コロナ禍よりも以前から営業、マーケティングのDXを進めてきたNEC。「目的」「戦略」を重視したデジタルマーケティングを推進し、事業のさらなる成長を目指している。
デジタルマーケティング導入で大きな成果を上げている企業がある。「DX銘柄2021」に選ばれ、「NIKKEI BtoBマーケティングアワード2021」優秀賞も受賞した日本電気(以降、NEC)である。いずれも先進的なデジタルマーケティングの取り組みが評価された証しだが、そのスタートは2004年までさかのぼる。
NECは同年、オウンドメディアのビジネス情報サイト「wisdom」を開設。その会員データを活用してメールマーケティングに着手した。2015年にはメールマーケティングとテレマーケティングを組み合わせた活動を開始。さらに2016年にはインサイドセールス部門を立ち上げ、テレマーケティングからインサイドセールスにつなぐ体制を構築した。
「確実にデジタルシフトしていたのですが、当社にはさまざまなチャネルから入手した顧客データがあったため一元管理化できておらず、生かし切れていませんでした。
そうした背景があって2019年には、全社的にデジタルマーケティングに取り組むことになりました。その矢先の2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大し、一気にデジタルマーケティングが加速しました」
そう説明するのはIMC統括部主任の田中絵美氏。営業本部と二人三脚でデジタルマーケティングの戦略や施策を担当している一人だ。
IMC統括部はNECのデジタルマーケティングの司令塔として、戦略立案から施策実施までを担当。営業のデジタルシフト推進、デジタルマーケティングやデータ活用の基盤整備、VOC(Voice of Customer)分析、オウンドメディアやイベントの企画運営など、多様なチームが連携し合いながら活動している。
前述のような営業本部との連携によるデジタルマーケティングのほか、IMC統括部ではAI、ネットワーク、生体認証など製品ごとのデジタルマーケティングも推進している。そこで活動するのが、マネージャーの板本真一氏である。
「問い合わせを頂いた段階で、お客さまの検討はすでに進んでいるものです。そのため、いかに検討段階から継続的にアプローチし、顧客として育てていくかがミッションです」(板本氏)
デジタルマーケティング推進に向けて、NECでまず取り組んだのが、社内でバラバラに運用していたデータの一元管理である。メールマーケティングやオウンドメディアなどで入手した顧客情報に、営業部門が保有していた顧客への訪問履歴や受注履歴などの営業情報を融合させることで、リードを可視化した。このリードにタイムリーな情報を提供して接点を持つことで、商談、成約へつなげるわけだ。
デジタルマーケティングを推進する際にありがちなのが、イベントやセミナー開催といった施策から手をつける方法だ。しかしこの場合、いつの間にか施策の実施自体が目的化しかねない。
これに対し、NECでは施策の実施以上に「目的の設定と明確化」、それを実現する「戦略の策定」を徹底している。
「例えば、いくらの売上増を目指すのか、どれぐらい生産性を向上させたいのかといった目的を明確にし、具体的な数字へ落とし込みます。次に、達成するためのペルソナやカスタマージャーニーを設定する戦略立案を行います。そしてその戦略に基づき、ペルソナに一番届きやすい方法でアプローチしていきます。
戦略策定から施策までをマーケティング部門だけでなく、営業部門、製品部門が三位一体となって、互いが腹落ちするまで議論を重ねます。これにより共通認識が生まれ、デジタルマーケティング推進のエンジンになったと感じます。このような取り組みを通じて、営業を介さず、デジタルマーケティングとインサイドセールスで完結する受注モデルが生まれました」と田中氏は言う。
また、施策を実行し、効果が出なければ次の施策を考えるといった試行錯誤を通じ、ペルソナごとの有効な施策が見えてきたという。同社は今後、実践から見えてきたデジタルマーケティング戦略策定の「型」をナレッジ化し、他の製品や業種にも水平展開していく考えである。