左から、静岡どぼくらぶ 事務局 山田 紘子氏(静岡県 交通基盤部 政策管理局 建設政策課 主任)、ふじのくにi-Construction推進支援協議会 事務局 杉本 直也氏(静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課 建設イノベーション推進班 班長)、芹澤 啓氏(静岡県 交通基盤部 建設支援局 建設技術企画課 建設イノベーション推進班 主査)
2016年から国が推進しているi-Construction。日本一の富士山を誇る静岡県「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」は、そのトップランナーとしてICT(情報通信技術)の土木工事への全面的な活用(ICT土工)と施工プロセスのイノベーションを推進してきた。工事のルールを変えられるのは発注者だけ。全国に先駆けて取り組み、確かな成果を生み出す理由は「現場起点」の支援策にあった。
現場に基準を当てはめ
導入メリットを実感する支援を行う
2016年12月、静岡県庁に国土交通省や県内の市町村、研究機関、建設業界団体、ICT建機メーカー、ソフトウエアベンダーなど、建築・土木プレーヤーが一堂に顔をそろえた。「ふじのくにi-Construction推進支援協議会」(以降、ふじi-Con協)がキックオフした瞬間だ。
「きっかけは、国が公共工事のi-Construction(以降、i-Con)推進の方針を示したこと。ただ、年間約4万7000件ある県内の公共工事の9割は、県や市町村が発注者※1。企業も工事現場も中小規模が多く、新しい取り組みへのハードルは高い。静岡の実情を鑑みると、県内ではわれわれが旗振り役になっていく必要がありました」
そう振り返るのは、ふじi-Con協の事務局として県内のICT活用工事の方針を定め、運用を担う静岡県建設イノベーション推進班の班長である杉本直也氏だ。キックオフから3年、ふじi-Con協は2019年に国交省「i-Construction大賞」(地方公共団体等の部門)で「ICT普及促進と3次元データ活用の取り組み」において国土交通大臣賞を受賞。その立役者の一人である。
ふじi-Con協の活動を基軸として、静岡県は全国の自治体に先駆けて「ICT活用工事運用ガイドライン」を作成。導入を積極的に支援した結果、県内の実施累積企業数は2016年度の13件が2019年度に122件へ増加し、特にICT土木工事の実施率は8.4%から48.6%へ急伸※2。作業時間も従来施工と比べ27%短縮し、ICT建設機械の活用で補助作業員が不要になり、35%の省人化や交錯事故を未然に防ぐ安全対策においても成果を上げている※3。
ただ、当初は不安の中でのスタートだった。土木施工管理技士会が行ったアンケート調査(2017年5月)では、不安を感じる声が75%もあった。
「やってみたいけど不安、というのが本音です。現場の実務をどう支援できるか。メリットを実感できる施策を1つずつ考え、ケアを実施してきました」と、杉本氏と共に事務局を担う芹澤啓氏は話す。ガイドライン作成も「国の資料は難しくて分からない」という声に応えることから始まった。
また、センサーで位置制御し施工データも取得できるICT建機は、現場の測量・工事を早く、楽に効率化する。ふじi-Con協では国の基準よりも必要書類や納品項目を簡略化し、ひな形や見本も作成。紙ではなくオンラインの電子納品システムによるデータ納品も可能にし、「必要書類が増え、作成・手続きが負担になる」というジレンマを防いだ。
現場支援の難しさを痛感した出来事があると杉本氏は言う。水害を防ぐ国土強靭化策として、川床土砂をICT建機で取り除く掘削工事の現場を視察したときだ。
「水中を掘る高さの設定や確認も、ICT土工ならドローンで、1m当たり1点ずつデータを取ればいい。でも現場へ行くと、ウエットスーツを着て水中で1mおきに計測していました。ドローン使用の基準を、人力で守ろうとしていたのです。効率化の対極にあるシーンは、衝撃でした。現場で導入しやすいルールが生産性向上につながる近道だと、われわれの意識も一変しました。技術が新しくなっても、ルールを変えられるのは発注者だけなのです」(杉本氏)
※1…国土交通省地域発注者協議会「令和元年度 第1回 中部ブロック発注者協議会」資料(2019年7月25日)
※2…静岡県内のICT活用工事実績を静岡県が調査・集計
※3…静岡県発注工事149件(2016~19年度)の施工業者アンケート調査の結果から静岡県が集計
ICT活用推進
ICT活用工事の効果や課題の整理、対応策の検討及び受発注者の支援
建設イノベーション推進
オープンイノベーションの手法を用いて、異業種・異分野の企業、技術、アイデア、サービス、ノウハウなどの交流・連携を支援
お試し可能ルールや「マイレージ制度」で普及を促進
現場起点のICT活用支援でもう1つ、県独自ルールで認めたのが「一部だけの導入」だ。国の基準は測量から設計、施工計画・管理、検査まで、全ての施工プロセスでのICTの全面的な活用を目指している。
「全プロセスでの活用は同じですが、500mの工事で100mだけICT施工、それ以外は従来施工でもよいですよ、と。ゼロか100かではなくお試しなら導入しやすいし、私たちがどんなに効果分析を説明するよりもメリットを実感できます」(芹澤氏)
お試しで得た満足度は、土木工事の下請け企業が相次いでICT建機を導入する姿に表れた。「担当現場が早く終わって、すぐ次の工事に行ける。回転率も利益率も上がった」という声も、2人の耳に届いた。
「想定外だったのは、使いやすくエアコン完備で環境も快適になって、建機のベテラン運転士が『あと10年、仕事を続けられる』と言ってくれたこと。ICTは経験の浅い若者や女性の担い手づくりに役立つだけでなく、高齢者の雇用延長にもつながり、技術伝承も可能になりました」(杉本氏)
2019年には、建設業者間の普及啓発の促進へ「ICTマイレージプログラム」も始動した。自社受注工事での研修・講習、他社受注工事の指導・支援に取り組む企業に、インセンティブとして入札時に加点されるマイレージポイントを付与する新制度だ。
「県内全体でi-Conが普及することが重要です。建設業界は元請けから下請けへの重層構造で、実際に施工する下請企業もICTを活用できないと、取り組みが進みませんから」と芹澤氏。当初は「せっかく築いたノウハウを他社に教えるなんて!」との声もあったが、今では「当たり前になってノウハウにならない。どんどん教える」と、競争相手とも協力し合う一体感が生まれている。
i-Con大賞で高評価を得た、工事完成(完工)時のデータを取得する取り組みも県独自だ。ドローンやレーザースキャナーによるXYZ(緯度・経度・標高)の位置情報を持つ施工現場の3次元点群データを、静岡県PCDB(ポイント・クラウド・データベース)で管理している。
「最終データを納品してもらうので、災害発生時にも元の形状がすぐに分かります」(芹澤氏)
完工時の最終形が、次に工事が必要になったときの、最初に必要なデータ情報になるということだ。現場の「リアルな今」が分かり、それが「正しい過去」データとして記録・保存され、「最適な未来」をつくる導きになろうとしている。
静岡どぼくらぶ
土木の仕事の意義をロゴやオリジナル曲でPR
静岡どぼくらぶのロゴマーク。ヘルメットや建設機械などに貼る「仲間」が続出。認知度は着実に上がっている
「仮想3次元静岡県」を構築・公開
ICT活用工事の次なるステージとして、ふじi-Con協が2019年から力を入れるのが「スマートガーデンカントリーモデル」事業だ。静岡県PCDBの3次元点群データから仮想空間「VIRTUAL SHIZUOKA」を再現。新たに、県東部・伊豆半島の地形データを航空レーザー計測による高精度3次元データとして取得し、誰でも2次利用できるように公開するオープンデータ化も推進している。
災害発生前の現場データに被災前後の点群データを重ね合わせれば、土砂の崩壊・堆積土量が瞬時に分かる。完工最終データだけでなく、面的に高精度な点群データを一気に集めることで、公共工事の地元説明や震災時の津波発生シミュレーションなどに広く活用できる。「創発」を促す仕組みのデザインとして2020年「グッドデザイン賞」を受賞し、「VIRTUAL JAPAN」のロールモデルとなる期待も高まる。
「ゲーム開発など多様なオープンイノベーションにもつながり始めています。ゲームで遊んだ子どもたちやITエンジニアなど他領域の人材が、建設業に関心を持ってくれるよう、静岡県全体で建設業をもっと面白くしていきます」(杉本氏)
「3K(危険・汚い・きつい)のイメージが定着し、わが子を建設業界で働かせることに難色を示す親が多く、静岡県における建設業の将来的な担い手の確保は厳しく難しい。その現実を共に解決しようと、県内の建設業界に呼び掛けて誕生したのが『静岡どぼくらぶ』。一体感を醸成してイメージアップを図り、土木が地域の未来をつくることを情報発信するプラットフォームです。土木を愛する仲間なら官民問わず参加できます」
そう笑顔で語る事務局の山田紘子氏は、県の建設土木行政を担う土木技術者でもある。掲げる目標は2つ。「県民の命を守り未来を創る、社会インフラの意義の周知」と「やりがいがあり誇りが持てる土木の仕事のイメージ改善」だ。
使用フリー素材のロゴマークで認知度アップを図りながら多彩なPR活動を展開する静岡どぼくらぶは、YouTubeに公式チャンネルを開設し、県や業界団体・企業の動画コンテンツを集約。また、キャリア教育の一環として小中高校・大学生へ土木の重要性や仕事の魅力を伝える「静岡どぼくらぶ」講座は、ドローンのデモンストレーションで地元紙・テレビでも話題になった。2019年度から新たに始めた県民参加型の「土木・建築フォトコンテスト」には、2020年度に237件の応募作品が集まった。
「エネルギッシュで、前のめり」と自負する山田氏に触発され、業界団体も動き出す。静岡県建設コンサルタンツ協会は、「測る仕事」の魅力を発信するため、富士山の体積を「はかる」アイデアを募集。同協会発行の「静岡県防災的公園ガイドCONPA」にロゴマークを掲載し、学校教材にも採用された。県と建設業界の二人三脚でなければ、実現しなかったことだ。
「県だけ、業界団体・企業だけでは難しいことも、静岡どぼくらぶならできる。県政記者クラブへの情報提供も引き受けて一元化し、発信しています」と山田氏は話す。行政の立場として心掛けているのは、公平・中立であること。PR情報が特定企業に偏らないよう、業界団体に推薦先を紹介してもらう工夫も凝らす。
「県民の皆さんとの接点をつくり、深め、広めるために『まずはやってみる』『今やれることは全てやる』というスタンスです。担い手づくりは長期スパンの取り組みですし、始まりが遅いほど成果が先延ばしになってしまいますから」(山田氏)
もちろん、「やってみる」は場当たり的ではない。年度初めに、交通基盤部で戦略広報委員会を開催。年間を通して「新規・継続・拡充」策の明確な方針を打ち出し、12の出先機関にも広報担当を配置して戦略周知を徹底する。職員が皆でアイデアを出し、相乗効果を生む環境がある。
「県や各市町、国の出先機関、NEXCO中日本や業界団体に、どぼくらぶの講座への協力を依頼する際、『将来の建設業の担い手のためになることを、一緒にやってくれませんか?』と呼び掛けると、喜んで協力してくださいます。『担い手確保対策は皆でやろう』という意味の合言葉なんですよ。立ち上げは静岡ですが、大きな目標として日本の建設業の担い手を増やすことにもつながれば、本当にうれしいです」(山田氏)
現場で働く人をクローズアップする動画「どぼくらぶソング篇」。再生回数は1万4000回超
PROFILE
- 静岡県 ふじのくにi-Construction推進支援協議会 静岡どぼくらぶ
- 所在地:静岡県静岡市葵区追手町9-6