価値が上がり、需要は着実に増えている。

 

「以前は『環境事業=奉仕』というイメージが強く、どちらかといえば『利益度外視で取り組むべき社会貢献』という先入観があったかもしれません。しかし、近年は政府主導のFIT・FIP制度(再生可能エネルギーの買取制度)など事業参入しやすい仕組みも整ってきましたし、環境に貢献している企業へ積極的に投資していこうという潮流も生まれています。こうした変化により『利益追求』と『社会貢献』の歯車が噛み合い、CSV(共通価値の創造)として取り組みやすくなりましたね」(細川氏)

 

 

ベンチャー企業の技術をまちづくりに展開

 

西松版ゼロエミッション・シティ構想の実現に向けた新規事業を創出するため、西松建設では2027年度までに200億円規模の投資を行う予定だ。そのうち30億円は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)※4として実施するベンチャー企業への投資である。資金面のみならず、優れた技術をまちづくりに広く展開する地域連携の支援にも一役買っている。

 

2022年8月には、バイオガス発電事業の企画・開発・運営を行うアーキアエナジー(東京都港区)に出資を決めた。

 

「地域が抱えるさまざまな課題が、別の地域課題の解決に役立つような循環型のまちづくりを提案していきたいです。例えば、メタン発酵バイオガス発電の燃料は生ごみや紙ごみなどであり、ごみ処理の付加価値向上に貢献できます。

 

また、間伐材や林地残材で作った木質チップを燃料とする木質バイオマス発電は、山林保全や林業振興にもつながります。バイオマス発電で発生したCO2については、ビニールハウスで野菜の生育を促進することにも再利用できるでしょう(【図表】)。長期的には地熱発電事業なども視野に入れながら、それぞれの地域にとって最適な発電方法を提案できるよう体制を整えていきます」(細川氏)

 

 

【図表】木質バイオマス発電の事業スキーム

出所:西松建設提供資料

 

 

新規事業において、環境・エネルギー領域を基軸としたことで、建設営業の現場で働く社員からも「提案が伝わりやすくなった」という声が上がっているという。

 

西松版ゼロエミッション・シティ構想のような取り組みをもってしても、地域に暮らす人々の価値観は多様であり、合意形成していくことは容易ではない。しかし、「これまでと同じく地域コミュニティーに積極的に参加し、丁寧な対話を重ねながら一緒になって快適なまちづくりを進めていきたい」と、細川氏は未来を見据える。

 

 

※3…将来得られるキャッシュフローの現在価値と投資している資金の現在価値が等しくなる割引率
※4…ベンチャー企業に出資を行う組織

 

 

西松建設 執行役員 環境・エネルギー事業統括部長 細川 雅一氏

 

 

 

PROFILE

  • 西松建設(株)
  • 所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー
  • 創業:1874年
  • 代表者:代表取締役社長 髙瀨 伸利
  • 売上高:3237億5400万円(2022年3月期)
  • 従業員数:3106名(2022年3月現在)