オーガニックとは「本来の、あるがまま」という意味だ。有機栽培でGMO(遺伝子組み換え作物)ではなくフェアトレード、世界的にも稀少なオーガニックコットン100%にこだわるものづくりは、顧客とも「飾らずに素顔が見える関係」を築いている。
「おうち時間」の新需要をチャンスに
ステイホームが求められた新型コロナ禍で、日々の暮らしに生まれた多様な変化。それはニューノーマル(新常態)として定着し始めている。
「在宅時の心地よい過ごし方に使うお金が増えています。当社のタオルも、競合相手は他社タオルではなくTシャツ。どちらが今の自分にとって快適なのかが決め手です」
工場・店舗の全消費電力を風力発電で賄い「風で織るタオル」と呼ばれ、世界では「IKT」ブランドで知られたIKEUCHI ORGANIC。代表の池内計司氏は松下電器産業(現パナソニック)の音響機器テクニクスの企画を経て、37年前に家業の池内タオル(当時)の経営を承継し、OEM生産から、オーガニックコットン100%製品のみのテキスタイルメーカーへ成長させた立役者だ。1999年に誕生した初の自社ブランド製品「オーガニック120」のバスタオルは、1枚5060円(税込み)、フェイスタオルが1980円(税込み)。手頃な値段とは言えないが、高級なものづくりは熱烈なファン顧客の支持を集める。
新型コロナ禍に伴い直営4店舗の自粛休業を余儀なくされたが、2020年4月25日より予約制で「オンラインZoomストア」をオープン。池内氏は自宅、京都ストアの店長は閉店中の店舗から、2人で1組当たり約40分のリモート接客を続けている。
「各店舗で開催する商品説明会は3月以降、全て中止しましたが、お客さまも私たちも互いに『会いたい』との思いが募ったため、Zoomで懇親会的なワークショップを開きました。リモート接客は、そこで出し合ったアイデアの一つなのです」(池内氏)
7月末までの3カ月間で約70組がオンラインで来店。商品購入率はほぼ100%で、購入単価も店舗実績の約2倍、平均2万円超という成果を収めている。テレワークの気分転換にシャワーを浴びるなど、「おうち時間」の増加でタオルへの関心が高まり、小売店やギフト用などの激減したBtoB需要をBtoCで穴埋めしている状態だ。
ただ、そのプロセスは想定外の連続だった。予測したのは直営店に足しげく通う顔なじみのファンや、ウェブストアの利用客。だが、実際に来店したのは、「使ったことはないけど話を聞いてから買うのを決めよう」という新規顧客だった。新たな出会いは、同社のオウンドメディア「イケウチなヒトたち。」などで興味を深めたのがきっかけで、来店後はSNSで「面白い!」と高評価を拡散。20歳~70歳代と幅広い世代で連鎖し、好循環が生まれている。
うれしい驚きもあった。全国に離れて暮らす友人同士が団体で申し込み、楽しんでくれたことだ。
「旧友が久しぶりに再会し、『相変わらずセンスが悪いな』などと言い合いながら、ワイワイと皆さんで商品を選ばれていました。他にも、母の日のプレゼントを一緒に選ぶ方もいました。当社のタオルをきっかけに、離れ離れの友人や家族が集まる場が生まれるなんて、夢にも思っていませんでした。距離的な制約がないZoomストアならこれまでにないことができるし、店舗ではできないことをやらないと意味がない、とも思っていました。やればやるほどいろんなことが起きて、楽しみも大きいです」(池内氏)
2014年3月オープンのIKEUCHI ORGANIC 直営1号店
店舗でも活用する商品のマトリックス図。「肌触りや弾力感の有無など、求める好みの感覚もレベルも人それぞれに違います。当社の商品がたくさんあるのも、その違いはデザインではなく触り心地なのです」(池内氏)
「テイスティング」を可視化
リモート接客は同社も初めての経験で、しかも新規顧客とは初対面だ。
「予約時に欲しいタオルなど、最低限の情報は教えていただきます。ただ、初めての方に当社のタオルのテイストは分からないし、触ってもらうこともできません」(池内氏)
店舗の接客は、全てのタオルを自由に使ってもらう「テイスティング」が基本だ。200~300回洗濯したタオルも準備し、心地よい風合いや優れた吸水性、速乾性を実感しながら顧客の好みにフォーカスし、ジャストフィットする触り心地を一緒に選んでいる。だがその強みが、リモートでは最大のネックになる。
打開策として工夫したのが、Zoomで対話しつつ、水分をふき取ったタオルの接写などをiPhone撮影のライブ映像で配信し、「テイスティングを可視化」すること。また、肌触りを横軸、吸水性・速乾性を縦軸で図表に表した「タオルの選び方マトリックス図」も活用。好みのタオルを顧客と共有することで、伝わりやすさが高まった。
「マトリックス図は店舗でも必ず使うツールです。リモート接客ではお客さまが使っているタオルを見せていただくこともできます。タオルを見れば、プロである私たちはお客さまの好みが分かるので、届いた写真を見て『このタオルはいかがですか』と提案できます。触り心地を言葉にする表現力が求められるので心配もありましたが、届いた商品を見て皆さん『イメージ通りでした!』と言ってくださいます。『考えていたのと違う』とのクレームはまだありません」(池内氏)
「自分にぴったりのタオル選び」を体感し、SNSで発信する顧客の声には共通点がある。「付きっきりで選んでくれる、百貨店のVIP客のようなプレミアム感」だ。一方で、「つくっているのはタオルではなく、物語」と常々と語る池内氏も、確かな手応えを感じている。それは、自分の選んだタオルがどんな思いでつくられたか、顧客が理解してくれること。「思いを届ける」ことは自社ブランドの根幹にある、最重要な要素だからである。
「職人やマーケッターが語り部になっています。また、ブランドの知名度が高いので、ウェブ検索すると、ファンや当社とつながる人・企業が思いを代弁してくれています。私ではない第三者が届ける思いの方が、はるかに説得力があります」(池内氏)
工場見学や新商品説明会もオンラインで
Zoomストアは新商品が誕生するきっかけにもなった。長さがフェイスタオルの1.5倍、バスタオルと同じ120cmの「シャワータオル」だ。発売初日から、売上枚数で一躍トップになる人気を博している。
「ユニットバスの家に暮らす若い方は、バスタオルを買いたくても置き場所がない。分かっていたことですが、本当なんだとあらためて気付かされました。お客さまの変化を見据えた商品提案が重要なんだと」(池内氏)
「思いを届ける」だけでなく、「生の声を受け止める」機会にもなったリモート接客の可能性は、さらに広がり始めている。6月、新たな試みとしてリモート工場見学会を実施。リアルでは定員40名の募集直後に満席になるが、オンラインの強みを生かして参加枠を拡大し、300名が参加した。
ファンとつながるツールにもなっている。7月には新商品説明会を初めてZoomで開催。心待ちにしていたリピーターが顔をそろえ、双方向のコミュニケーションで交流を深めた。
「工場見学のカメラワークは素人の私たちが行っていたため開始直前につながらなくなるトラブルもありましたが、何とかやり遂げました。アンケート結果も好評で、『オンラインだから参加できた』という方が多かったですね。いろんな声に出合えますし、オンラインと店舗では声の密度も違うので、直営店の営業再開後もリモート接客を続けています」(池内氏)
顧客と一緒に描き出す未来、その不変の企業指針が「2073年(創業120周年)までに赤ちゃんが食べられるタオルを創る」。創業60周年を機にCI(コーポレートアイデンティティー)と社名を変更した2014年、繊維製品の安全認証「エコテックス スタンダード100・クラス1」(赤ちゃんが口に含んでも安全なレベル)を取得し、次なる60年を見据えて掲げた旗印だ。本社近くの母校・乃万小学校でESD(持続可能な開発のための教育)活動を続ける池内氏は、子どもたちが「池内代表、ぼくがちゃんと2073年までにつくってあげるから、安心して!」と言ってくれたことが「すごく、うれしくてね!」と満面の笑顔で語る。
思いと声がつながる人の輪。ニューノーマルはいつも、その先に芽生えるのかもしれない。
リモート接客では
お客さまが使っているタオルを見せていただくこともあります
IKEUCHI ORGANIC 代表 池内 計司氏
Column
賢い顧客が見定める「思いの強さ」
お客さまの本気度が高い。情報収集が綿密で、知識が豊富――。BtoCのオンライン接客で、最近よく耳にする声だ。目に見える機能やデザインだけでなく、ものづくりの思想や価値も見定めた上で商品を選択する。その姿は「企業像そのものが、賢い顧客に問われている」とも言える。 「新型コロナ禍以降にそれが顕著になったのも、そうした価値観が重視され、入り口になっているから。自社商品の本当のファンがどれだけいるか、試されている怖さがあります」 そう語る池内氏だが、都市圏の大市場から離れた地域の中小企業にも、距離的な制約がなくなるオンラインにはチャンスがあると指摘する。 「工業製品でも野菜などの農産物でも、ものづくりにとっては、思いを伝えるのにとても良いツールです。お金がかからず投資リスクがありませんし、規模が小さいほど思いが強いもの。やっぱり買っちゃいますよ、思いを持つ人や企業から」(池内氏) さらに2020年8月から、小さくても思いが強い企業同士が連携する法人向けコミュニティー「イケウチな企業たち。」を新たに始動した。顧客層が重なることも踏まえ、それぞれの思いを一緒に伝えて、人と人の共感の輪を個人レベルだけでなく、企業・社会レベルへも広げていくのが狙いだ。 「支えてくれるファンが喜ばないことは絶対にしないし、目が輝くようなものでなければつくらない。これからも、その方針は揺るがないですね」(池内氏)PROFILE
- IKEUCHI ORGANIC(株)
- 所在地:愛媛県今治市延喜甲762
- 設立:1969年(創業:1953年)
- 代表者:代表 池内 計司、代表取締役 阿部 哲也
- 売上高:5億円(2020年2月期)
- 従業員数:22名(2020年8月現在)