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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2021.01.29

卓越した「育てる仕組み」:ワット・コンサルティング

 

人手不足に悩む建設業界に、自社で教育した人材を派遣するワット・コンサルティング。派遣される社員、取引先、自社が幸せになれる「三方良し」のビジネスで、建設業界の課題を解決する。

   
建築・土木学科以外の学生を採用し教育して派遣
  技術者の高齢化や人手不足に悩まされてきた建設業界の課題解決の一翼を担うのが、ゼネコンなどに人材を派遣する人材派遣サービス業である。2003年に機電系、翌年には建設系の技術者の派遣サービスを開始したワット・コンサルティングは、中堅の派遣会社として貢献してきた1社だ。現在は製造系アウトソーシングの大手であるウイルテックグループの建設系技術者派遣会社として、スーパーゼネコンをはじめ中堅ゼネコンや設備サブコンなど200社近くの企業に、約600名の人材を派遣する。   同社のサービスは、新卒および第二新卒などの未経験の新入社員に教育を行い、ゼネコンなどに派遣社員として送り出す派遣事業を中心に、自社に登録した人材をゼネコンなどに紹介する人材紹介業も展開している。   「スーパーゼネコン5社(竹中工務店、清水建設、大林組、大成建設、鹿島建設)は別として、どの建設会社も建築学科や土木学科の大学生を採用するのが厳しい状況です。当社では、関連学科の人材を顧客である建設会社と奪い合うのではなく、それ以外の理系や文系に所属する学生を採用しています。そのため、建設の知識がない新入社員に知識を身に付けてもらった上で、現場に派遣するという仕組みを構築しています」   そう採用方針を語るのは、ワット・コンサルティングの代表取締役社長である水谷辰雄氏だ。採用活動では関連学科以外の学生を対象にするため、建設業界の魅力を伝えることが重要になる。そこで同社では、建設業界の将来性、資格取得による職業としての安定性などを学生に伝えることで興味を持ってもらうという。   「微力ながらも、他の業界に進むであろう人材を建設業界に流入させる役割も果たしていると自負しています」(水谷氏)   また、建設業界の知識がない学生を採用し、現場で働いてもらうには、各現場の専門知識を身に付ける必要がある。教育・研修体制が整っていなければ、ゼネコンなどのニーズに合った人材を供給できない。そのため同社は、10年以上も前から人材育成に力を注いできた。きっかけになったのは、2008年のリーマン・ショックだったと水谷氏は続ける。   「リーマン・ショックで仕事がなくなり、約35%の社員が派遣先から戻ってきました。その時の会社経営は苦しかったのですが、雇用調整助成金を活用し、人件費の一部を賄いながらしのぎました。それと同時に、仕事がなく待機している社員が空いている時間に技術や知識を身に付けられるよう、研修に力を注ぎました。その後も研修プログラムを続けたことで、現在の研修センターのベースとなる教育体制を整えることができたのです」   “人”としての力の大切さを知ってもらう 研修カリキュラムを展開しています    
専門知識と現場で役立つスキルを養う新人研修
  現在、ワット・コンサルティングでは東京・大阪・福岡に研修センターを開設し、新入社員に対して326時間、月曜日から金曜日までフルに学んで約2カ月半に及ぶ研修を行っている。他の建設業の派遣会社では多いケースであっても半分の160時間ほどというから、同社の研修がいかに手厚いかが理解できる。研修内容は、基本はCAD(Computer Aided Design:コンピューター利用設計システム)を使用して設計図や施工図を描きながら、施工管理に必要な知識や技術を学ぶというものだ。   専門知識と同様に同社が重視しているのが、派遣先の現場で役立つスキルであり、現場での学び方や問題を解決していく方法を学べるカリキュラムも用意する。   「施工現場では技術もさることながら、一番に問われるのが人間力です。周りといかにコミュニケーションを図り問題を解決していくか、あるいは周りに教えてもらいながら自分で成長していくかというスキルも不可欠。そんな“人”としての力の大切さを知ってもらう研修カリキュラムを展開しています」(水谷氏)   さらに同社では、すでに現場に派遣されている社員のスキルアップのためにも、ゼネコンOBなどの多彩な講師陣が各研修センターで随時研修を開催する。また、2015年にeラーニングをスタートさせ、現在は社員の施工管理技士資格取得のための対策講座から、CADなど実務に関する講座まで、多彩な内容のコンテンツを2000以上も配信している。   自社内で蓄積してきたこのような研修カリキュラムは、社員を派遣する取引先から高い評価を獲得。ゼネコンやサブコンから入社1年目の社員の教育研修を一部受託することで、取引先の若手社員の育成にも寄与している。     ワット・コンサルティングの東京研修センター。
同社の新入社員は入社後2~3カ月の期間、建設技術の各専門分野について学ぶ
   
創業以来、「技術者ファースト」の経営を貫く
  人材育成に力を入れるワット・コンサルティングの基本姿勢は、ビジョンで示す「個を活かせる企業」にも表れている。人材派遣サービス業は、派遣する人数が多いほど売り上げは上がる。そのため売り上げを重視しがちで、社員の希望や今後のキャリアプランに合わない現場への派遣が増える傾向にある。そうなると社員のモチベーションは下がり、転職という結果につながってしまう。   このような悪循環に陥らず、社員一人一人がキャリアプランを描き、それを実現するためのスキルを磨き、スキルに見合った現場で働けるようになるための配慮は忘れないと水谷氏は続ける。   「当社は技術系の派遣会社に在籍していた者が創業しました。設立した背景には、前社での売り上げ重視の反省点を踏まえ、『売上至上主義』ではなく、社員が成長できる人材派遣サービスを目指したいという思いが強くありました。そのため、建設業界の人手不足という課題を解決しながら、自社員が成長できる仕組みづくりに力を注いでいます」   通常、技術系人材派遣業界では、派遣会社の営業担当者が採用から派遣社員のマネジメントまで携わる。同社もその例に漏れないが、他社と異なるのは、営業担当者が受け持つ社員数だ。同社では上限を30名程度、平均20名程度に抑えて細やかな対応ができるよう配慮している。   また、2019年にはキャリアアドバイザー制度も導入した。社員が営業担当者に派遣先での悩みや自身のキャリアのことで相談しても、営業という立場から売り上げを優先しがちになる。そこで、営業担当者とは別にキャリアアドバイザーに相談できる仕組みをつくり、技術者に寄り添っている。   「キャリアアドバイザーには、管理職経験があり、子育ても経験しているホスピタリティーにあふれた人材を登用しています。キャリアアドバイザーの資格も取得していただき、営業成績に関係ないフラットな立場から、仕事やキャリア形成などの悩みについてアドバイスできる仕組みを構築中です」(水谷氏)   そんな技術者ファーストの同社でも、派遣先のゼネコンなどに転籍することも少なくない。同社としては売り上げ減少につながるが、引き留めることはないという。転籍した元社員の口コミで取引先から派遣依頼が増えたり、当人から派遣を依頼されることもあるからだ。技術者の希望を尊重することで、長い目で見て事業拡大に良い影響を与えている。    
多様な人材が活躍できる仕組みと環境を整える
  ワット・コンサルティングでは多彩な人材が働いているのも大きな特徴である。その代表が建設現場ではまだ数の少ない女性社員だ。派遣社員として現場で働く社員の約4割は女性だという。   「これまでの現場の慢性的な人手不足は、施工管理者の過重労働でなんとか補ってきたのが実情です。しかし、『働き方改革』や安全・健康管理面からも、そうした一部の人たちにしわ寄せがいく働き方では限界がありますし、健全な姿とは言えません。そのため、労働力人口が減少しつつある今、これまで想定していなかった人たちの力を活用するしかありません。   その代表が女性です。もちろん、施工管理の業務全てを女性が担うのは大変です。そこで当社では、『技術サポーター』という女性社員を派遣し、施工図の作成、施工写真、安全衛生書類の作成などを通し、施工管理者の負担を軽減する役割を担っています」(水谷氏)   同様に、同社では海外人材にも目を向ける。現在、同社のグループ会社で海外現地法人のウイルテックベトナムとウイルテックミャンマーで、現地の技術系大学や工科大学と提携し、日本語を教育する活動も実施。日本に入国後は、自社の研修センターで建設に関する知識を学んだ後にゼネコンなどに配属される。   多様な人材を登用し、育成して建設業界に派遣するワット・コンサルティング。今後は、BIMやIoTといったデジタル施工に対応できる人材育成の強化を図る。   「同時に当社が蓄積してきた研修カリキュラムやe-ラーニングにさらなる磨きをかけ、ゼネコンなどに提供する教育事業にも力を入れるなど、幅広いサービスを視野に入れています」(水谷氏)   リーマン・ショックを契機に人材育成に力を入れてきた同社では、長年にわたるノウハウの蓄積が新しい事業を創出する局面を迎えている。     ※Building Information Modeling:コンピューター上に作成した3次元の建物デジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報、施工から維持管理工程などの情報をまとめ、管理・活用するシステム     ワット・コンサルティング 代表取締役社長 水谷 辰雄氏    

PROFILE

  • (株)ワット・コンサルティング
  • 所在地:東京都中央区新川1-11-11 東京冷凍新川ビル4F
  • 設立:2003年
  • 代表者:代表取締役社長 水谷 辰雄
  • 売上高:36億円(2020年3月期)
  • 従業員数:705名(2020年3月現在)