西松建設が掲げる「西松版ゼロエミッション・シティ構想」。事業パートナーとの共創を通じて、社会課題解決にも貢献できるビジネスモデルの創出を目指す
土木・建築の確かな技術で自然環境と向き合い、命を守るインフラの整備に取り組んできた西松建設。あらゆる業種・業態の企業をコーディネートしながら、大規模なプロジェクトを着実に実行してきた「現場力」で環境課題に挑んでいる。
地域と信頼関係を築いてきた強みを生かして
2024年に創業150周年を迎える西松建設は、鉄道・トンネル・橋・空港などの建設によって“道なき道”を切り開き、ダムや発電所など生活環境の基盤となる公共事業を国や自治体とともに手掛けてきた。
吸水して膨張する膨張性地山に約20年かけて建設した「鍋立山トンネル」や、世界初の大断面泥水シールド工法で施工した「京葉線羽田沖トンネル」など、土木建設の歴史に名を刻む実績も多い。海外においても、タイやシンガポールなどで社会インフラや民間企業の施設建設を行い、数多くの国や地域と長年にわたる信頼関係を築いてきた。
2018年5月、同社は、明治期における日本の近代化、そして、戦後復興と経済成長をけん引してきたゼネコンとしての歴史に新しい変革をもたらすビジョン「西松-Vision2027」を掲げた。少子高齢化や過疎化が急速に進む現代社会において、企業理念に掲げる「培ってきた技術と経験を活かし、価値ある建造物とサービスを社会に提供することで、安心して暮らせる持続可能な社会・環境づくりに貢献する。」をどう実現するのかを、社内外に宣言するためだ。
「自社の存在意義をあらためて問い直す中で明確になった指針が、多面的な共創によって環境課題に取り組み、新領域における新たな西松の強みを創出する『Nishimatsu X』です」と、同社の執行役員で環境・エネルギー事業統括部長でもある細川雅一氏は語る。
「当社がビジョンとして描く『持続可能な社会』とは、さまざまなリソースがうまく循環し、『自然環境』と『生活環境』の両方をバランスよく守る地域社会です。そのような共創システムの構築は、地域とともに成長してきた当社だからこそ提供できる『新しい価値』だと考えました。現在、『西松版ゼロエミッション・シティ構想』としてビジネスモデルの具現化を進めています」(細川氏)
2030年までに「CO2ネットゼロ」を実現
注目されている事例の1つが、福岡県を舞台にした新しいバリューチェーンの構築である。
西松建設は2020年、ベンチャー企業であるLEシステムに追加出資し、大型蓄電池※1の共同開発を加速。2022年4月には、福岡県内の自治体と「脱炭素社会の実現に向けた包括連携協定」を締結し、大型蓄電池を用いたEMS(エネルギーマネジメントシステム)や、再生可能エネルギーを地産地消して公共施設で利用する「マイクログリッド」(小規模電力網)の構築を目指すことで合意した。
官民連携がスムーズに進む理由の1つとして、細川氏は「首長の力強いリーダーシップ」を挙げる。前述の自治体は、何年にもわたって人口が減少する中、「相互扶助による自立と自治」を目指して能動的に多様な企業と連携し、循環型のまちづくりに奮闘している。
「企業と自治体が持続的に連携していくには、互いがWin-Winとなる仕組みが不可欠です。これまで、800を超える自治体が『2050年カーボンニュートラル』を宣言していますが、こちらの自治体では中期目標として、『公共施設のエネルギーの再エネ化』を表明しています。本気度の高い自治体とタッグを組ませていただき、良い方向に進んでいると肌で感じています」(細川氏)
同社も2016年に環境省からエコ・ファースト企業として認定を受け、「省エネと“創エネ”の両輪で2030年までに『CO2(二酸化炭素)ネットゼロ』※2を達成する」と約束している。「自治体と企業がともに高い熱量で具体的な目標数値を追っていけるか否かという点は、官民連携の成否を分ける大きなファクターの1つです」と細川氏は続ける。
※1…レドックスフロー電池。電解液として用いるバナジウムは不燃性で半永久的に使えるため、安全かつ低コストで電力を貯蔵できる。リチウムイオン電池よりも寿命が長い
※2…温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする取り組み
2019年竣工の河内川ダム(福井県、左)、1995年竣工の鍋立山トンネル(新潟県、右)
請け負いからパートナーへ共同出資で収益性を追求
これから自治体との事業を進めていく経営母体は、共同出資により設立する特別目的会社(以降、SPC)だ。SPCは、特定の資産を裏付けとした有価証券を発行するために設立された法人で、一般的な入札制度のように「発注者」と「請負事業者」という関係性ではなく、官民ともに出資者として収益性を追求できる。
また、金融機関や投資家から資金調達を行えるため、自治体は多額の建設費を公金から支出しなくてもよい。企業としても、業績の良し悪しが他事業にまで波及するリスクを回避できる。SPCの設立により、官民協働による環境事業そのものの収益性が見えやすくなるのだ。
今後、西松建設の環境・エネルギー事業で問われるのは、2023年に山口県で着工予定の再生可能エネルギー発電所をはじめ、共創した資産をどう有効運用していくかという点である。
「IRR(内部収益率)※3など投資リターンの指標が問われることになるため、その目標値に見合う事業を創出していく方針です。常に新たな可能性も視野に入れながら、ポートフォリオ全体でハードル・レート(必要最低限の利回り)を超えることができる仕組みを確立したいと考えています」(細川氏)
また、ESGに対する関心の高まりを背景に、環境事業の価値が上がり、需要は着実に増えている。
「以前は『環境事業=奉仕』というイメージが強く、どちらかといえば『利益度外視で取り組むべき社会貢献』という先入観があったかもしれません。しかし、近年は政府主導のFIT・FIP制度(再生可能エネルギーの買取制度)など事業参入しやすい仕組みも整ってきましたし、環境に貢献している企業へ積極的に投資していこうという潮流も生まれています。こうした変化により『利益追求』と『社会貢献』の歯車が噛み合い、CSV(共通価値の創造)として取り組みやすくなりましたね」(細川氏)
ベンチャー企業の技術をまちづくりに展開
西松版ゼロエミッション・シティ構想の実現に向けた新規事業を創出するため、西松建設では2027年度までに200億円規模の投資を行う予定だ。そのうち30億円は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)※4として実施するベンチャー企業への投資である。資金面のみならず、優れた技術をまちづくりに広く展開する地域連携の支援にも一役買っている。
2022年8月には、バイオガス発電事業の企画・開発・運営を行うアーキアエナジー(東京都港区)に出資を決めた。
「地域が抱えるさまざまな課題が、別の地域課題の解決に役立つような循環型のまちづくりを提案していきたいです。例えば、メタン発酵バイオガス発電の燃料は生ごみや紙ごみなどであり、ごみ処理の付加価値向上に貢献できます。
また、間伐材や林地残材で作った木質チップを燃料とする木質バイオマス発電は、山林保全や林業振興にもつながります。バイオマス発電で発生したCO2については、ビニールハウスで野菜の生育を促進することにも再利用できるでしょう(【図表】)。長期的には地熱発電事業なども視野に入れながら、それぞれの地域にとって最適な発電方法を提案できるよう体制を整えていきます」(細川氏)
【図表】木質バイオマス発電の事業スキーム
出所:西松建設提供資料
新規事業において、環境・エネルギー領域を基軸としたことで、建設営業の現場で働く社員からも「提案が伝わりやすくなった」という声が上がっているという。
西松版ゼロエミッション・シティ構想のような取り組みをもってしても、地域に暮らす人々の価値観は多様であり、合意形成していくことは容易ではない。しかし、「これまでと同じく地域コミュニティーに積極的に参加し、丁寧な対話を重ねながら一緒になって快適なまちづくりを進めていきたい」と、細川氏は未来を見据える。
※3…将来得られるキャッシュフローの現在価値と投資している資金の現在価値が等しくなる割引率
※4…ベンチャー企業に出資を行う組織
西松建設 執行役員 環境・エネルギー事業統括部長 細川 雅一氏
PROFILE
- 西松建設(株)
- 所在地:東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー
- 創業:1874年
- 代表者:代表取締役社長 髙瀨 伸利
- 売上高:3237億5400万円(2022年3月期)
- 従業員数:3106名(2022年3月現在)