2025年5月に発表した中期経営計画で、事業戦略におけるM&A実行の仕組みを明確に示したスターティアホールディングス。「必然的なM&A」で顧客基盤のさらなる拡大と既存事業とのシナジー創出を図り、企業価値の最大化を目指す。
誰も置き去りにしないIT・DX支援で全国5万社を超える顧客基盤を確立
インターネットが爆発的に普及し始めた1996年に創業したスターティアホールディングスは、通信回線をはじめとするITインフラの整備や、業務を効率化してビジネスを強化するDXソリューション関連の製品・サービスをBtoBで幅広く提供している。
1985年に通信が自由化されて競争が激化していたレッドオーシャンの中で、中堅・中小企業の「はじめの一歩」に寄り添い、顧客の課題を起点に商材を広げて成長してきた。
同社がM&Aに取り組み始めたのは2007年、信頼関係のある取引先からの紹介で複合機のメンテナンス事業を譲受したのがきっかけだ。ITインフラ業界では2000年代に入ってからクラウドシフトが驚異的な速度で進み、激しい淘汰の波が押し寄せていた。テクノロジーの進化のスピードに社会全体が振り回される中、業界全体で発展していかなければ自社の未来もないと考えた同社は、その後も仲介会社をはさまずに「つながり」のある競合他社から約2万社の顧客を承継。全国5万社を超える盤石な顧客基盤を確立した。
M&Aでシナジーを生み出し顧客と共に未来機会を創造する
同社は、2020年に5カ年の中期経営計画「NEXT’S 2025」を発表。フロービジネスからストックビジネスへと全社的に大きく転換するかじを切った。電子ブック作成ソフト「Actibook(アクティブック)」をはじめ、約15年かけてラインナップしてきた自社開発のデジタルマーケティング製品を、売り切り型からサブスク型に切り替え、新しいSaaSブランド「Cloud CIRCUS(クラウドサーカス)」として統合したのだ。
そして、サイトやロゴの全面的なリニューアルやテレビCM・タクシー広告・展示会などへの大規模な集中投資を実行。
「もっと楽に・もっと楽しく顧客を増やせるデジタルマーケティングツール」という世界観を確立して、社会全体への認知拡大を推進した。
2020年に同社に中途入社し、マーケティングの責任者としてクラウドサーカスのブランド再構築に貢献してきた執行役員CDOM&A推進部長兼AI・データ推進部長である石田拓己氏は、同社の根底にあるDNAを次のように語る。
「当社は、『お客さまにぴったり寄り添うところからビジネスを始める』というマインドが非常に強いと思います。継続的にM&Aに取り組んできたのも、単に売上高や顧客数を増やすためではありません。日本全国には、DXやAI活用の前に、そもそもデジタル化の一歩を踏み出せていない中堅・中小企業がたくさんあります。当社はそのような中堅・中小企業に向けて提供できる価値を増やすために、M&Aでシナジーを創出し、お客さまと共に『未来機会を創造する』というミッションを実現していきたいのです」(石田氏)
石田氏は、採用面で苦しんでいるITインフラ関連企業が非常に多いと指摘する。
「行き詰まってしまう前にM&Aで合流できれば、クロスセルやアップセルを通じてお客さまに提供する価値を増やすことができます。また、当社が長年にわたり力を入れてきた新卒採用や営業人材の育成においても、ナレッジを共有することで共に成長していけるでしょう。
当社が目指しているのは、中堅・中小企業の成長を支えるDXエコシステムの形成であり、グループ全体、ひいては業界全体で顧客・取引先・社員・経営者の『四方よし』が確実にずっと続くM&Aなのです」(石田氏)
譲渡企業との対話を重ねマーケター視点でシナジーの可能性を探る
同社は、さらに大きなインパクトをもって成長を加速していくために、M&A仲介会社を活用してM&Aのチャネルを拡大していく方針を決定。2025年1月、石田氏を中心とする「M&A推進部」を発足した。
スターティアホールディングス 執行役員CDO M&A推進部長 兼 AI・データ推進部長 石田 拓己氏
「推進部は私を含めて専任が2名、兼任が3名の計5名体制です。マーケティング・ファイナンス・人事・新規事業開発など、それぞれ異なるバックグラウンドを持つメンバーであり、いわゆるM&Aの専門家ではありません。しかし、重要なのはM&A後の未来、つまり『いかに事業シナジーを創出して顧客を増やせるか』というビジネスの勘所です。その点は、マーケティングのモデルと非常によく似ていると思います」(石田氏)
推進部ではまず、高速・高頻度で意思決定できる検討プロセスの体制を整備するとともに、実行プロセスをステップごとに分解してKPI(重要業績評価指標)を設定。投資基準やPMI(経営統合)をモニタリングするためのフォーマットも体系化した。
「M&Aの実行状況はデータドリブンに管理しています。仲介会社に『新規案件が来たら真っ先に思い浮かぶ紹介先』として認識してもらえるよう、定期的にコミュニケーションを取り、こちらからもレポートを送るなど、担当者の方と『気持ち』の面でしっかりとつながっておくことを心掛けています。分析のフェーズでは、具体的にどのくらいのクロスセルを生み出せるか、新規事業の開発につなげられるかなど、相手先のビジネスや顧客について深く掘り下げ、AIも活用しながら複層的にシミュレーションを行っています」(石田氏)
デューデリジェンスの前段階で入手できる情報は限られているが、相手先の業種・規模・エリアなどをしっかり見た上で、ヒアリングの中でもできる限りシナジー創出の根拠を数値的に洗い出すという。
限られた面談時間内にM&Aの成否を見極める秘訣について、石田氏は次のように語る。
「こればかりは、面談の場数を踏んで質問力を磨いていく以外にないと感じています。書類だけではどうしても分からない部分がありますから。何度か失敗を重ねる中で、ビジネスデューデリジェンスにつながる重要なポイントを確認するための質問や、リスクを回避するための質問ができるようになってきました。だからこそ、M&Aにおいては分母の数を増やしていくことも非常に大切だと思っています。
当社では現在、①仲介会社提携数、②リード数、③企業概要書(IM)検討数、④意向表明数、⑤最終契約締結数のKPIをそれぞれ設定して、M&Aの実行状態を細かく管理しています」(石田氏)
最終契約締結数の目標は、2025年度から2027年度までの3カ年で累計14件。初年度に最終契約にいたった案件はなかったが、石田氏は確かな手応えを感じている。
「昨年度は分母としてのリード数を十分に獲得し、パイプラインを築くこともできました。事業戦略上、必然性のあるM&Aを実現していくための布石を打てたことが最大の成果です。今年度は、いよいよ視野を広げて検討を進めていきます」(石田氏)
PMIはタイムラインを明確に
同社の目下の課題は、SFA(営業支援システム)の統合だ。クロスセルなどによって事業シナジーを創出していくには、M&A後にグループ全体で顧客データを効果的に活用できるよう、環境の一元化を進めていく必要がある。
そこで、PMIプロジェクトの一環としてSFAの管理部門を統合し、「AI・データ推進部」を新設した。単にシステム上でデータを統合するだけではなく、グループ企業間で担当者同士がリアルタイムに顧客とのコミュニケーション状況を共有できるよう、中長期的な計画を立てて進捗を管理している。
「M&A推進部」と「AI・データ推進部」が連携することにより、事業成長の速度をさらに高めていくことが最大の目的だ。また、「M&A後〇〇日までにこういう状態に持っていく」という明確な目標を定めて、さらに解像度の高いPMIのモニタリングを行っていく方針だという。
同社は約20年にわたる継続的なM&Aで顧客基盤を全国に拡大しながら、新卒採用と営業人材の育成に力を注ぎ、生産性と営業利益を大幅に向上させてきた。2025年3月期の売上高は222億1176万円(前期比13.5%増)、営業利益は約27億3776万円(前期比19.9%増)と過去最高を更新。2024年度の従業員一人当たり営業利益はITインフラ事業で430万円(2020年度の2.15倍)、DXソリューション事業で420万円(同8.4倍)と、めざましい成長を遂げている。
この勢いを緩めることなく、2028年3月期にはM&Aとシナジー領域で売上高80億円、営業利益8億円を積み上げて、連結売上高370億円、営業利益50億円を達成するという目標を掲げている。
「当社は創業当初から『人』を大切にして成長を遂げてきました。それは、今後も不変です。今後は人事部門との連携を強化して、2025年に立ち上げた『経営人材育成プログラム』を通してグループ各社をけん引するリーダーを育成していきます」と石田氏は続ける。
「誰もが挑戦し永続進化できる世界」というビジョンの実現に向けて、スターティアホールディングスは、さらなる高みを目指していく。
スターティアホールディングス(株)
- 所在地:東京都新宿区西新宿2-3-1 新宿モノリス19F
- 創業:1996年
- 代表:代表取締役社長 本郷 秀之
- 売上高:237億9004万5000円(2026年3月期)
- 従業員数:1053名(2025年3月現在)