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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2023.12.01

異なる機能の施設を隣接させ働き方を変える町づくり:オガール

オガール 代表取締役 岡崎 正信 氏  
過度に国の助成金に頼らない公民連携の町づくりとして、全国から注目を集める岩手県・紫波町の「オガールプロジェクト」。日本一住みやすい町を目指し、町民や従業員の働き方を大きく変えている。
 
「オガールプロジェクト」のもとで建設された官民複合施設「オガールプラザ」
  公民連携事業「オガールプロジェクト」が発足   岩手県盛岡市と花巻市の間に位置する人口約3万3000人の紫波町が全国から注目されている。JR紫波中央駅前には官民複合施設の「オガールプラザ」をはじめ、紫波町役場、民間複合施設、フットボールセンター、バレーボール専用施設、分譲住宅、ホテルなどが隣接。生活に必要な施設が10.7ヘクタールの町有地を中心とした地域に集積し、町民が働き集うエリアとしてにぎわいを見せている。   地方創生の事例として脚光を浴びる紫波町だが、1998年に紫波町が駅前開発事業用地として28億5000万円を投じて購入したものの、町の税収が減って開発計画が頓挫。2000年ごろには降雪時の雪捨て場として使われており、「日本一高いゴミ捨て場」と揶揄されることもあったという。   そんな状況が大きく変わったのが2009年である。地元の建設会社であるオガールが中心となって、公民連携事業の「オガールプロジェクト」をスタートさせたのだ。   「当時、地方の建設業は、自治体などの公共事業を入札で受注することで成り立っていましたが、それでは将来の発展は開けないと考えていました。建設業者も新たに仕事をつくることをしなければ未来はないという思いから、町有地を活用した公民連携のオガールプロジェクトを立ち上げました」   そう振り返るのはオガールの代表取締役の岡崎正信氏だ。大学卒業後、地域振興整備公団(現・UR:都市再生機構)に勤務し、建設省(現・国土交通省)都市局都市政策課に出向するなど、都市開発の専門家として活躍。その後、紫波町の実家が営む建設会社で働き始め、地方の課題を肌身で感じていたという。     産業依存主義と決別し暮らしに重きを置いた町づくり   岡崎氏が「オガールプロジェクト」で参考にしたのは、米国のフロリダで視察したウォルト・ディズニー・カンパニーがつくったセレブレーションという町である。生活に必要な施設・コンテンツが約2万ヘクタールに集約され、住民は豊かな自然に囲まれながら安心して暮らせることで知られ、多くの人々が理想の町として挙げている。また、今でこそミクスドユース(複合利用)という、オフィスや公共施設、商業施設、住宅などの複数の機能が集積した町づくりの考え方が一般的になってきたが、セレブレーションは早くから採用していた。   「オガールプロジェクトを立案するに当たって掲げたのは、セレブレーションのように、紫波町を誰もが住みたいと思う町にすることでした。当時、紫波町は昼夜間人口比率が県内で最も低い町でした。つまり、町内で働く人が少なく、夜間人口に対して昼間人口が少なかった。こうした状況でよく取られる対策は、企業や工場を誘致して雇用を促進して昼夜間人口比率を上げる手法です。   しかし、紫波町の町長と一緒に決めたのは、県内一低い昼夜間人口比率を日本一低くするという真逆の目標でした。つまり、日本一住みやすい町にすることを目標に掲げたわけです」(岡崎氏)   近年、「15-Minute City」(15分の都市)が世界中で注目されている。自宅から徒歩や自転車などの移動で15分圏内に、生活に必要な全ての施設がある町のことだ。オガールは2009年からこの「15-Minute City」を目指したのである。   オガールプロジェクトの町づくりの大きな特徴は、従来の産業依存主義と決別し、機能を補完し合う施設を隣接させることで人が集まり、経済的なメリットが生まれるように工夫を凝らした点にある。   例えば、人が集まるものの維持コストがかかる図書館のような施設と、人が集まることで経済効果が生まれる商業施設を隣接させることで、多くの人が集まるようにして両者とも運営できる仕組みをつくった。   また、どんな地方にも複合体育館はあるが、オガールプロジェクトでは日本初のバレーボール専用体育館を建設。他地域と同じ体育館を建設しても利用頻度が少なく、コストがかさんで運営が難しくなる。そこでバレーボール専用体育館にすることで、地元のバレーボールクラブはもとより、海外のナショナルチームなどにも利用してもらうことで運営コストを捻出している。   「計画ではテナントを誘致しやすいようにさまざまな工夫を施していますが、それだけでは小さな町に企業や団体は来てくれません。計画を実行するため、とにかく頭を下げてお願いをする日々でした。つまり、いかに誘致するかという営業力がないと、実現は不可能です。そういう意味でも官だけでの町づくりを推進するのは難しく、民間の力が必須と言えるでしょう」(岡崎氏) 次世代にたすきを渡し町づくりは続く   オガールプロジェクトによる各施設の建設や誘致には、町民の働き方を大きく変える工夫が施されている。そのうちの1つに、民営保育園と病児保育付き小児科を隣接させるという試みがある。   「どこの地方も同じだと思いますが、経済的な理由から子育て世代は夫婦共働きが当たり前です。しかし、小さな子どもが急に発熱したり、インフルエンザなどの病気になったりした時は、会社を早退して保育園に子どもを迎えに行き、病院に連れて行かなければなりません。   そんなとき、家族に代わって一時的に子どもを看護・保育してくれる病児保育付き小児科があれば、親は安心して終業時間まで働くことができます」(岡崎氏)   現在、オガールプロジェクトで新たに誕生した施設で働く人は約300名に上る。その多くは30~40歳代の働き盛りの世代である。保育園と小児科クリニックの隣接のように、子育て世代の働き方をサポートする工夫により、紫波町の転入者数は、毎年100人ほど増加している。オガールプロジェクトの目標だった「日本一住みたい町にする」に一歩ずつ近付いていると言えよう。   また、オガールは従業員のための集合住宅を建設している。断熱効果を高め、夏は涼しく冬は暖かい年間暖房負荷効率を高めた高性能集合住宅だ。従業員はここに住むことで、快適で経済的にも負担が少ない生活を送ることができる。   この集合住宅には、もう1つ大きな狙いがある。仕事以外のコミュニケーションの場としての活用である。居住希望者同士が協議し、間取りやデザインを企画・建築して造るコーポラティブハウスなのだ。   「人生を豊かにするために重要なのは暮らしです。良い暮らしをするための手段として仕事があるわけですから、まず従業員の暮らしが充実していなければ、良い仕事は望めません。 また、若い人が離職するのは、仕事の不満よりも生活に不安や不満があるケースが多い。特に規模の小さい企業の場合、新卒入社は1名ということも珍しくない。そうすると孤独になって離職するケースが多くなってしまいます。そこで、集合住宅に住むことで、入居者同士のコミュニケーションを促して孤独にならない環境をつくりました。   つまり、仕事をつくれば人が来るのではなく、まずは働く人の生活する環境を整える。それが町づくりとともに働く環境を整備する際の重要なポイントです」(岡崎氏)   現在はオガールの従業員専用の集合住宅だが、将来的には地域の中小企業の従業員が入居できる集合住宅の建設も視野に入れる。実現すれば、地方の中小企業の採用促進や新卒社員の定着にも大きな効果が見込めそうだ。   2009年にスタートしたオガールプロジェクトは、予算も人材も足りないという厳しい状況からの船出で、その後のテナント誘致でも地道な営業活動をしながら歩みを止めなかった。その結果、総務省の「令和元年度ふるさとづくり大賞 個人表彰(総務大臣表彰)」を受賞。オガールプロジェクトによる町づくりの成果を知るために、人口減少や働き手不足という課題を抱える全国の地方自治体などから視察者が絶えない存在になった。   しかし、岡崎氏はオガールプロジェクトを地域再生の「成功例」とは捉えていない。   「町づくりに成功もゴールもありません。確かに現在、紫波町は子育て世代の方が転入して活気が出ています。しかし、現在30~40歳代の働き盛りの世代も、いずれは年を重ねて高齢者になるわけです。つまり、町を取り巻く環境は常に変化し、課題も変わります。   その時に何よりも大切なのは、課題を見つけて解決策を考え、実践できる人材です。そういう問題意識が高く、実行力のある人材を育てていかないと町は廃れていく。ですから次代を担う人材を育て、たすきを渡していくことが私の使命です。そういった意味でも、永遠にゴールがないのが町づくりです」(岡崎氏)   コロナ禍によって人々の働き方は大きく変わった。地方へ転居して豊かな自然の中で子育てをしながらテレワークをする、あるいは観光しながら働く「ワーケーション」といった働き方も登場している。まさに暮らしを優先した働き方が定着しつつある今、地域再生をかけた町づくりにも、豊かで生き生きとした「暮らしづくり」と働き方が問われている  
紫波中央小児科は病児保育室を併設。病気で登園・登校できない子を預かる(上)。日本初のバレーボール専用コートであるオガールアリーナ(中央)。紫波町図書館では企画展や「夜のとしょかん」などオリジナルイベントを開催する(下)
 

PROFILE

  • (株)オガール
  • 所在地 : 岩手県紫波郡紫波町紫波中央駅前2-3-12
  • 創業 : 2013年
  • 代表者 : 代表取締役 岡崎 正信