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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2021.07.01

由紀ホールディングス:各社がものづくりに専念できるホールディング経営 由紀ホールディングス

グループ会社が持つ優れた技術の消滅を防ぎ、先端産業に応用する由紀ホールディングス。各社の個性を重んじ、開発を重視する「YUKI Method(由紀メソッド)」で、グループ全体の経営基盤を安定させ、技術開発に注力できる環境をつくっている。

   

小会社の個性を生かすホールディング経営

  ルイ・ヴィトン、ディオール、ヘネシーなど、ファッションから香水、宝飾、酒類などさまざまな分野の有名ブランドを抱えるフランスのホールディング会社のLVMH(エルヴェエムアッシュモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)。そんな世界的グループ企業を標榜する日本の中小企業グループがある。精密切削加工、電線・ワイヤーハーネスの製造などを手掛けるものづくり企業12社が参加する由紀ホールディングス(以降、由紀HD)だ。   一見すると、ファッション・宝飾分野と工業部品は結び付かない。だが、「目指すべきホールディング経営の在り方がLVMHにある」と、同社代表取締役社長の大坪正人氏は語る。   「LVMHは100年の歴史を超える一流ブランドが集まり、各社の個性や伝統を生かしながら生産性の向上や情報発信力を強めることで、グループ全体の競争力を高めてきました。当社もグループ各社が独自の技術を持っており、それらの技術を継続的に発展できるホールディング経営を目指しています」(大坪氏)   グループ企業は計12社(【図表1】)。各社が長年にわたって受け継いできた技術を伝承し、発展させるという目的を由紀HDが担っている。   【図表1】グループ企業一覧 【図表1】由紀ホールディングスのグループ企業一覧 出所:由紀ホールディングス
提供資料よりタナベ経営が作成
  大坪氏は2017年に由紀HDを設立し、翌18年には明興双葉など計8社を率いるVTC-MHD(VTCマニュファクチャリング・ホールディングス)の発行済み株式の70%を取得する形で買収。当時VTC-MHDを率いていた是松孝典氏(2021年4月にVTC-MHD代表取締役を退任)から、ものづくりに対して同じ思いを抱く大坪氏にバトンを渡す形で事業を継承した。     3分以上回り続ける「精密コマ」。もともとは由紀精密の定番ノベルティーグッズだったが人気を呼び、今ではネットショッピングで人気商品となっている 3分以上回り続ける「精密コマ」。もともとは由紀精密の定番ノベルティーグッズだったが人気を呼び、今ではネットショッピングで人気商品となっている    

グループ会社を支える仕組み「YUKI Method」

  由紀HDの設立は2017年だが、大坪氏はその10年以上も前から「ものづくり企業のホールディング経営化」の構想を温めていたという。   大坪氏が由紀精密に入社した2006年当時、同社は経営危機に陥っていた。その立て直しを図るために、大坪氏は在籍していたエンジニアリングサービスのインクス(現SOLISE、東京都千代田区)を退職し、由紀精密に入社した。   入社後は新たに開発部門を立ち上げ、同社に蓄積されていた高い技術力を生かして航空・宇宙部門、医療部門を新規開拓。少しずつ収益を改善した。そして由紀精密の経営が軌道に乗った2017年、温めていた構想の実現に乗り出したのだ。   「前職のインクスは、高速金型事業でものづくりに変革を起こしたベンチャー企業です。在籍時には野村證券のグループ会社と連携し、『雷鳥ファンド』と呼ばれる金型革新ファンドを運営していました。ファンドと言ってもキャピタルゲインを重視するのではなく、優れた技術を持つ金型企業に出資し、技能の伝承や経営改善を図る活動を行っていました。出資することで事業を再生していく考え方に共感していたので、ホールディング経営では同じことを目指しました」(大坪氏)   この初志を貫くために構築したのが、「YUKI Method」である。資本や人材に限りがある中小企業で、管理部門を抱えながら製品づくりを行うのは難しい。そこで、【図表2】のように、資金調達、事業戦略、人財採用・HR、企画広報・デザイン、製品開発、製造技術開発、システム・IT・IoT、営業戦略・海外展開の各部門を由紀HDが担当し、グループ各社を下支えしている。   【図表2】由紀ホールディングスの機能をプラットフォームとして各社が活用(YUKI MethodTM) 【図表2】由紀ホールディングスの機能をプラットフォームとして各社が活用(YUKI MethodTM) 出所:由紀ホールディングス提供資料よりタナベ経営が作成     「グループ会社によって組織体系や状況も異なるため、一律ではなく各社の状況に合わせた支援が必要です。現在は実証実験ベースでYUKI Methodを構築しています」(大坪氏)      

シナジー効果で新製品・技術を生み出す

  YUKI Methodの最大の特徴は、製品開発と製造技術開発もホールディング会社が担う点だ。新しい製品開発や技術開発についても同社が先頭を切り、バックアップの機能を担っている。   大坪氏が由紀精密の立て直しに成功した要因は、開発部門の立ち上げと航空・宇宙分野への参入だった。由紀精密時代に計画したこの成長戦略をグループ各社でも目指すという考え方だ。   「もちろん、各社の技術力を把握した上で進めています。すでに当社との連携で、新しい製品や技術が生まれています」(大坪氏)   グループ会社の1つである明興双葉は電線・ワイヤーハーネスの製造会社で、0.05mmという髪の毛よりも細い線を連続的に加工できる量産伸線技術に長けている。一方、由紀精密の取締役社長である永松純氏は、かつて「超伝導科学技術賞」を受賞したほどの超伝導領域の分野の専門家。この2つの分野を融合させて生まれたのが「超伝導ワイヤー」の研究開発プロジェクトである。医療機器、船舶・航空機、自動車のモーターなど幅広い分野への供給を狙い、将来的に応用展開されれば、大きな売り上げを生む製品として期待されている。   そのほかにも、明興双葉の小ロット・多品種・短納期という企業特長が宇宙衛星向け部品の要求特性と一致していることから、由紀精密の顧客であった宇宙ベンチャー企業に対して営業活動を行い、地上テスト用ハーネスの受注に至っている。   グループ化によるシナジー効果だけではない。各社の製品や新技術の開発に対する意欲もより強くなった。例えば、由紀精密ではかねてより開発していた高品質のアナログレコードプレーヤーを発表し、「YUKISEIMITSU AUDIO」ブランドを立ち上げた。オーディオ雑誌の表紙に掲載されるなど、目の肥えたオーディオマニアの垂涎の的となっている。   さらに、グループ各社の新たな取り組みは、同社の広報部門がメディアやSNSを通して情報発信。新製品や技術に関する情報が、それを欲する取引先や消費者に届けられ、新たなビジネスチャンスを生む。そんな好循環が生まれている。   ※特定の金属などを低い温度に冷却することで電気抵抗がゼロになる現象         試作に成功しあた30ミクロン径の超伝導ワイヤーの断面写真(1ミクロンは1/1000mm)。 さまざまな業界での利用が期待されている 試作に成功しあた30ミクロン径の超伝導ワイヤーの断面写真(1ミクロンは1/1000mm)。
さまざまな業界での利用が期待されている
   

IPOを果たして製品開発力の強化を目指す

  「YUKI Methodの構築で企業文化も変化している」と、大坪氏は顔をほころばせる。大坪氏自ら新製品に対するアイデアも出すが、基本的には現場の社員に任せるというボトムアップの経営スタイルを貫いている。   課題がないわけではない。由紀HDのホールディング経営は、まだ始まったばかりだ   「まずは、由紀HDの代表取締役社長としてグループの業績を伸ばし、さらに機能強化することで、グループ各社をより強力にバックアップしていきたい。その上で、2025年までにはIPO(株式公開)を果たしたいと考えています。   ただ、IPOは目的ではなく、あくまでも手段。私の当社株式所有率を下げてリスクを減らすことと、IPOによって多くの資本家から資金調達を行うことで、製品開発力の強化を図りたいと考えています」(大坪氏)   現在は多くのグループ会社が各技術に特化した工場を保有しているが、明興双葉では、ハーネスや電線の製造、さらにはアルミ鋳造品の加工などができるハイブリッド仕様の新工場を立ち上げ中だ。それぞれの分野で繁忙期と閑散期があるため、1つの工場で各製品が臨機応変に生産できる仕組みを模索している。また、他のグループ会社のOEM工場としても稼働させることで、生産性の向上にも役立てる予定だという。   「今後も、さまざまな分野に製品や技術を供給できる要素技術を持っている企業と一緒に『ものづくりの力で世界を幸せに』という当グループの使命を果たしていきたいと考えています」(大坪氏)     由紀ホールディングス 代表取締役社長 大坪 正人氏 由紀ホールディングス 代表取締役社長 大坪 正人氏    

PROFILE

  • 由紀ホールディングス(株)
  • 所在地:東京都中央区京橋2-6-14 日立第六ビル6F
  • 設立:2017年
  • 代表者:代表取締役社長 大坪 正人
  • 売上高:約58億5200万円(2020年12月期)
  • 従業員数:300名(グループ計、2021年4月現在)
 
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