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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.06.29

長年の経営課題「豆菓子の内製化」を再生型M&Aで実現 風雅

有明海苔のりで豆菓子を巻く、独自の食感と味わいで人気を集める「風雅巻き」。風雅は熊本地震(2016年)を機に、長年の課題であった豆菓子の内製化に着手した。経営難の豆菓子メーカーをM&Aし、製造機能を自社グループに統合して、地域企業の再生と新たな成長を目指している。


有明海の特産品の「おいしい海苔」にこだわった「風雅巻き」。高品質で粒が均一な国産の大豆味、ピスタチオやピーナッツ、アーモンド、そら豆、チーズあられなど、バラエティに富んだ味わいも人気の秘訣

有明海の特産品の「おいしい海苔」にこだわった「風雅巻き」。高品質で粒が均一な国産の大豆味、ピスタチオやピーナッツ、アーモンド、そら豆、チーズあられなど、バラエティに富んだ味わいも人気の秘訣



熊本地震で見えた外部委託頼みのリスク

熊本を拠点に、海苔のり菓子「風雅巻き」を主力商品として成長してきた風雅。看板商品は地域で愛される味から全国ブランドへと育ち、全社売上高も拡大基調を続けている。その一方で、同社は長年、ある経営課題を抱えていた。風雅巻きの中身である豆菓子を、自社では製造していなかったことである。


その課題を強く意識する転機となったのが、2016年の熊本地震だった。塚田利郎社長は、最初の揺れの後には「1週間ほど休めば再開できるのでは」と考えていたという。しかし、その晩にさらに大きな地震が発生し、家も会社も再び大きな被害を受けた。全国から励ましの声や注文が届く一方で、工場が十分に稼働できず、出荷できない状況が続いた。


特に影響が大きかったのが、豆菓子の供給だった。海苔は自社の原点でもあり、知見も蓄積されていたが、豆菓子については外部委託に依存していた。委託先は2社あったものの、生産量の約8割を1社が担う構造で、その主要委託先が震源地に近かったことで、供給が滞る事態に陥ったのである。


塚田氏は「安定供給の難しさに直面し、リスクヘッジの意味も含めて、豆菓子メーカーをグループに迎えるM&Aを強く意識するようになりました」と振り返る。




豆菓子の内製化へ本格始動したM&Aプロジェクト

震災は、風雅にとって豆菓子の内製化を「いつか解決したい課題」から「早急に手を打つべき経営課題」へと変えた。加えて、主要委託先は後継者難で別企業の傘下に入り、その後さらに大手食品企業グループの傘下へと移っていった。もし親会社の経営方針が変わり、供給が止まれば、「風雅巻き」そのものが立ち行かなくなる。自社ではコントロールできない外部環境に、事業の根幹を握られている状態だった。


そこで2020年、風雅は豆菓子の内製化を目指すM&Aプロジェクトを本格始動させた。自社の経営課題を整理し、中長期の成長戦略と結び付けながら、候補企業のリストアップと精査を進めていった。


重要なのは、M&Aが長年の課題意識に基づく戦略的な取り組みだった点だ。


もっとも、候補先探しは簡単ではなかった。「風雅巻き」に使う豆菓子には独自の品質が求められる。粉巻きや焙煎ばいせんの工程で、軽くサクッとした食感を実現しなければならず、そのためには高い製造技術が必要になる。加えて、近年は食品製造における衛生管理の水準も厳格化しており、技術・衛生管理の両方を高いレベルで備えた企業は限られていた。


さらに物流面の制約もある。輸送距離が長くなれば、豆菓子の破損リスクが高まる。つまり、候補企業には品質、衛生、物流の3条件を満たすことが求められた。


そこでプロジェクトでは、最初から候補を狭く絞り込まず、全国を視野に入れて網を張った。結果としてこの取り組みは、有望な候補先を探すだけでなく、豆菓子業界や技術をより深く知る機会にもなったという。


候補先の1つとして早い段階から挙がっていたのが、広島の老舗豆菓子メーカー・イシカワだった。イシカワは、設備や技術、人材を有する一方で、財務面では厳しい課題を抱えていた。


塚田氏は、イシカワを訪れた際の印象について「新工場は衛生面でも高く評価でき、実際に商品を食べても、自分たちが求める品質を十分に備えていた」と振り返る。つまり、ものづくりの力には手応えがあったわけだ。


ただ、当初は株式譲渡スキームでの検討だったため、負債も含めて引き継ぐ必要があり、風雅にとっては負担が大き過ぎた。そのため、いったんは見送られている。




風雅の「売る力」とイシカワの「つくる力」で強みを補完し合う

転機が訪れたのは約3年後だ。案件が、必要な設備・技術・人材などを引き継ぐ再生型M&Aとして再編され、事業譲渡スキームに変わったことにより、風雅にとって現実的な選択肢となった。こうしてイシカワは、風雅にとって現実的な選択肢として再び浮上した。


デューデリジェンスで見えてきたのは、イシカワの課題が「つくる力」ではなく「管理」にあるという事実だった。商品力や製造技術そのものに大きな問題があったわけではない。むしろ、ものづくりの力は十分にあった。


問題は、原価管理や販売管理といった経営面だった。原材料費や資材費、人件費が上昇する中で、原価の見直しが十分に行われず、売れば売るほど赤字が膨らむ構造になっていたという。さらに、製造効率を優先してアイテム数を減らしたことで、売上高や取引先も減少していた。


塚田氏は、ここに再生の可能性を見いだした。


「原因が見えれば、打つべき手も見えてきます。ものづくりではなく、管理が赤字の最大の要因でした。逆に言えば、管理を見直せば再生の道筋は描けると考えました」


この点に、風雅は自社の強みを重ねた。風雅は海苔菓子のブランド力に加え、直営店や百貨店といった販路を持ち、付加価値を高めて高価格帯で販売するビジネスモデルを築いてきた。つまり、イシカワの「製造力」と、風雅の「販売力・経営力」は補完関係にあったのである。


今回のM&Aは、豆菓子の内製化という課題解決に直結するだけでなく、両社の強みを掛け合わせて新たな成長機会を生み出す「垂直統合型M&A」でもあった。




シナジーはすでに始まっている逆委託が生んだ新たな可能性

M&A後のPMIでまず重視されたのは、派手なシナジー創出ではなく、事業の立て直しだった。再生案件である以上、原価の見直しや値上げ対応を進め、まずは赤字構造を食い止める必要があったからだ。


ただ、その一方で塚田氏が一貫して重視したのは「人」だった。技術は人についている。だからこそ、全従業員の雇用を継続し、離職を防ぐことを最優先したという。社員説明や個別面談を通じて不安や不満を吸い上げ、現場の声に耳を傾けながら、未来への安心感を醸成していった。


「会社は人間の集合体。誰一人欠けても会社は成り立たない。社長がイシカワなのではなく、従業員一人一人がイシカワなんです」


この言葉は、今回のM&Aの本質を端的に表している。制度やスキームだけではなく、人をどう生かすかが再生型M&Aの成否を分けるという考え方だ。


統合によって、風雅側の社内にも変化が生まれている。当初は「民事再生を出した会社を買うこと」への不安もあったが、豆という新たな武器を得たことで、商品開発や商材の広がりに対する期待が高まっていった。実際、豆菓子や関連商品の新たな開発も進行しており、そのための設備投資も始まっている。


さらに、想定外だったのが、既存取引先からの逆委託だ。風雅がイシカワをグループ化したことで、従来の委託先側が警戒感を持つ場面もあったが、対話を重ねる中で、逆に「作り切れない商品を生産してほしい」という相談が持ち込まれた。これは工場の稼働率向上や原価低減、安定売上の確保につながる可能性がある。


つまり今回のM&Aは、単なる内製化ではなく、地域の豆菓子業界における新たな連携の芽も生み出しているのである。


風雅 代表取締役社長 塚田 利郎氏

風雅 代表取締役社長 塚田 利郎氏


この再生型M&Aを支えたのが、タナベコンサルティングによる一貫支援である。風雅の経営課題を起点に、豆菓子の内製化というテーマを中長期の成長戦略に位置付け、候補企業のリストアップ、デューデリジェンス、再生局面での検討支援、さらに買収後のPMIまで、プロジェクト全体を通して伴走した。


単なる仲介や案件対応にとどまらず、構想段階から統合後の実行までをつなぐ支援があったことで、風雅にとってこのM&Aは、長年の経営課題を解決するだけでなく、地域に根差した老舗企業の再生と、その先の成長へ向けた一手となった。


塚田氏も、その価値について次のように語る。


「M&Aは手段であって、ゴールではありません。その意味で、構想段階から戦略立案、リストアップ、デューデリジェンス、買収後のPMIまで、一気通貫で伴走してもらえるパートナーの存在は大きいです」


風雅にとってM&Aは、長年の経営課題だった豆菓子の内製化を実現する一手であると同時に、地域に根差した老舗企業の再生にもつながる取り組みとなった。そこにあったのは、製造機能を獲得する合理性だけではない。人を生かし、歴史あるブランドをつなぎ、未来の成長へ結び付けていくという意思だった。



(株)風雅

  • 所在地:熊本市東区江津4-1-1
  • 設立:1990年
  • 代表者:代表取締役社長 塚田 利郎
  • 売上高:26億円(2025年8月期)
  • 従業員数:143名(2026年5月現在、パート・アルバイト含む)