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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2020.06.30

ブロックチェーン技術の利活用で価値共有を:電通 イノベーションイニシアティブ プロデューサー 鈴木 淳一氏

SDGsを達成するために重要な役割を担うテクノロジーの一つとして注目を集めているブロックチェーン。この技術は「情報の共有」を「価値の共有」へとアップデートさせ、持続可能な社会の実現に応用できるという。

   
価値のインフラとなるブロックチェーン
  20世紀型の大量生産・大量消費の経済が環境に多大な負荷をもたらしていることを背景に、持続可能な開発目標であるSDGsが定める17の目標に配慮したライフスタイルや企業活動が新たな付加価値として注目を集めている。   だが、日本においてSDGsに配慮したライフスタイルの追求は、ニッチ(限定的)な層に限られているのが現実だ。しかも、個人の価値観によって17項目のどこに着目するかも異なる。ニッチで多様な層に自社の取り組みを理解してもらい、評価を得るにはどうすればよいのか?   電通内のR&D組織である電通イノベーションイニシアティブのプロデューサー・鈴木淳一氏は、「中央集権的な情報管理を脱してブロックチェーン技術を活用することで、より限定的なニーズをくみ取ることが可能になります」と話す。   ブロックチェーン技術とは、インターネットに次ぐ発明として高い注目を集めている情報を分散管理する仕組みである。売買や金銭取引の情報(取引履歴)が一つの集合体(ブロック)としてまとめられ、システムの管理者が情報を一元的に管理するのでなく、利用者同士が同じ情報を分散して持つ(チェーン)ことで、互いに情報の履歴に差異がないかを照合でき、データの改ざんが不可能になることで公正性が担保される。   「日本や米国では仮想通貨の管理方法として注目を集めたブロックチェーンですが、すでにエストニアやドイツ、イスラエルなどでは全く異なる発展を遂げています」と鈴木氏は続ける。   例えば、エストニアでは財産証明や戸籍、社会保障などがブロックチェーンを用いて管理されている。国家による非中央集権的な管理で情報の改ざんを防止し、政府などの公権力と国民・市民が対等な立場を築いているのだ。   持続可能な社会の実現に向けブロックチェーンを利活用することで、モノやカネの流れに透明性・信頼性が生まれ、公平で開かれた社会を実現することができる。    

情報発信は、中央集権型から 協力者を介した横断・ボーダレス型へと変化

  出典:経済産業省「我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)」       宮崎県綾町のブロックチェーン実証実験     出荷されるまでの情報をブロックチェーンで記録。有機栽培に高い関心を示す人たちが多く買い求めた     フィギュアの情報を取り込みエシカルな消費行動を実践したことを証明。SDGsについての議論を深める    
価格以外の判断基準でニッチ層の心をつかむ
  では、SDGsに配慮したビジネスシーンでブロックチェーンはどのように生かせるのか。鈴木氏は、「ヨーロッパでは、マス(大衆)市場が50%、ニッチ市場が50%といわれています。日本の割合は、マス市場が90%、ニッチ市場が10%ですが、今後ニッチマーケットは拡大していくでしょう。例えば、テレビを購入する際に多くの消費者が画像の美しさや反応速度の速さなどのスペックや価格を重視する半面、『エコに廃棄できるか』『工場で違法労働をさせてないか』など、全く異なる価値に着目する消費者も確実に増えています。そういった人々にどう共感を得るかが、マスを狙わない中堅・中小企業の戦略として重要です」と解説する。   SDGsのビジネスモデルには共感が求められ、それを可視化するシステムこそがブロックチェーンなのである。   鈴木氏はブロックチェーンを用いたSDGs解決の実証実験を手掛けており、その一つが2016年に行った宮崎県綾町の農産物の事例だ。綾町は1988年に「自然生態系農業の推進に関する条例」を日本で初めて制定するなど、有機農業発祥の地として農業関係者から広く知られている地であったが、「有機農業の取り組みが価格に反映されない」という課題を抱えていた。国の規格より厳しい基準を設けても、認証制度だけでは特色を伝えきれず差別化が難しいというものだった。   そこで、どのような土壌で栽培された野菜なのか、いつ作付けされたなどの履歴や、環境負荷軽減に対する取り組みを個包装パッケージそれぞれに一意のURLが割り当てられたNFC(近距離無線通信)タグおよびQRコード(2次元バーコード)で読み取れるようにした。2017年に東京都心で綾町の野菜を販売したところ、有機栽培に高い関心を示す人たちが多く買い求めたという。   「価格を確認されることはほとんどありませんでした。盛り込まれた情報が購入の判断基準となっていたのです」(鈴木氏)   2018年には都内のレストランで綾町の有機野菜を用いた「エシカル消費(環境、社会、人に優しい消費)メニュー」を提供するイベントを実施。生産方法だけでなく、輸送や調理を含む環境負荷軽減の取り組みを追跡できるようにした。さらに、消費者側には精算時に「環境負荷軽減の消費行動を行っている」との証明をブロックチェーンに記録した。鈴木氏は、「消費行動が証明できれば、例えばエシカルメニューを提供するレストランで優遇を受けられるといったメリットも付与できます」とさらなる可能性について言及する。    
フランスで完全無農薬の日本産ワインを売る
  綾町のある農家は、完全無農薬かつ植物性堆肥でのブドウ育成にこだわったワイン生産に挑戦していた。鈴木氏は、土づくりから作付け、収穫、醸造、加工、輸送までの全ての情報をブロックチェーンに記録し、ワインの本場であるフランスで販売する実証実験を2019年に実施した。   「フランスはワインの本場である一方で、SDGsの取り組みに対して高い意識を持つ人が多く、エシカル消費の先進地でもあります。完全無農薬にこだわった1本1万円のワインが売れるのかを試みました」(鈴木氏)   利用者がSDGsの概念を学び、かつ心理的障壁を下げるためにSDGsの開発目標を擬人化したアニメキャラクターのフィギュアを作成。スマートフォンをかざすとアプリにフィギュアの情報を取り込めるようにした。   「ワインが好評だったのは言うまでもなく、さまざまなテーブルで『SDGsの3(すべての人の健康的な生活を確保)に配慮して生活している』など、盛んな議論が生まれていた。消費行動を通してコミュニティーが形成されるとともに、ブロックチェーンに記録されることで、それぞれの消費者が持つ『哲学』の可視化につながっている」と鈴木氏は話す。    
ファンをつくりファンとともに育てる
  ブロックチェーンを活用したビジネス展開について、鈴木氏は「ネガティブ情報を生まないこと」「生産者と消費者が対等になること」への注意が必要だと指摘する。   マス市場を対象とするビジネスは、必ずネガティブな反応が一定数生まれる。一方、同じ価値観を共有するニッチコミュニティーにおいて反対意見は生まれにくいが、ネガティブな情報が流れると、ブロックチェーンの特長である共感性の高さゆえにその商品・サービスは受け入れられなくなる。注意すべきは、嘘をつかず隠さないこと。生産側が情報を一元的に管理するのではなく、消費者と同じ目線で公正に情報を共有する姿勢が欠かせない。   「ユーザーをパートナー化することが重要であり、さらに有益な評価をするユーザーにインセンティブを付与する仕組みも大切になるでしょう」(鈴木氏)   これまでの評価は、あくまで個人による無償の行動だった。それゆえに玉石混淆になる課題もあった。しかし、ブロックチェーンの技術で有益な評価をする者をコミュニティー全体が正しく評価し、利益を還元することも可能となる。例えば、読者A氏が、ある漫画コンテンツを読書コミュニティーに紹介したことによって新たなファンが生まれれば、その利益をA氏に還元するという取り組みもすでに行われている。   鈴木氏は、「情報接触手段は、中央管理で成り立っていた従来の方法から、協力者を介した横断・ボーダレス型へと変化しつつあります。共感できる哲学(生き方)が協力者を生みます」と強調する。   自社の商品・サービスを構成する哲学に共感するファンをいかに生み出すか、そしてファンとともに、いかに商品・サービスを成長させるか。ブロックチェーンは新しいビジネスモデルの創出において重要な手段となるだろう。     電通 電通イノベーションイニシアティブ プロデューサー
鈴木 淳一氏
ISIDオープンイノベーションラボ(イノラボ)技術統括、ブロックチェーン推進協会(BCCC)理事。DIIにて先端テクノロジー利活用による競争優位戦略、市場性検証を担当する他、(一社)ブロックチェーン推進協会(BCCC)トレーサビリティ部会長を兼務。グランフロント大阪のICTコンセプトデザインを手掛け2013年にAegis Award(LBS)最優秀賞。専門はPost City Science(未来都市)、Inbound Scape(訪日価値向上)、Future Currency(暗号通貨)、Robotinity & Fashion(工芸繊維)、Human Data Sensing(生体科学)。クオリティ・マガジン"MODE.TOKYO"プロデューサー。客員講師として放送大学では街づくりを、東京大学ではエシカル消費を研究。
   
Column

ブロックチェーンを人材育成の分野でも活用

現代の日本において、「SDGsの目標にコミットした生き方や、問題解決を人生設計に盛り込む人材をいかに育てるか」は難しい取り組みだ。テストで問題を解くためのカリキュラムやインプットを評価する入試方法では、高い点を取ることが目的化する。鈴木氏は、そうした現状に一石を投じ、アウトプット重視の教育を目指して「学歴では捕捉できない学びの軌跡」をブロックチェーンの活用で可視化しようと取り組んでいる。   2019年8月、筑波大学准教授の落合陽一氏と鈴木氏ら電通をはじめとする主催企業は、岡山県倉敷市で小中学生を対象にSDGsについて体験しながら学ぶサマースクール「落合陽一と考える『ぼくらのミライ』せとうちサマースクール~感じて学ぶSDGs~」を開催。そこで学んだ17名の学習履歴は、アプリで共有されブロックチェーンで管理されるため、「落合氏からSDGsについて学んだ」「他の参加者にプレゼンテーションをした」という事実が証明できる。さらに、受講生同士がアプリ上でつながることでコミュニティーが生まれ、受講後の実績をもとに講師や企業が入試の際に推薦したり活動を支援したりすることも可能だ。つまり、サマースクールは単発のイベントとして終わるのではなく、SDGs活動やキャリア形成の起点となる可能性もある。   情報の公平性が担保されるブロックチェーンの技術は、仮想通貨やビジネスシーンで活用されるツールという先入観を超え、人材育成の分野でも活用できる可能性を示している   SDGsについて体験しながら学ぶサマースクール  
   

PROFILE

  • (株)電通
  • 所在地:東京都港区東新橋1-8-1
  • 設立:1901年
  • 代表者:代表取締役社長 五十嵐 博
  • 売上高:1兆478億円(連結、2019年12月期)
  • 従業員数:6935名(2020年1月現在)