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【特集】

シン・ローカライゼーション

人口減少や少子高齢化、過疎化、産業空洞化などさまざまな社会課題に直面する日本の地方。各地域に特有の課題に寄り添い、地域資源を組み合わせたバリューチェーンを構築することで新しい付加価値を提供する取り組みに迫る。
2023.03.01

「西松版ゼロエミッション・シティ構想」で環境と経済の好循環を:西松建設

西松建設が掲げる「西松版ゼロエミッション・シティ構想」。事業パートナーとの共創を通じて、社会課題解決にも貢献できるビジネスモデルの創出を目指す

 

 

土木・建築の確かな技術で自然環境と向き合い、命を守るインフラの整備に取り組んできた西松建設。あらゆる業種・業態の企業をコーディネートしながら、大規模なプロジェクトを着実に実行してきた「現場力」で環境課題に挑んでいる。

 

 

地域と信頼関係を築いてきた強みを生かして

 

2024年に創業150周年を迎える西松建設は、鉄道・トンネル・橋・空港などの建設によって“道なき道”を切り開き、ダムや発電所など生活環境の基盤となる公共事業を国や自治体とともに手掛けてきた。

 

吸水して膨張する膨張性地山に約20年かけて建設した「鍋立山トンネル」や、世界初の大断面泥水シールド工法で施工した「京葉線羽田沖トンネル」など、土木建設の歴史に名を刻む実績も多い。海外においても、タイやシンガポールなどで社会インフラや民間企業の施設建設を行い、数多くの国や地域と長年にわたる信頼関係を築いてきた。

 

2018年5月、同社は、明治期における日本の近代化、そして、戦後復興と経済成長をけん引してきたゼネコンとしての歴史に新しい変革をもたらすビジョン「西松-Vision2027」を掲げた。少子高齢化や過疎化が急速に進む現代社会において、企業理念に掲げる「培ってきた技術と経験を活かし、価値ある建造物とサービスを社会に提供することで、安心して暮らせる持続可能な社会・環境づくりに貢献する。」をどう実現するのかを、社内外に宣言するためだ。

 

「自社の存在意義をあらためて問い直す中で明確になった指針が、多面的な共創によって環境課題に取り組み、新領域における新たな西松の強みを創出する『Nishimatsu X』です」と、同社の執行役員で環境・エネルギー事業統括部長でもある細川雅一氏は語る。

 

「当社がビジョンとして描く『持続可能な社会』とは、さまざまなリソースがうまく循環し、『自然環境』と『生活環境』の両方をバランスよく守る地域社会です。そのような共創システムの構築は、地域とともに成長してきた当社だからこそ提供できる『新しい価値』だと考えました。現在、『西松版ゼロエミッション・シティ構想』としてビジネスモデルの具現化を進めています」(細川氏)

 

 

2030年までに「CO2ネットゼロ」を実現

 

注目されている事例の1つが、福岡県を舞台にした新しいバリューチェーンの構築である。

 

西松建設は2020年、ベンチャー企業であるLEシステムに追加出資し、大型蓄電池※1の共同開発を加速。2022年4月には、福岡県内の自治体と「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結し、大型蓄電池を用いたEMS(エネルギーマネジメントシステム)や、再生可能エネルギーを地産地消して公共施設で利用する「マイクログリッド」(小規模電力網)の構築を目指すことで合意した。

 

官民連携がスムーズに進む理由の1つとして、細川氏は「首長の力強いリーダーシップ」を挙げる。前述の自治体は、何年にもわたって人口が減少する中、「相互扶助による自立と自治」を目指して能動的に多様な企業と連携し、循環型のまちづくりに奮闘している。

 

「企業と自治体が持続的に連携していくには、互いがWin-Winとなる仕組みが不可欠です。これまで、800を超える自治体が『2050年カーボンニュートラル』を宣言していますが、こちらの自治体では中期目標として、『公共施設のエネルギーの再エネ化』を表明しています。本気度の高い自治体とタッグを組ませていただき、良い方向に進んでいると肌で感じています」(細川氏)

 

同社も2016年に環境省からエコ・ファースト企業として認定を受け、「省エネと“創エネ”の両輪で2030年までに『CO2(二酸化炭素)ネットゼロ』※2を達成する」と約束している。「自治体と企業がともに高い熱量で具体的な目標数値を追っていけるか否かという点は、官民連携の成否を分ける大きなファクターの1つです」と細川氏は続ける。

 

 

※1…レドックスフロー電池。電解液として用いるバナジウムは不燃性で半永久的に使えるため、安全かつ低コストで電力を貯蔵できる。リチウムイオン電池よりも寿命が長い
※2…温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組み

 

 

 

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