その他 2022.11.01

攻めと守りのDXでファン創造と組織改革を進める:築地本願寺

 

 

 

環境適応を迫られているのは企業ばかりではない。時代に合わせた「開かれた寺」を目指し、リアルとデジタルを融合させながら伝道布教を進める“スマートテンプル”の取り組みを追った。

 

 

動画配信やSNSで新たなご縁を結ぶ

 

2024年に立教開宗800年の節目を迎える浄土真宗本願寺派・龍谷山本願寺(西本願寺)。築地本願寺はその直轄寺院であり、首都圏472カ寺(2022年4月現在)のハブとなる中心拠点だ。

 

「寺」というと企業とはかけ離れた存在と思いがちだが、組織である以上、健全なキャッシュフローを基盤に資産を運営していく重要性は変わらない。家と寺との関係が希薄化し、人口減少も加速する今、戦略的にキャッシュを増やしていかなければ、寺の運営は立ち行かなくなる。

 

そうした危機感から、築地本願寺は首都圏における伝道布教の在り方を抜本的に改革するプロジェクトを発足。2015年11月、10年間の基本計画を策定した。インターネットにつながればどこからでも参加できるオンライン法要やSNS活用、過去の宗派不問の合同墓など、DX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れた大胆な発想で、シニア偏重になっていたコミュニケーションからの脱却を推進。仏教になじみの薄い若者や多忙なビジネスパーソンなど、新しい層とのつながりを着実に広げている。

 

総指揮を執るのは代表役員・宗務長の安永雄玄氏(取材当時、現西本願寺執行長)だ。大手銀行や外資系エグゼクティブサーチ会社勤務を経て、コンサルティング会社の社長として経営トップを支えてきた手腕に白羽の矢が立ち、2015年7月に宗務長に就任した。

 

「かつて浄土真宗本願寺派が飛躍的に拡大できたのは、8代門主・蓮如上人が、当時としては画期的な“飛び道具”で、まったくご縁のなかった地方の人たちと新しいつながりを築こうとしたからです。その飛び道具とは、教えを分かりやすく伝えるために簡単な文章で書いた『御文章』、つまりダイレクトメールです。令和の時代に私たちがYouTubeやInstagramを布教に活用するのと同じと言えるでしょう」(安永氏)

 

築地本願寺が2020年12月に開始した公式SNSのフォロワー数は、2022年8月現在でInstagramが7000人超、Twitterが4600人超と伸び続けている。

 

リアルとデジタルが融合し、社会構造そのものが大きく変わりつつある今、再びこれまでの常識を超えるイノベーションを起こさなければ淘汰されてしまうと現実を見据える安永氏。大切に守り受け継いできた仏教の教え(ビジョン・ミッション)はそのままに、多くの人にとって親しみやすい道具や方法で社会に価値(バリュー)を提供していくことを、寺を挙げて模索している。コンセプトは、いつでも・どこでもつながれるスマートテンプル「開かれたお寺」だ。

 

 

2022年6月に提供を開始した「築地本願寺公式アプリ」。「今月のひとこと」などのコンテンツのほか、本堂の様子や行事などをリアルタイムで視聴できる「おてLIVE」、僧侶に仏事や日頃の悩みなどを相談できる「お悩み僧談所」などを利用できる