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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2022.12.01

クロスボーダーM&Aと日本企業のグローバル戦略 グローウィン・パートナーズ

日本企業のグローバル戦略とクロスボーダーM&A:グローウィン・パートナーズ    

あらゆる日本企業が、グローバル経済のダイナミクスの渦中にあると自覚させられた2022年。海外進出はVUCA時代における事業戦略の一環として標準化しつつある。

   
「現状維持」の企業は減少傾向
  新型コロナやウクライナ危機を契機に世界経済が根底から揺さぶられ、各国企業はカントリーリスクの再評価を迫られる事態となった。とはいえ、人口減少に伴う日本市場の縮小傾向が自明である以上、多くの日本企業が「海外進出をこれ以上先送りにするわけにはいかない」という現状認識を持っている。   アジア・欧米の幅広いネットワークと知見を生かし、海外戦略の立案・実行支援コンサルティングを一気通貫で手掛けているグローウィン・パートナーズのファイナンシャル・アドバイザリー事業部海外FA部部長の田内恒治氏は、次のように語る。   「日本企業の海外進出に対するマインドは、コロナ禍の影響で一時的に減少したものの2021年には回復し、2022年に入ってからはクロスボーダーM&Aの案件が着実に増えている印象です。   一方、採算悪化により海外事業を縮小・撤退する企業も増えていくと予想されます。現状の円安感や日本経済の安定性を考えると、今後はアウトイン案件※1も増えていく可能性がある。いずれにせよ『現状維持』の日本企業は減少していくでしょう」   海外進出の目的は企業によりさまざまだが、主に次の4パターンがある。   パターン1:市場拡大   輸出製品の販売拠点を構えて現地マーケットの獲得を目指す   パターン2:顧客追随   顧客からの要請で現地での製品供給を開始する   パターン3:生産移転   人件費や輸送費のコストダウンを追求する   パターン4:国際分業   内需企業からグローバル企業への飛躍を目指す   田内氏によると、目的の多くはマルチナショナル※2またはメタナショナル※3で事業を拡大するというよりも、国内を中心に構築してきた事業モデルを海外にどう水平展開していくかがポイントになる。最大の懸念は、海外の独特な市場環境を正しく認識しないまま、進出の意思決定をしてしまっている企業が少なからず見受けられることだという。    
日本での成功モデルを前提にするのは危険
  「過去20年間もマイナス成長が続き、人件費や物価がほぼ横ばいの日本と、1年単位で大きく変化している海外の国々では、事業環境がまったく違います。特に意思決定や行動を起こすまでのスピード感覚は、日本とかなりギャップがあると認識しなければなりません。   基本戦略は変えないにしても、一度決めた計画に固執しすぎず、その時々の最適解を見極めながらスピーディーに進めていく柔軟性が求められると思います」(田内氏)   海外事業を始める際に検討すべき特殊性は次の3つだ。   ポイント1:制約条件   国により制度・文化が異なるため、独自の制約条件が存在する   ポイント2:事業環境   社会課題・市場環境を理解した上で、事業性を見極める必要がある。国内とは異なる競争環境に注意   ポイント3:方針   誰と、いつ、どうやって始めるのか。撤退基準や組織のガバナンス課題にも留意する   「まず、国ごとの制度や文化の違いを十分に理解することが大前提となります。東南アジアには100%自社で運営できない国もありますし、投資規制により許可されない事業や国内企業が優遇される事業モデルも存在する。そのような制約条件を1つずつクリアしながら、日本国内で培った強みを発揮できるエリアを見極め、最適な事業モデルをつくっていくことが大切です」(田内氏)   マクロ環境は、短期的には影響がないにしても、中長期で見ると大きなインパクトがあると田内氏は指摘する。例えば、ヨーロッパでは中小企業の取引においてもESG(環境・社会・ガバナンス)への意識が確実に高まっている。案件によっては人権や環境などに関するデューデリジェンス※4をしておかなければ企業価値にも影響を及ぼし、将来的なシナジーを十分に生かせない可能性すらある。   また、グローバルトレンドの1つとしてEV(電気自動車)の普及もしっかりと念頭に置く必要があるという。   「政策主導で進められている以上、EVシフトは避けて通れません。物流面をはじめ全方位的に意識しておいた方が良いでしょう。給電ステーションの在り方、課金の仕組み、車両の保有形態など、10年、20年のスパンで見ると世界的な構造転換が起こり得るからです」(田内氏)   事業環境の綿密な調査・分析も重要となる。グローバル市場では、直接的なライバルではないが、製品やサービスの軸が違うところで自社と共通する最終消費者のニーズを満たしている「見えない競合他社」の存在にも注意が必要だ。   基本的な経済成長率のギャップから、パートナー候補のバリュエーション(企業価値評価)が高めに算出されることも珍しくない。国内M&Aと同じ姿勢で臨むと、交渉相手との肌感覚のズレが露呈してしまうこともある。日本とは異なる現地の社会課題や事業環境を入念に調査し、海外ならではの事業環境をしっかりと分析した上で、パートナー候補を絞り込んでいくことが大切である。   「必ずしも最初からゴールに向かう必要はなく、少しずつ発展させていく道もあります。例えば、事業提携から始めて段階的に出資を増やし、最終的に100%買収する方法や、まずは独資で会社を立ち上げ、一定のオペレーションをした後、事業拡大に向けてパートナーを買収していくケースも考えられます。アライアンス戦略とクロスボーダーM&Aは、どちらも海外進出の有効な手段です」(田内氏)   進出のアプローチ方法は多様だが“案件ありき”で始めてしまうと引き下がれなくなる。成否の鍵を握るのは【図表】の「プレM&A戦略」だ。まずは、M&A後の海外事業当地の観点から全体のプロセスを見渡した上で計画を立てる。法制度や習慣の異なる海外での事業運営は、国内子会社管理よりも計画的に進める必要があることを忘れてはならない。     【図表】プレM&A戦略の重要性 【図表】プレM&A戦略の重要性 出所:田内氏提供資料よりタナベコンサルティング作成     事業環境について理解を深めた後は、事業計画や予算の策定、ガバナンス体制、マネジメントの仕組み、計画通りにいかなかった場合の撤退基準など、方針を明確にしておくことが大切である。   「国内M&Aとは違って、海外事業は買収後も常に親会社のコミットメントが不可欠です。そのため、買収を検討し始めた段階から買収後の経営モニタリング手法を十分に検討しておく必要があります。M&A実行後にやるべきことを明確化し、ロードマップを策定しておけば、地に足のついたグローバル展開が期待できるでしょう」   田内氏がそう話すように、クロスボーダーM&Aは事業戦略の一環なのだ。     ※1…海外企業が日本企業を買収するM&A ※2…各国の現地法人が独自の経営方針・経営資源で事業を運営し、独立した経営を行う組織形態 ※3…各国で蓄積した経営ナレッジ(知識・情報)を有効活用し、グローバルな優位性を確保していく経営 ※4…譲渡対象企業に対する事前調査         海外で実現したいことは妥協せず、貫く。 「在りたい姿」の軸さえブレなければ、伸びる可能性が高まります 日本企業のグローバル戦略とクロスボーダーM&A:グローウィン・パートナーズ田内恒治氏 グローウィン・パートナーズ(タナベコンサルティンググループ) フィナンシャル・アドバイザリー事業部 海外FA部 部長 田内 恒治氏    
企業理念で響き合えるパートナーの探索を
  海外事業の拡大にクロスボーダーM&Aを積極活用する企業が増え始めたのは、2016年ごろからだと田内氏は言う。シナジー(相乗効果)を存分に発揮できている企業は、次に挙げるクロスボーダーM&Aのメリットを自社の事業戦略に落とし込むことに成功していると分析する。   メリット1:成長市場へのアクセス   現地企業でなければ知り得ないノウハウを入手できる   メリット2:売上創出への時間短縮   中期経営計画など時間的なリミットがある中で、海外事業比率を上げたい場合に有効である   メリット3:投資額が明確   必要な投資額と、それに伴う売上高が明確なので戦略を立てやすい   メリット4:撤退時のオプション   見通しが外れた場合に売却しやすい   「具体的な成功事例としては、非日系優良顧客へのサービス提供体制をタイで確立したいという明確な目的のもと、ロングリスト※1から非上場オーナー企業を発掘し、マイノリティー投資※2で事業提携を実現したケースが挙げられます。ローカル化した事業モデルが評価され、結果的に日系企業からの引き合いも増加しました。また、将来的なアフリカ市場への進出を見据えてフランスの小規模企業を買収し、ノウハウと顧客の取り込みに成功したケースもあります。   どちらも外部からの持ち込み案件ではなく、能動的にM&Aを提案できる相手先候補を絞り込み、未来の自社の在りたい姿から逆算して、企業理念や価値観が自社に近いパートナーを探し当てたことが功を奏しています」(田内氏)   買収後のPMI(経営統合プロセス)においては、形式的に取締役を派遣して現地任せにしてしまうとガバナンス強化を図れないため、継続的なコミュニケーションが重要になる。ここで気を付けたいのは、さまざまな文化の差異を混同しないことだ。   「一言で『文化』と言っても、その国や地域の文化なのか、企業の文化なのか、それとも個人の文化なのか。丁寧にすみ分けて理解していくことが大切です。差異が表面化してきたら、互いに歩み寄りつつも、自社が海外で実現したいことに対しては妥協せず、貫く。『在りたい姿』の軸さえブレなければ、伸びる可能性が高まります」(田内氏)   単一言語・単一文化でビジネスを展開してきた企業にとって、海外進出はハードルが高いと感じるかもしれない。しかし、スモールステップでトライアンドエラーを繰り返しながら、自社なりの「海外展開の型」を磨き上げていくことが大切なのだ。     ※1…M&Aを検討している企業の相手方となる候補先企業(譲渡企業から見ると買い手候補先、譲受企業から見ると売り手候補先)のリスト ※2…株式の過半数を超えない投資のこと。マジョリティー投資により経営権を渡してしまうことをためらう経営者も、マイノリティー投資なら抵抗が少ない