46万m2という広大な土地で展開する「ろまんちっく村」
未利用な地域資源に新たな価値を創造し地域を再活性化する取り組み事例。大谷石の採石場跡地を活用した「OHYA UNDERGROUND」ツアーは半年待ちになることも
年間140万人超、延べ2500万人が訪れる「道の駅」を拠点に、地域ブランドの創造や着地型観光体験プログラム、クラフトビールの自社開発など、総合的な「農と食」の支援事業を、地域商社として展開。地域創生のお手本といわれる先駆者が語る「地域を活性化するビジネスに、本当に大事なこと」とは。
東北復興を目指してワイナリーづくりに奔走
東京ドーム10個分、46万m2の広大な敷地の「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)。農産物直売所、新鮮な食材を味わう飲食店、体験農場、森林回遊、温泉や宿泊施設も併設するこの「農と食の滞在体験型ファームパーク」は、ファーマーズ・フォレストが運営する地域経営・交流の拠点だ。創業者で代表取締役の松本謙氏は、地方創生の旗手として注目を集めるが、始まりは意外にも「ロマン」にあった。
自動車メーカーの新車開発部門から、施設の維持管理運営や不採算施設を運営面で再生させるビジネスへと転身を遂げた松本氏。宇都宮市農林公園の経営難に苦しむ第三セクターを解体し民間運営への移行を進めるために現地へ足を運んだとき、目の前に広がる46万m2の里山の光景に心を奪われた。
「これだけのスケール感ある施設を生かすビジネスモデルを、自分の思いでつくるチャンスはなかなかないと思いました。再生だけで終わらず、長い間しっかりと運営できる100年企業になる仕組みをつくり、付加価値を高めて地域に貢献したい。そんな思いから、無謀を承知で自らエントリーし、独立して事業会社を立ち上げました」(松本氏)
再生ビジョンでこだわったのは、都市と農村の交流施設という世界観への原点回帰だ。「農村の日常=都会の非日常」である不便さを体験する喜びや、旬の味や買い物を楽しむ時空間の価値をコンテンツ化。「おいしい楽園」をテーマに掲げ、魅力あるサービスに統一し提供する仕組みづくりを推進。入場料は無料にした。
また、テナント制から原則直営化へかじを切り、コストを抑える原価統制にも注力。再生へのテイクオフは1年後の2009年には安定飛行を始めた。しかし、松本氏は強い危機感を抱いていたと言う。
「農産物直売に関わる地域の生産者や事業者をまとめていこうと、『私たちに任せてもらえれば、皆さんの生活は守っていきます』と話したところ、当初は総スカン状態でした。
私は栃木県外から来たよそ者で、言わば黒船。『農家や地域ビジネスとも無縁だったお前に何ができるんだ』という地域の排他性からくるものです。採算を取るだけでは、いずれ私たちが不要になる日がやってくる。このままでは100年企業になれないと思いました」(松本氏)
悩み抜いた末にたどり着いたのが「自分たちの存在意義と役割分担の明確化」だ。地元の人が課題と感じていないこと、良いものを良いと知らないまま付加価値を生み出せていないこと。よそ者だからできる、地域課題解決型の事業をビジネスにすることで、地域のインフラとして本当に必要とされる存在になっていけば良いと気付いた。
「何を言っても否定され、理解してくれない。地域って本当に面倒くさいなあと思うようなことも時々ありましたが、私たちは率先する旗振り役であって、無理にまとめ役にならずファシリテーターのような役割を担おうとしました。
できることから地道に小さな成功体験を積み上げ、自治体や地域と役割分担したのです。すると、次第に相乗効果が生まれ、事業がサステナブルな環境に変わり、地域の賛同者も増えるようになりました。『地域商社』モデルの構想を描き出したのはそれからです。明確な役割を持ち、自分のスタイルを貫きながら、一気に加速していきました」(松本氏)
ファーマーズ・フォレスト 代表取締役 松本 謙氏
総合事業で利益を稼ぎ「出口戦略」を推進
始動した地域商社のビジネスモデルは、6次産業化の創造拠点として地域のあらゆる課題解決の仕組みをつくり、ものづくり(農業)、人づくり(食農体験・食育)、まちづくり(商流や観光の融合)の総合事業を展開するというものだ。その理由を松本氏は次のように説明する。
「狭い地域で農産物の流通に限定したモデルをつくろうと活性化ビジネスに挑む人もいます。ただ、季節性の影響を受けやすく、しかも薄利多売なので膨大な量をカバーしないと、組織が存立するだけの稼ぎを得ることは不可能です。
私たちは栃木県全域で、商流だけでなく体験交流や観光、プロデュースなど幅広い事業モデルを直営で手掛けています。また、大きく量を取る『額を稼ぐモデル』と、『率を高めるモデル』を混在させた総合事業化により利益を生み出し、経営を成立させているのが特徴です。地域ビジネスの成功には、スピード感と一定のスケール感が必要で、事業全体をどう構成するかを考えることが重要です」
生産者と消費者をつなぐラストワンマイルの物流を直営化したのは、遠方の農産物を届けにくい課題を解決するためだ。コストセンターとなっても、結果的に数多く売ることが可能になった。
ご当地ならではの魅力を体験する着地型観光ツーリズムも手間がかかる事業だが、一方で熱狂的なリピーターが次々と誕生。そして薄利多売で売上高を稼ぎつつ、コンサルティングなど生産性と利益率が高いサービスも併せ持つ「額と率の混在モデル」は、多様なノウハウが蓄積できるメリットも大きい。
総合事業化とともにもう1つ、重視することがある。生産振興と両輪を成す「出口戦略」だ。
「商材を右から左へ動かすだけでは、地域商社の役割は果たせません。生産者や事業者が望む商流を実現し、パッケージ変更やハイエンドを狙うターゲット設定など、ブラッシュアップもフィードバックしながら、出口起点でアドバイスする目利きやマーケティング機能が必要です。
あらゆる地域の課題や要望を引き受ける一元的な窓口、インターフェースとなって、大小さまざまな出口のアウトプットを導き出すのが、私たちのミッションです。『本当に売れる仕組みと、自ら選べる市場環境の選択肢をつくりましょう』といつも心掛け、また言い続けてきました。それなくしては、継がせたくなる農業になりませんからね。大胆なイノベーションを本当に望んでいるのは、実は地域の生産者や事業者なんです」(松本氏)
商品やサービスが展示物にならず、消費され、利用されるイメージをしっかり持ちながらプロデュースし、生産者や事業者も自らがプレーヤーになって考え、付加価値を高めていく。そんな出口戦略が、自走できる地域活性化へのアプローチになっている。
「地域の何でも屋さんになり、面倒くさいことを生業にする希有なモデルですが、それがノウハウとなり参入障壁にもなっています。中途半端にせず愚直に向き合い、なるべく短期で成果も残すようにしています。地域に認められ私たちの存在価値の実感を得た時に、新たな地平が拓けるでしょう」(松本氏)
創業10周年となる2017年に刷新した企業理念は「ローカルビジネスフロンティア」。地域ビジネスの新たな地平の開拓者となり、先例のない道をつくりフロンティアへと導く姿へ、同社は着実にアップデートを遂げている。
旗振り役から「地域の自分事化」の伴走者に
独自の地域商社モデルは、沖縄最大級の産直複合施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)や、2022年4月に開業した「道の駅ふくしま」(福島県福島市)など、栃木発で全国へと波及し始めている。
「スタッフは100%地域雇用ですし、地域のリソースを活用したコンテンツがあって、結んだりつながったりと地域を巻き込み、場をつくることで私たちは存在できます」(松本氏)
地域間の商流や地域同士を結び付ける仕組みとロジック。人と人が共感し、同じ思いを胸に抱くつながり。大量生産型のサプライチェーンとは違い、生産者や事業者、自治体交流も含めた地域間のバリューチェーンがつながる「広域ローカル経済圏」を創り出そうという展望だ。トライ&エラーの挑戦だが、すでにうるま市で製造するEV(電気自動車)が、観光渋滞を解決し周遊性も高める宇都宮市のグリーンスローモビリティー事業に採用された。栃木のいちごを沖縄で、沖縄のマンゴーを栃木で販売する、名産品の双方向の商流も生まれている。
「全国でさまざまな地域ビジネスや人が動き出しているので、そのネットワークをつなぐプラットフォームをつくりたいという思いがあります。さらに、大手企業・商社ともうまくコラボすれば、全国からさらにグローバルへと、地域活性化のモデルが広がっていくと確信しています」(松本氏)
地域性や伝統的な食文化に違いはあっても、本質的な課題には共通点が多いと語る松本氏。地域のあらゆる課題を解決していく中で、あえて「何をしないか」の見極めについては次のように語る。
「地域が活性化する原動力、エンジンになると言い続けてきましたが、最近はあまり言わないようにしています。私たちが強力なエンジンになり過ぎると、地域にとって他人事になってしまい『任せておけばいいや』という依存心が生まれるからです。
私たちがつくりだすインフラを、地域の人が自分たちで考え、どんどん活用してくれる。そんな理想を思い描いています。先陣を切るイノベーションで私たちが道を示した後は、良い距離感とバランスを取りながら、地域の方々と伴走する立ち位置でいることを大事にしています」(松本氏)
自社が100年企業であり続けながら、地域も100年続いていく姿になる。旗振り役から、地域が自走する伴走者にもなる同社の物語は、新たな1ページをつづり続けていく。
高速道路IC隣接の「道の駅ふくしま」。屋内子ども遊び施設併設の日常と観光のハイブリッド拠点
2018年にオープンした沖縄県うるま市の「うるマルシェ」スタッフと松本氏(前列中央の左)
PROFILE
- (株)ファーマーズ・フォレスト
- 所在地:栃木県宇都宮市新里町丙254
- 設立:2007年
- 代表者:代表取締役 松本 謙
- 売上高:30億円(2022年3月期)
- 従業員数:318名(2023年1月現在)