本当に良いものを消費者に届けたい。その願いを、全世界で目指すゴールに重ねる「SDGs宣言」とし、さらなる持続可能性を追求する取り組みに迫る。
SDGsと重なる企業理念
「♪てのひらシュシュッシュー、てくびもキュキュッキュー♪」。軽快なリズムに乗って歌いながら楽しく正しく手を洗えるのが、シャボン玉石けんオリジナルの「シャボンちゃんの手あらいうた」だ。
「子どもはすぐに口ずさんでくれ、大人も楽しんでくれます。新型コロナウイルス対策として『手洗いダンス』を動画サイトにアップしてくれる方も増えました」
そう語るのは、シャボン玉石けん代表取締役社長の森田隼人氏である。同社は化学物質や合成添加物を一切使わない無添加石けん市場を創り出した先駆者。2009年には感染症対策研究センターを設立し、感染予防や衛生管理の研究・提案普及にも取り組んでいる。
「まず自らがやる」という主体的な経営姿勢には原点がある。高度経済成長期、自社の主力製品である合成洗剤が環境や体に有害だと知って無添加石けん製造へとかじを切ったことだ。以来、「健康な体ときれいな水を守る」を企業理念に、人にも環境にもやさしいものづくりを貫いてきた。そして2019年1月、事業分社化したグループ4社全体で「SDGs宣言」を新たに発表した。
「当社がずっと取り組んできていることはSDGsにリンクします。何を大切にするのか、どうやって実践していくのか。私自身にも社員にも、また社外に対しても明確に示すため、SDGs達成に取り組むことをあらためて宣言しました」(森田氏)
同時に、シャボン玉石けんが実現する「持続可能な世界」のコンセプトイメージを描き出した。事業の三つの柱「化粧品・家庭用品、ヘルスケア、環境」の展開や社会貢献活動と、SDGsの17ゴール全てが重なるのは、揺るぎない理念を体現してきた証しと言える。
看板商品の無添加石けんは、大釜の中で約1週間、天然油脂をじっくりと炊き上げ、油脂本来の保湿成分を石けんに残す「ケン化法」。使う人にも使った後の水環境にもやさしい、SDGsが目指す姿にかなう商品だ。
2015年に活動を開始した「1% for Natureプロジェクト」では、一番の人気商品『シャボン玉浴用3個入り』の売上金額の1%を、人と環境にやさしい活動に寄付。ミャンマーで井戸を建設する「命の水事業」や屋久島の生態系保全など、多彩な活動を支援し続けている。
同社はそんな自社像をSDGsという鏡に映し出すことで、社員の意識と実践力や顧客の共感を高めている。先導役はマーケティング部が担い、社内では外部講師を招いたセミナー開催やSDGsカードゲームによる学びを実践。無添加石けんファンが集う「シャボン玉友の会」の会報誌でも積極的に情報を発信している。
「無添加石けんの製造を始めてから約半世紀、持続可能なものづくりを実践している自負があります。ただ、十分な対応ができていない部分もあります。企業理念やSDGsに照らし合わせると、原材料や包装資材など、改善の余地がある課題が浮き彫りになりました。健康や福祉、水と衛生、海・森の自然環境を守ることなど、今までやってきたことを軸に、『つくる責任 つかう責任(ゴール12)』『パートナーシップで目標を達成しよう(ゴール17)』にも貢献する取り組みを充実させていきます」(森田氏)
シャボン玉石けんが取り組むSDGs
地元・北九州市と「包括連携協定」を締結
SDGs宣言を経営の推進力とするシャボン玉石けんは、2019年12月、地元の北九州市と「SDGs包括連携協定」を締結した。同市は「SDGs未来都市」(内閣府)や「SDGsモデル事業」(内閣官房)に選定され、2017年には第1回ジャパンSDGsアワード「特別賞(パートナーシップ賞)」(SDGs推進本部)を受賞するなど、環境問題へ積極的に取り組んでいる。
「SDGsを広める上で、互いにとってメリットしかない。そう考えて『世間での認知度を高めるため、一緒に情報発信していきましょう』と当社から市に呼び掛け、快諾をいただきました」(森田氏)
環境問題へ積極的に取り組む北九州市とシャボン玉石けんは、以前よりさまざまな活動で連携してきた。少量の水で迅速に消火でき、消火後も環境負荷の少ない石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」を、北九州市消防局や北九州市立大学、古河テクノマテリアルとの産学官連携で開発。現在はこの技術を応用し、インドネシアの泥炭・森林火災用消火剤の普及実証実験に共同参画している。冒頭で紹介した「手あらいうた」も、北九州地域感染制御ティームの監修によるものだ。
包括連携協定で推進する活動は多面的だが、初年度は「防災・災害対策」「健康増進」「SDGsの推進」「ふるさと納税」の四つをスタートした。防災・災害対策は石けん系泡消火剤の開発・実証実験を継続。健康増進は、北九州市立八幡病院の医師や地場ドラッグストア、学校や自治会など広範囲な連携で感染症対策を推進。ウイルスを不活化する無添加石けんハンドソープ「バブルガード」を使用し、感染予防の手洗い教室を開催している。
「自治体と地域企業が連携したことで、『やりたくてもできなかったことが実現できた』との言葉をドラッグストアからいただきました。北九州市立八幡病院の院長・伊藤重彦先生は感染予防研究の第一人者でもあるので、つながりを深め、活動を広げていきたいと考えています」(森田氏)
さらに、SDGsの認知・理解促進に向けて、北九州市や朝日新聞社と「私のSDGsコンテスト」を共催。川柳・フォトの2部門に4710件の応募が集まった。地域貢献としては、ふるさと納税制度の返礼品を新たに開発し、市の財源確保に協力している。
国内屈指の炭鉱都市として栄えた北九州市は公害問題を、シャボン玉石けんは合成洗剤と決別し17年続いた赤字経営の危機を、どちらも乗り越えて転機に変えた共通点がある。パラダイムシフトや次代を見据えたアプローチに共感・共鳴し合える包括連携は、これからさらに実りあるものになろうとしている。
差別化と共感で商品需要が全国で拡大
2020年6月、シャボン玉石けんは1% for Natureプロジェクトの対象商品を洗濯用や食器洗い用の無添加石けんにも拡大。また、同年秋には、固形石けん包装フィルムをリサイクル資材へと変更予定である。
「SDGs宣言から1年が過ぎ、当社の取り組みは市民や取引先に広く知られるようになりました。その手応えが社員のモチベーション向上につながっています。『もっと人や環境に良い製品をつくろう』との意識が高まり、商品企画以外の部署からも開発提案が生まれ始めています」(森田氏)
ここ数年、全国の地場スーパーマーケットやドラッグストアで、シャボン玉石けんの商品群の取り扱いが増えている。価格競争と一線を画す差別化商品として、来店の動機付けになることや、無添加石けんへの共感が高まっていることが理由だ。「店内にSDGs専用売り場をつくりたい」「体にやさしい健康商品を共同開発したい」というオファーも相次いでいるという。
また、最近では病院や老人介護施設などの医療分野や食品工場、幼稚園・保育園などでバブルガードの需要が増えている。バブルガードで洗うと手荒れが改善するだけでなく感染症予防にもなると人気が高まり、従来のBtoCだけでなく、BtoBの新ビジネスへの期待が高まっている。
「ゴール(目標)達成に向け、また無添加石けんの価値を『当たり前のこと』として知ってもらえるよう、2020年度中にSDGs推進の中長期計画を発表したいと考えています。コロナショックに負けず、力強く活動し続けますよ」(森田氏)
SDGs達成を目指す2030年、シャボン玉石けんは創業120周年を迎える。それは同社が「その先」へと進むためのマイルストーンになるだろう。
シャボン玉石けん代表取締役社長 森田 隼人氏
Column
SDGsに取り組まないリスク
持続可能性というSDGsのキーワードは、17のゴールの達成という結果だけでなく、実現するプロセスにおいても重要になる。 「SDGsに取り組んで、無添加石けんをたくさん売ろうということではありません。でも、環境意識が高まって持続可能であることを目指す世の中になれば、必然的に当社の製品を選ぶ方は増えていくでしょう」(森田氏) 企業の持続可能性は「ヒト・モノ・カネ」によるところが大きいが、次代を生きる若い世代ほどSDGsへの関心は高いと語る森田氏は、採用活動においても、SDGsに取り組まないことがリスクになり得ると指摘する。共催した「私のSDGsコンテスト」で自ら審査員を務め「シャボン玉石けん賞」を選んだ時も、フォト部門の高校1年生の作品が胸に響いたという。整然とした学校の教室に、一つだけ汚れて乱雑な机がある構図だ。 「SDGsの本質を言い当てているというか、深いなと。自分だけ、1社だけやっていてもダメで、みんなでやらないと達成できないんですよ、SDGsは。だからこそ全ての企業や経営者に、一緒に取り組んでいただきたいと思っています」(森田氏) Leave no one behind(地球上の誰一人として取り残さない)と誓うSDGsは、ゴール達成に向かって「誰か」ではなく、「私から」始まる。PROFILE
- シャボン玉石けん(株)
- 所在地:福岡県北九州市若松区南二島2-23-1
- 設立:1949年(創業:1910年)
- 代表者:代表取締役社長 森田 隼人
- 売上高:67億円(2018年度・2019年度グループ計)
- 従業員数:135名(グループ計、2020年5月現在)