営業担当者が求職者に直接コンタクトを取るのは、どのような場面なのだろうか。
「不安や不満を抱えているときは、ロボットではなく人にじっくりと話を聞いて寄り添ってもらいたいですよね。『派遣先の職場で嫌なことがあった』『雰囲気が合わない』『もう辞めたい』。そのような相談は、LINE公式アカウントを経由して営業担当者に直接転送されるように設定しています。CRMのダッシュボード上でLINE登録者と1対1のチャットもできる機能を導入したので、タイムリーにフォローできるようになりました」(中村氏)
さらに現在、就業後も継続的にサポートするプログラム「ランスタッドケア」の一環として、ストレスの深刻化を未然に防ぐ「心の診断アプリ」をテスト導入している。派遣スタッフ約2000名を対象に、毎週金曜の夕方にLINEでアンケートを配信。今の気持ちを「晴れ」「曇り」「雨」「雷」などのお天気マークで回答してもらい、「雨」や「雷」と答えた人には個別にメッセージを送り、丁寧にヒアリングを行う。数カ月で離職率が目覚ましく改善するなど、手応えを感じているという。
「当社では、1人の営業担当者が100人前後の派遣スタッフを担当することも珍しくありません。心の診断アプリを参考に、時を逃さずメリハリのあるコミュニケーションを行えればと考えています」(中村氏)
MAツールを活用した営業DXの成果は、企業とのコミュニケーションにも表れているそうだ。豊富なフィールドセールス経験を生かし、現在はDX部でインサイドセールスの中心的役割を果たす白川真理子氏は次のように語る。
「テレアポや飛び込み営業で新規開拓をしていたころは、顧客に必要なソリューションを導き出す前の段階で、現状把握や基本的なサービス説明に多くの時間を割いていました。MAツールでさまざまなタイプのメールや資料を自動配信し、ダウンロード履歴や開封率を分析するようになってからは、顧客が何を知りたいと思っているのか、どのようなソリューションを求めているのかが把握しやすくなりました。初回面談の際に、すぐ本題に入るケースが増えたと感じています。顧客が問い合わせをしてみようと思い始めた段階に入ってから、初めて人が介在するくらいがちょうど良いのかもしれません」
幅広く配信しているコンテンツの中でも、特に反響が大きいのは白川氏がフィールドセールスで経験してきた実際のエピソードに基づいて書いた記事だ。
例えば、派遣会社での営業経験が10年以上の社員にヒアリングを行い、「派遣スタッフの勤務が続かない職場の特徴」としてまとめた記事は、企業にとって耳の痛い内容ながらも、多くの人に読まれている。また、「従業員に物品を貸与する場合に注意すべきこと」と題した記事は、経営者や管理職であればうなずきたくなる踏み込んだ内容にも触れており、多くのユーザーに読まれたという。
「現場で顧客と何年も対話を重ねてきた人間が書く記事には、他では読めない味が出ると思います。かゆいところに手が届くし、続きが読みたくなる。コロナ禍以降、各社のコンテンツ配信は激増していて、気が付けば何十通も未読メールがたまっているような時代です。差別化は大きな課題ですが、外注に頼り切った数稼ぎのコンテンツ制作ではなく、ネットにあふれている一般的な解説記事では読めないような現場の話題や、営業力を生かした提案型コンテンツをさらに増やし、顧客とのコミュニケーションのきっかけを創出していきたいです。BtoBのセグメントはまだまだ道半ばなので、これからさらに精度を磨いていきます」(中村氏)
ランスタッドが目指しているのは、求職者に選ばれる「エンプロイヤーブランド」(勤務先としての企業の魅力)の向上。今後は、一度離職した人が元の職場に復帰しやすい仕組みづくりなども考えているという。
ただ生産性を向上させ、便利になるだけのDXではもったいない。誰が使うツールなのかに真摯に向き合えば、顧客との信頼関係を築けることを同社が示している。
PROFILE
- ランスタッド(株)
- 所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート21F
- 設立:1980年
- 代表者:代表取締役会長兼CEO ポール・デュプイ、代表取締役社長兼COO 猿谷 哲
- 従業員数:2696名(2022年12月現在)
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