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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2021.01.29

建設業界の常識を覆す:丸高工業

ICT(情報通信技術)によって建設業の施工の在り方を大きく変えようと業界が動く中、丸高工業は発想の転換と地道な努力によって変革を起こそうとしている。その軌跡を追った。

   
熟練工の激減により作業の標準化を推進
  「高い障壁に挑んだか」「常識の打破に挑戦したか」。イノベーションに不可欠な条件が並ぶのは、東京商工会議所が主催し、中小企業を対象に顕彰する「勇気ある経営大賞」の選定基準である。2017年の第15回で大賞を受賞した丸高工業は、建設業界の常識に挑戦した企業として業界に知られている。不可能と思われていた「作業の標準化」や「消音・消塵化」に挑戦し、克服したのだ。   従来、ビルや家は大工、左官、塗装、建具、クロスなどさまざまな職人が各工程を担って建てられる。つまり、経験豊富な熟練工の優れた技を抜きに建物を造ることは難しい。さらに、工事ではドリルやハンマーなどの工具を多用するため騒音も避けられないというのが常識だった。この常識を覆すことに、同社はなぜ挑んだのだろうか?   「当社は主に改修工事を行ってきましたが、リーマン・ショックを契機に建設コストが大幅に低下し、価格競争に陥りました。そのしわ寄せが職人にいき、賃金を下げざるを得ない状況になった。しかも仕事が週に3日、4日しかなく食べていけなくなり、転業や廃業する職人が増えたのです。さらに、2025年には100万人の職人が75歳以上となり、高齢化や深刻な人手不足が予測されます。誰でも作業ができる環境を整えなければならなくなったのが、作業の標準化を始めたきっかけです」   当時を振り返るのは丸高工業の代表取締役である髙木一昌氏だ。しかし、ひと口に作業の標準化といっても膨大な種類の作業がある。建設業は約28業種に分かれており、それぞれの業種で長年にわたって仕事をすることで初めて身に付けられる技術もあるからだ。それらを誰にもできる作業にするのは至難の業だが、同社は覚悟の上で標準化に挑んでいった。    
800工程の作業を分析し作業手順書を作成
  丸高工業が作業の標準化のために、まず行ったのは全工程のビデオ撮影だ。各業種の工程を撮って作業手順書を作成した。職人が行う作業は800工程にも及ぶが、それを分析し、施工に不可欠な「正味作業」、作業するために材料を運んだりする「付帯作業」、そしてなくてもいい「ムダな作業」の3つに分類。その中から正味・付帯作業を同社の社員が行い、彼・彼女たちではできない作業を抽出していった。   さらに、できない作業については、作業のやり方を変えたり、工具に工夫を施したりすることで、熟練工と変わらない施工ができるかどうかを試す。   「若手社員は工具や施工に関しても経験が浅いので先入観がありません。そのことが思わぬ発想やアイデアにつながるのです」(髙木氏)   作業そのものと並行して工具を改善することで、同社は新しい「標準化作業手順書」を作っていった。(【図表】) 【図表】「作業の標準化」具体的手法     「当社の若手社員が対象となる作業を分析し、実際に創意工夫をしながら作業した結果、熟練工でなければできない作業は全体の10~15%程度だと分かりました。残りの作業は、標準化されれば誰でもできるわけです。熟練工と標準技能工が分担して作業することによって、熟練工不足という課題を解決できます。さらに、各工程を多工種の専門の職人が入れ代わり立ち代わり作業するのではなく、できるだけ長く少人数が作業し続けることで、業務効率やコスト削減を図れるようになります」(髙木氏)   作業を少人数で行えば、どのような効果があるのだろうか。例えば、百貨店の改修工事を行う場合、従来のやり方では、営業時間が終了した午後11時に職人が20名ほど集まる。まず、養生工がビニールで商品の破損防止用の養生を行い、次にとび職が足場を組み、解体会社が天井の解体を行い、それから電気や空調の工事といったように作業を行うため、職人は自分の順番になるまで待機しなければならない。ところが、この作業をできるだけ少人数でできれば複数の職人の待ち時間はなくなり、作業効率アップと人件費抑制につながって収益性が大きく向上する。作業の標準化は建設現場の在り方を大きく変えることができるのだ。   熟練工が必要な作業も10~15%程度はあるので、全てを1人で行うまでには至っていないが、少人数で行うことで職人不足の解決や作業の効率化に成功した。         騒音問題も作業の標準化と同様に、徹底的に原因から調べました    
課題だった騒音問題にも着手
  もう1つ、改修工事には大きな課題がある。建物を使用しながら騒音の出る工事を行わなければならないため、営業区域や時間が制約されるのだ。例えば、商業施設では休館日や夜間の作業を強いられ、作業員が集まらずに工事が長期化する。ホテルも宿泊客がいない時間を利用して工事をするが、場合によっては騒音のため工事をするフロアの上下階を売り止めにしなければならない。   工事の長期化によるコスト増大や営業機会の損失などを軽減したい。そんなニーズは以前からあったが、解決する術が建設業界にはなかった。その解決策として丸高工業が打ち出したのが「サイレントシステム」だ。   「騒音問題も作業の標準化と同様に、徹底的に騒音の原因から調べていきました。すると、騒音には、空気を伝わる『空気伝播音』と、壁などの固体を伝わる『固体伝播音』の2種類があることが判明しました。そこで、各作業時にどんな音がどこから出ているのかを分析・検証し、騒音の元を改善するようにしたのです。その具体的な解決方法が工法の見直し、さらに工事で使用する工具やビスなどの改良です」(髙木氏)   調査の結果、改修工事の騒音作業は131種類。同社はそれら1つずつの解決策を探っていった。代表的なものは、外壁タイル撤去やインパクトドライバーによるねじ締め付け、タッカーによる天井施工などだ。   外壁タイルは従来、電動ピックなどでタイルを砕いて撤去していたが、「タイルメクリックス」というタイルを挟んでめくり取る工具を開発。また、高速でねじを締め付ける時に騒音が出るインパクトドライバーや天井タッカーには、独自の消音化の機構に改良するなどの工夫を凝らした。さらに、工具の改良だけではカバーできない空気伝播音は、「サイウォール」と呼ばれる消音仮囲いを使って軽減する方法を導入している。    
自社で占有せず業界に広める
  人が「騒がしい」と感じるのは70dB(デシベル)以上と言われており、従来工法のインパクトドライバーや天井タッカーなどを使う工事も同様の値を示していた。ところが、同社のメクリックスや消音ドライバー、消音タッカーなどを使用すると、普通の会話レベルと同じ60~40dB以下まで下がることが実験で証明された。   「工事の音は『聞きたい音』ではないため、60dBだと不十分。サイウォールと消音工具を組み合わせることで音が聞こえないレベルである40dB以下にすることができます」(髙木氏)   こうした工具は、製造業で工具開発をしていた人材を採用して基本設計と試作をし、工具メーカーなどの協力を仰ぎながら作るという。   「現場での試験施工とそこで出た問題点や課題の解決、工具の改良を繰り返すので、完成には2~5年かかります。現在開発した工具は約40機種。今後も新たな消音工具を開発し続けていきます」(髙木氏)   消音施工や工具を活用したサイレントシステムは、ホテルなどの売り止めフロアを減らすことに成功し、改修工事に伴う機会損失を大きく軽減した。また、騒音が原因のクレームを大幅に減らすなどの効果も上げている。   丸高工業は独自に開発したサイレントシステムや消音工具などを自社で使うだけでなく、広く活用できる事業を展開。消音工具はレンタルのニッケン(東京都千代田区)を通して広く同業他社でも活用されている。また、サイレントシステムを活用した工事計画の立て方や施工方法についても、リニューアルイノベーション協会などを通して同業他社に広める活動を行い、大手不動産会社や設計事務所、大手・中堅ゼネコン、1次協力会社などが興味を示している。   建設会社の枠を超え、工具メーカーや建設コンサルタントとしての業務が増えている同社だが、今後の事業展開について、髙木氏は次のようなビジョンを掲げる。   「熟練工の高齢化や人手不足は当社だけの問題ではありません。また、改修工事が増える時代に突入しているので、工事の生産性向上も業界全体の課題と言えるでしょう。その課題解決に作業の標準化やサイレントシステムは必要不可欠だと考えていますので、自社だけ良ければいいという発想ではなく、施主はもちろん全ステークホルダーにも役立つよう、情報をオープンにしています。サイレントシステムを業界のスタンダードにしていきながら、生産性向上に不可欠な工事の自動化にも、外部の企業や公的機関と連携しながら挑戦したいと考えています」   建設業界の常識を覆してきた丸高工業の挑戦は、新たな局面を迎えている。     丸高工業 代表取締役 髙木 一昌氏    

PROFILE

  • (株)丸高工業
  • 所在地:東京都品川区大井1-47-1 NTビル3F
  • 設立:1954年
  • 代表者:代表取締役 髙木 一昌
  • 売上高:35億1056万円(2020年3月期)
  • 従業員数:80名(2020年12月現在)