モデル企業
2020.04.30
見積もりの自動化で調達にイノベーションを起こす:CADDi(キャディ )
必要な情報を入力するだけで、わずか「7秒」で見積もりを算出
図面データをアップロードして必要項目を入力すると、最短7秒で見積もり結果が返ってくる。受発注者の双方を助ける“サービス”が製造業の「調達」を革新し、注目を浴びている。
見積もり業務を超スピードアップ
日本の製造業を支える町工場にとって、メーカーの発注に対する見積もり作業の負担は重い。手間をかけた揚げ句、受注を逃すこともある。
「受注の機会を得るためには仕方ない」と町工場が諦めたこの課題の解決に挑戦している企業がある。2017年に創業し、「モノづくり産業のポテンシャルを開放する」をミッションに掲げるキャディだ。
板金加工などの金属加工を専門とする受発注プラットフォーム「CADDi(キャディ)」を開発。経済産業省主導の官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」に認定、『週刊東洋経済』(2019年8月24日号、東洋経済新報社)の「すごいベンチャー100」にも選出され、2018年12月には総額10億2000万円の資金調達を行うなど、破竹の勢いで製造業界に旋風を巻き起こしている。
CADDiは、独自開発の原価計算アルゴリズム(計算手順)にのっとった受発注システム。図面データを基に、品質・納期・価格が最も適合する会社とのマッチングを図る。
発注者はまず、CADDiのサービスサイトに図面データをアップロードし、完成品の材質や表面加工方法、溶接の種類といった仕様を指定する。その入力条件をシステムが自動で解析。3D(3次元)CADデータならわずか7秒、2Dの場合でも平均2営業日以内に見積もりが算出される。発注側は低価格で高品質な加工品を安定発注でき、受注側である加工会社は相見積もりによる失注をなくし、安定的に仕事を受けることができる。
2020年3月現在、CADDiは板金加工品をメインに取り扱っているが、顧客の需要に応える形で、機械加工をはじめとする他の製品カテゴリーについても対応を進めている。
取り残された調達業務にイノベーションを
製造業においては、設計にはCADなどのシステムが導入され、製造現場では自動化やロボット化が進み、販売にもAIやビッグデータが活用されている。だが、調達には大きなイノベーションが起きていない。特に、見積もり作業は旧態依然のやり方が続けられてきた。
メーカーの調達担当者は、多品種少量の図面を1日に400枚ほど確認しつつ部品を調達しなければならない。そのため、100~200枚の図面をまとめて数社の加工会社に渡し、相見積もりを取ることになる。
見積もりが算出されるまでは1~2週間。途中で設計や仕様の変更があればさらに延びる。そこから一番価格の安いところに発注し、値段交渉、納期の調整と、まだまだ手数と時間がかかる。
また、加工会社側は、まとめて受注した図面に得意でない加工があっても無理して受けるか、できない場合は外注するので、コストも納期もどんどん厳しくなっていく。
見積もり作成業務にもかなり時間を取られ、営業時間外に行うことがほとんどだが、受注率は2割程度しかなく、ほとんどが無駄な作業になってしまう。
このように、受発注の両方にとって見積もり業務は大きな負担だが、CADDiはその負担を大幅に軽減することができる。形状解析、工程分解、原価計算の3ステップで実現した独自のアルゴリズムによって、設計変更があってもすぐに新たな見積もり金額が算出できる。シンプルで使いやすいUI(ユーザーインターフェース※)の裏側で、高度なテクノロジーが仕事をしているのだ。
※ユーザーがパソコンとやり取りをする際の入力や表示方法などの仕組み
発注コストを25%ダウン町工場は技術向上に集中
また、発注側は調達コストを25~30%削減できるという。
「当社の代表取締役である加藤勇志郎が前職時代に、複数の異なる加工パターンの部品見積もりを全国にある100社の町工場に依頼し、どれくらいの価格差が出るのか実験したところ、最大19.2倍もの価格差が出ました。つまり、加工ごとに持っている強みが異なるので、最適な町工場に発注することができればコストは下げられるのです」
キャディのブランドコミュニケーショングループの浅野麻妃氏はそう説明する。板金加工といってもその方法は多岐にわたり、そこに材質や板厚などの要素も入ってくるので、CADDiでは強みのカテゴリーが何百種類にも分類される。
「加工会社の8割以上は9名以下の零細企業で、各社が本当に得意とする加工は2、3種類。売り上げ確保のために不得意な加工でも受けざるを得ませんでした。しかしCADDiは加工会社ごとの強みをベースに案件を発注するので、利益を確保した状態で案件を受けることができます」(浅野氏)
日本全国にある提携先工場の製造プロセス・製造原価のデータベースを基に価格を自動で算出し、最適な加工会社に確定発注するので、自分たちの得意な分野に集中することができる。
「本来であれば、町工場が注力すべきはモノづくりの技術を研さんすることや、新しい技術に投資していくことです。しかし、相見積もりなどの構造的な負によって忙殺されてそれもままならず、衰退していってしまう。
不得意な分野や無駄な作業を取り除き、本来注力すべきところに時間を使ってほしいというのが当社の思いです」(浅野氏)
このような考えから、キャディは「町工場を救済する」という文脈で紹介されることがあるが、町工場を助けようと思っているわけではないと浅野氏は続ける。
「『弱っているから助けてあげよう』というのは、ビジネスの関係性として健全ではありません。強みとする加工領域がある町工場、成長や改善の意思を持っている経営者さまと共に成長していきたいと考えています」(浅野氏)
同社との提携により、実際に経営が改善した事例も少なくない。
ある工場は、従業員が3名しかおらず不安定な受注で経営も安定していなかったが、CADDiを通じて取引するようになってから安定受注を実現でき、数十年ぶりに4人目の社員を雇用することができた。また、安定して売り上げの見通しが立つため、新たに設備投資をしたいという工場も出てきている。
工場にとっては資金繰りも大きな問題だ。発注があった段階で材料を確保しなければいけないが、約束手形は4~6カ月後でないと現金化できないため、そこまで持ちこたえられずに倒産してしまうことがある。
「当社からの支払いは現在、1カ月後です。これでもかなり喜ばれますが、将来的には発注と同時に入金という形にして、町工場のキャッシュフローの健全化に寄与したいと考えています」(浅野氏)
さらに、CADDiを使用することで業界の景気による浮き沈みをならすことが可能だ。例えば、食品製造業界が厳しく発注が少ない状況であっても、発注の多い半導体業界などからの受注を受けて再分配できる。この強みが、工場への安定発注につながっている。しかもキャディの利益は発注する際に手数料として組み込まれているため、CADDiを活用する工場も負担がない。
生産管理システムの提供で超短納期を目指す
キャディはマッチングだけでなく、工場から納品される部品の品質管理まで行うことで、発注側の信頼を得ている。品質マネジメントシステムに関する国際規格「ISO9001」の取得はもちろん、品質管理部門の設置や提携工場へのフィードバックなどにも力を入れており、現在、取引のある工場数は約300社、発注側の企業数は4000~5000社に上る。2019年の夏ごろから戦略的に、食品機械や包装機械、半導体の製造機械などの産業機械、装置一式という領域にフォーカスした。
「この1年で多くのメディアに取り上げていただいたことで認知度が向上し、引き合いも増えてきました。初めは20歳代という若い創業者の会社ということで警戒され、門前払いされることもたびたびありました」と浅野氏は振り返る。
同社は今後、膨大な受発注データを基に周辺領域のアプリケーションサービスへと展開していくことを考えている。
例えば、生産管理システムだ。中小企業などの工場の生産管理には、発注書を印刷してマグネットで機械に張り、加工が終われば線を引いて消すというアナログの作業風土が今も残っている。ミスが起こりやすく、リアルタイム性も低い。生産管理システムを提供している会社はあるが、高額で中小・零細工場には手が届かない上、多機能すぎて使いこなせないのが現状だ。
「当社はかなり安価に生産管理システムを提供できると考えています。全ての受発注をこのシステムで管理してもらえば、稼働状況がリアルタイムで分かるようになる。そうなれば空き状況に応じてピンポイントで発注することも可能になり、超短納期の実現も夢ではありません」(浅野氏)
すでに生産管理システムの開発は進んでおり、早ければ2020年内に完成できるという。
「テクノロジーで、製造業に関わる人、みんなを幸せにしたい」と語る浅野氏。製造業界の世界的インフラの構築へ、新たな発想と手法による貢献が今後も期待される。
キャディ ブランドコミュニケーショングループ 浅野 麻妃氏
PROFILE
- キャディ㈱
- 所在地:東京都台東区蔵前1-4-1
- 設立:2017年
- 代表者:代表取締役 加藤 勇志郎
- 社員数:70名(2020年3月現在)