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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2020.09.30

攻めの姿勢で「最悪を想定し最善を尽くす」:クラッソーネ

何よりもクルー(社員)と家族の安全・安心を守る――。 新型コロナウイルスがどれだけ恐ろしいのか、誰にも分からない段階からいち早く準備を進め、スムーズに「リモート化」へ移行できた理由とは。

    新型コロナウイルス感染拡大前の「Good&New」の様子     Zoomを利用したオンライン版「Good&New」の様子    
的確でスピーディーな意思決定
  透明度の高い海、恵みをもたらす雨、緑の山々、そして縄文杉。豊かな自然に囲まれた地において「暮らしと仕事」を実現したのが、クラッソーネ代表取締役の川口哲平氏だ。屋久島にオフィスを開設して2年がたった。マネジメントは本社(名古屋オフィス)にいる幹部とのリモートワークが中心である。   クラッソーネは住宅建築の解体・外構工事の一括見積もりウェブサービスで、施主と工事会社のマッチングビジネスを展開。設立から10年目となる2020年、AI搭載の新アプリ『くらそうね』をリリースした。施主は最大10社の見積もり予想額と口コミが瞬時に分かる上、工事会社に直接見積もりを依頼できる。また、工事会社に対しては業務支援の機能を持ち、好評を博す。提供を開始した4月から、同社は利便性と生産性の向上に寄与するプラットフォーマーへと成長を遂げている。   「工事会社の情報が少なく自分で選べない施主さま。腕は良いのに、エンドユーザーとつながるすべがなく下請け工事に甘んじる工事会社。情報の非対称性から生じるミスマッチ、その不安と不満を解消できる事業には社会的な価値がある。大手住宅メーカーの営業時代に、そう気付いて起業しました」(川口氏)   空き家や中古リフォームが増加し、ストック時代を迎えた住宅市場のITベンチャーにとって、新型コロナ禍は想定外の出来事だった。だが、3月26日に東京、4月6日には名古屋オフィスと屋久島の順に、いち早く全オフィスでリモートワークに切り替えた。スピード感のあるその意思決定に、川口氏は直接携わっていない。平時からさまざまな権限委譲を進め、総務部長と人事広報部部長、担当役員のCOO(最高執行責任者)とCFO(最高財務責任者)の4名で、感染リスクや感染拡大の状況を見極めながら判断し、実行フェーズへ移行した。   「現場と実情をよく知り、意思決定する能力や判断基準を持つ人に権限委譲する方が、的確かつスピーディーに対応できます。私よりも良い意思決定をしてくれるという期待値も大きいです」(川口氏)   川口氏が幹部やクルー(社員の呼称)に「任せる」上で欠かせないのが「背景の擦り合わせ」。背景とは、企業理念や経営指針に当たるMVV(Mission・Vision・Value)のことだ。Missionの「豊かな暮らしで人々を笑顔に」は最終目標となる姿。それを体現していくプロセスの世界観がVisionの「誰もが利用する家づくりのインフラを作る」。そこにひも付く大切な価値観がValueだ。その共有を重視し、絶えず「MVVに照らして、いまのわが社はどうか?何が大事か?」を発信し続けている。   「ValueはBiggest Data(最大のデータは最良を導く)、Inspire Customers(満足ではなく感動)、Go Boldly(大胆にやろう)の三つ。幹部もクルーも、普段から『それって、Go Boldlyかな?』と互いに確かめ合うことで、思い切った意思決定がしやすいし、その決定を私が『おかしい』と感じることもありません。リモートワークへのスムーズな切り替えも、まさにその通りでしたね」(川口氏)            
コミュニケーション環境と通信インフラを整備
  リモートワークの準備は、国内で初めて新型コロナウイルス感染の死者が出た2月中旬に始動していた。意思決定から導入まで主導的な役割を担ったメンバーの一人が、人事広報部の部長である宮田ゆかり氏だ。   「クルーとその家族の安全・安心を守る。そのために『最悪を想定し最善を尽くす』『攻めの姿勢で守る』ことを徹底しました。ただ、顧客やビジネスパートナーに不備や不便が生じることは避けたかったので、そのバランスが悩ましかったです。『くらそうね』をリリースするタイミングと重なり、ルーティンワークをそのままリモート化できないのも大変でした」(宮田氏)   特に難しかったのが、電話応対サービスを担う名古屋オフィスのカスタマーサクセス部だ。安全・安心と顧客満足を両立するリモートワーク実現のポイントは二つあった。インターネット通信環境の確保と、個々に事情が異なるクルーの在宅ワーク環境の確認だ。「電話応対はクラウドCTIシステムなので、自宅にインターネット環境があれば大丈夫ですが、それでも不安があるクルーにはモバイルWi-Fiを貸し出しました。お子さんがいるクルーも、保育園を利用して対応可能な方ばかりで幸運でしたね」と宮田氏は話す。   また、在宅勤務手当としてひと月当たり5000円を全クルーに一律支給。快適な業務環境に必要な光熱費として、家計負担を軽減することが目的だった。   顧客やパートナーなど「外」とつながるリモート業務のインフラだけでなく、クルー同士の「内」なるコミュニケーションや組織の活性化にも心を砕いた。ビデオ会議ツールの「Zoom」を新たに導入し、会議やミーティング、全社昼礼や部署別の朝礼・終礼を実施。創業以来の取り組みで、良かったこと(Good)や新しい出来事(New)を、無作為に組まれた日替わりメンバーで語り合う雑談タイム「Good &New」(G&N)もZoomでオンライン化した。また、導入済みのグループウエア「Slack」の通話・チャット機能を、業務マネジメントツールとして積極的に活用。全社的な情報伝達から業務の報連相(報告・連絡・相談)やアドバイスまで、オフィスワークさながらの環境が整った。   新卒社員の入社時研修も当初の予定を変更して行った。約1週間の集合研修を実施後、リモートで先輩クルーがメンター(指導員)として一対一でフォローアップし、悩みやつまずきを解消しながらより多くのクルーと交流できる育成策を推進した。宮田氏は「メンタリング(メンターの助言や日常対話による人材育成方法)を重視しました。まだ他のクルーと関係性が築けていませんし、上司と離れている不安も大きいですから。1カ月後にはすっかりなじみ、想像以上に順応は早かったですね」と振り返る。   リモートワークは、ZoomやSlackなどコミュニケーションツールを導入すればうまくいくわけではない。明確な判断軸となるMVVや、雑談を大切にするG&Nなど、コロナ禍以前から情報と価値観を共有する仕組みと関係性を深める環境づくりが進んでいたことが、リモートワークの上手な活用に結び付いたといえよう。     ※CTIシステム:顧客から番号通知付きで電話を受けた際、受信者の管理画面(パソコンなど)へ番号にひも付いた過去の登録情報や通話履歴などが参照される通話補助システム        
オフィスでもリモートでもない「第三の働き方」へ
  ウィズコロナ時代を見据えて川口氏は、有効なワクチンが開発されても従来のオフィスワークの姿に戻す必要はないと考えている。   「リモートワークとオフィスワーク、二者択一でなくていいのです。それぞれの良さや向き不向き、業務内容やタイミングを見極めて、成果を出すために必要だと各部門・チームのマネジャーが判断しながら、最善の働き方を選択していければ」(川口氏)   開発系のプログラミングや資料の作成は、リモートワークの方が自分のペースで集中しやすく、生産性も上がりやすい。一方で、新しいプロジェクトやサービスには、認識のズレをなくすために、密で深いノンバーバル(非言語)コミュニケーションも必要で、リモートでは限界がある。また、従量課金制でかさむインターネット代、自分以外の業務フローが分かりにくい不安など、新たな課題も生まれている。   それでも、肯定的な反応を示すクルーが多数派なのはなぜか。MVVには顧客や社会のためだけでなく、働くクルーも「より良い暮らしと人生」を実現する思いが込められ、「リモートワークはその実現につながる挑戦」と受け止めているからだ。また、川口氏も「住まいの領域のインフラになる」ことを目指し、オフィス&リモートで、よりふさわしい選択ができる「第三の働き方」を、クルーと共につくり出していこうとしている。   「仕事場も家庭も最高の居場所にしたいし、時間を有効活用できる環境になって従業員の満足度が上がってきていると感じています。MVVに照らして新しい働き方を見いだし、豊かな暮らしを創造し続ける企業でありたいですね」(川口氏)     クラッソーネ 代表取締役 川口 哲平氏(左)、人事広報部 部長 宮田 ゆかり氏(右)    
Column

価値観が変われば働き方が変わる

自然と協調する「働く最高の環境」を求めて屋久島に移り住んだ川口氏だが、理由はそれだけではない。   「ベンチャー企業を成長させることと、自分の働きたい場所で働くことは両立できない関係にあると思っていましたが、それが両立できればいろんな人の働き方も変えられるんじゃないかと思ったのです」(川口氏)   その思いを知ったクラッソーネの幹部もまた、「可能性をつくり出したいなら、いますぐ行くべきじゃないですか?」と背中を押してくれたという。現実にいま、リモートワークの先駆けとなり、働き方がどんどん自由になっていく可能性の大きさを自ら実証している。   「一番変わらないといけないのは、企業だと思っています。ZoomやSlackなど、リモートワークができるオンラインツールは以前からあったもの。5年前の技術でできたことを、私たちは現在やっているわけです。変わったことと言えば、それに向き合う企業の姿勢であり、働く人の考え方。そのきっかけが、新型コロナウイルスだったということ。技術は今後も進展していきますし、『もっと、こんなことができるのでは?』と、経営者や社員の価値観が変わることで、働き方に柔軟性が生まれるようになります。その先駆者として、クラッソーネが一つの在り方を示していければ、うれしいですね」(川口氏)   Zoom画面の背景に、お気に入りの風景を選ぶ人は少なくない。それがバーチャルな壁紙ではなく、リアルな「私がいる空間」の景色になる日が、もうそこまで来ている。     役員合宿でのひとこま。 樹齢1800年の仏陀杉の前で
   

PROFILE

  • (株)クラッソーネ
  • 所在地:愛知県名古屋市中村区名駅5-7-30 名駅東ビル4F
  • 設立:2011年
  • 代表者:代表取締役 川口 哲平
  • 従業員数:49名(2020年7月現在)