ホールディングス化による経営基盤の強化、大幅なベースアップ、学び合う企業文化の醸成、グローバル人材の積極採用。建設会社の「働き方改革」に大きな示唆を与えるTAKUMINOホールディングスの取り組みを追った。

建設工事の監督や管理を行う国家資格「1級土木施工管理技士」を保有する若手リーダーの1人であるベトナム人女性。現場管理に育児に奮闘中
M&Aによる経営基盤強化で生産性向上と人材確保
少子化や就労者の高齢化に伴う建設業界の人手不足は深刻だ。そうした中、追い打ちをかけるように2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が建設業にも適用される。特に、人材確保や業務効率化に悩む中堅・中小建設会社が置かれた状況は厳しい。 しかし、そんな状況の中でも、人材の採用・育成・定着や生産性向上を推進し、働き方改革で成果を上げる企業グループがある。橋梁保全・補修、一般土木・道路舗装などを行う土木・土木メンテナンス事業、各種鋼構造物設計・製作・加工や各種溶剤・塗装などの建築・エンジニアリング事業などを手掛けるTAKUMINOホールディングスだ。 同グループの中核企業である小野工業所は、1889年に福島県で創業した約135年の歴史を誇る建設会社である。1994年に株式会社化し、2015年以降はM&Aを繰り返して成長を遂げている。 「2015年に東日本大震災の復興事業が一段落したのですが、当時から人手不足や部材を供給してもらうパートナー不足で苦労していました。事業安定化を考えたとき、部材を安定供給してくれる企業との資本提携は不可欠という考えからM&Aを推進。橋梁部材を製造するテッコー(現・香取ベンダーテクニカルの北茨城工場、東京都大田区)との資本提携を皮切りに、シナジーが見込める複数の企業と資本提携しました。 M&Aを経営戦略として推し進めた背景には、当社の事業の安定化や、後継者不足に直面する会社の事業を継承して後継者問題を解決するという理由の他にも、M&A後の統合効果を最大化するためのPMI(Post Merger Integration)活動を通じて、生産性の向上や人材の確保・育成などを図り、グループ各社の働き方改革を推進するという側面があります」 M&Aを実行してきたTAKUMINOホールディングス取締役グループCFOの香川慶人氏はそう説明する。2019年にホールディングス化し、2023年10月現在で計11回のM&A実績を持つ同社は、土木・土木メンテナンスを手掛ける小野工業所、アラタ工業、木戸建設、香取ベンダーテクニカル、橋梁保全研究所、また建築・エンジニアリングを行う博陽工業、ゼット企画設計、大牟田鉄骨、坂口工業、さらに木材リサイクル事業の河津造園という事業会社10社を擁している。
人材定着のため8.1%のベースアップ敢行
グループ化に当たって同社はPMIを大切にしており、経営ビジョンや組織文化の浸透、人事制度や業務ルール、業務プロセスなどの標準化などに注力している。例えば、グループ各社で異なる人事制度システムを統一することにより、等級制度や評価制度をグループ共通の“物差し”として明文化した。また、それに伴って、賃金制度も地域で競争力のある水準に変えていった。 単独の企業では負担が大きかった採用や人材育成などは、ホールディング会社を中心に取り組むように転換した。具体的には、採用活動に関する情報やノウハウをグループ全体で共有。新卒採用は、就活サイトの活用やインターンシップの開催などで母集団を大きくし、内定承諾の期限は3日間と一般企業より短く設定して内定辞退を減らしている。 また、中途採用については約50のエージェントと提携し、紹介やダイレクトリクルーティングによるスカウトで即戦力の獲得を行っている。事業会社は従来よりも大きな予算で人材の確保と育成ができるようになり、社員のスキルアップや意識改革も進んだという。 さらに、人材の定着施策としては、社員が安心して働けるように福利厚生を充実させている。例えば、同社が毎月2万円を積み立てる確定拠出年金制度を導入。社員は60歳以降に年金としてこれを受け取ることができる。その他にも、業務に必要な知識や資格取得のための費用を同社が負担する資格取得支援制度や、住宅費用を一定額補助する借り上げ社宅制度などを導入し、経済的なサポートを行うことで安心して働ける環境を整備している。 同時に、建設業界で話題となった施策も打ち出した。2022年10月に発表したグループ全体の大幅な賃上げである。 「従業員1人当たり平均8.1%のベースアップを行うことを決めました。大手ゼネコン以外でのベースアップとしては高い方だと考えています。少子化が進む中、良い人材を確保するには、待遇面での魅力も打ち出す必要があることが理由です。また、時間外労働の上限規制適用に向け、各現場で働き方や労働環境の改善に挑んでいる従業員の処遇向上という意味もあって、大幅アップに踏み切りました」(香川氏)学び合う文化を育みグローバル人材を積極採用
社員のスキル向上に関しては、資格取得費用のサポートだけでなく、グループ全体を対象に、デジタル講座とリアル研修のハイブリッド型の教育体系「TAKUMINOアカデミー」を構築している。この企業内大学には500を超える講座があり、各講座は1コマ5~15分。社員はスマートフォンやPCさえあれば、いつでも、どこでも学べるようになった。 講座の内容は、「コーポレートスキル」「ビジネススキル」「テクニカルスキル」の3つに分けられている。コーポレートスキルは、同社グループの一員として知っておくべき経営理念やグループ各社の概要、就業ルール、人事や福利厚生などの各種制度を知るための講座。ビジネススキルは、ビジネスパーソンとして身に付けるべきコミュニケーションやマネジメントなどのスキルを磨くための講座。そして、最も講座数の多いテクニカルスキルは、実務に必要な知識や技術を学ぶためのもので、営業学部・土木学部・生産管理学部・鋼構造学部・技術学部といったように、各事業の商品・サービスの品質向上につながる“学部”を用意している。 「TAKUMINOアカデミーの特長は、講座の豊富さとともに、社員が各講座の講師を務める点にあります。自分が動画を作ることで、分かりやすく伝えるにはどうすれば良いのか、自らも学ぶ効果があります。自分が作った動画が業務の効率化や生産性向上に役立つと体感できますし、教え合い、学び合う文化を育むこともできます。そうした体験が、社員の当事者意識やモチベーションの向上にもつながっていると考えています。 また、デジタル研修に加え、階層別や目的別のリアル研修を開催し、社員のスキル向上と資格取得を支援しています」(香川氏) デジタル講座の一部には、外国語のテロップが入った動画もある。TAKUMINOグループには、ベトナム、タイ、インドネシア、エジプト、フィリピン、バングラデシュなどの国籍を持つ社員が、2023年10月現在で27名在籍しているからだ。少子化が進む日本の現状を考えると、外国人の採用は不可欠という考えから、積極的に採用してきた“人財”であり、施工管理や国際業務に従事する「高度外国人材」も数多く在籍している。 「外国籍の社員の中にはイスラム教徒もいるので、勤務時間中にお祈りの時間を設けたり、食べ物にも配慮したりするなど、彼・彼女らが働きやすい環境を整えています。今後も採用枠を広げるために、ベトナムの大学と提携して現地で当グループの会社説明会を開催するなど、グローバル人材の確保に努めます」(香川氏)最新機器の導入で自動化・省人化を推進
国内外の優秀な人材を採用できる独自の仕組みを構築し、育成や定着につながる制度も充実させることで社員の働き方を変えてきた同社は、生産性向上のため、業務の省人化や自動化にも力を入れている。 例えば、小野工業所では、早くから超速硬コンクリートモービル車を導入している。この車両は、一般的なミキサー車のように材料計量・投入・混合のための待ち時間がなく、素早くコンクリートを供給できるため、工期短縮に大きな効果を発揮する。また、鉄骨加工などには自動溶接機ロボットを使用し、省人化を進めている。 「超速硬コンクリートモービル車は、他社へのレンタルサービスも行っています。どの建設会社も施工の効率化は大きな課題ですから、業界自体を変えていかなければ根本的な解決にはなりません。ある統計によると、このまま人材難が続いたら今後10年間で33万社が存続の危機に陥ると予測されています。そうした事態を回避するためにも、当社は働く環境を整え、その過程で得たノウハウや最新機器を他社にも提供し、業界全体の働き方改革につなげていきたいと考えています」(香川氏) 今後、グローバル人材の採用や定着についても、培ってきた知見を同業他社に提供するソリューションサービスを展開する予定だ。スムーズにグローバル人材を受け入れられるよう、ビザ申請や賃貸住宅契約の補助、日本独自の生活ルールの伝授、日本語サポートなど、さまざまな支援の在り方を伝えていくという。 業界を支える中堅・中小建設会社を支援することで、土木・建設という社会基盤をつくる人材を増やし、経営理念である「持続可能な社会基盤をつくる」の実現に向けて進む同社の歩みは力強い。

2023年秋、2024年春にTAKUMINOグループへ入社する新入社員。国籍はベトナム、バングラデシュ、エジプトとさまざまだ(上)。ベトナムのサイゴン工科大学(Saigon Technology University)と、人材採用に関するアライアンスを2023年に締結(中央)。ベトナム・ハノイで行った大学生向け会社説明会(下)PROFILE
- TAKUMINOホールディングス(株)
- 所在地 : 東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷33F
- 設立 : 2019年
- 代表者 : 代表取締役社長 グループCEO 小野 晃良
- 売上高 : 137億円(連結、2023年6月期)
- 従業員数 : 512名(連結、2023年4月現在)