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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.04.30

JALグループ経営ビジョンに学ぶ、レジリエントな事業ポートフォリオと社会価値創出 日本航空

※ 写真はイメージです



成長・持続・社会インパクトを束ねて稼ぐ力をつくる

不確実性が常態化した今、グループ経営の勝敗は「規模」ではなく「構造」で決まる。すなわち、環境変化に耐え、状況が変われば素早く配分を切り替えられるレジリエンス(回復力)を、事業ポートフォリオそのものに埋め込めているかどうかである。


その好例として、日本航空(以降JAL)が2026年3月に公表した新たな成長戦略「JALグループ経営ビジョン2035」を取り上げたい。同社は「事業ポートフォリオ変革を推進し、社会価値創出と着実な成長を実現」すると明言している※1。本稿では、その設計思想を事例として読み解く。


JAL公表資料では、長期の方向性を示す「10年ビジョン」と、環境変化に応じて動かす「機動的な単年度計画」を併用する考え方が示されている。これは、先が読みにくい時代における意思決定の“型”である。


中堅・中小企業においても同様に、「変えない勝ち筋(5~10年)」と、「年次の資源配分(1年)」を分けて設計すると、景気・金利・人材・サプライチェーンの変動に振り回されにくくなる。


また、JALの事業ポートフォリオの特徴は、事業の羅列ではなく次の3つの役割に分けて語っている点にある。これはグループ経営における「何に賭け、何で守り、何で未来をつくるか」を明確にする技術である。


Growth(成長):国際線(FSC+LCCの両輪)や貨物など、成長ドライバーを明確にし、供給力強化を図る方向性が示されている。


Sustainability(持続性):国内事業の構造改革など、収益基盤を守りながら強くする領域。


Social Impact(社会インパクト):AMOPを核とした次世代モビリティーなど、将来の社会課題解決と新市場創出に接続する領域。


中堅・中小企業がこれらを生かすには、自社・グループの事業をまず、「稼ぐ柱(成長)」「利益を守る柱(持続)」「次の種(社会価値・新規)」の3つに区分することだ。それだけで、投資・撤退・人材配置の議論が前に進む。


この3軸を単なるスローガンで終わらせないために、JALは「どこに、いくら、何のために投じ、何で評価するか」まで落としている。すなわち、ポートフォリオ変革を「絵」ではなく、投資とKPI(重要業績評価指標)で裏打ちしている点がより明確である。例えば国内線は「利益率10%」の達成を掲げ、マイル・ライフ事業は会員基盤(JMB会員4000万人、JALカード会員360万人)を起点に伸長させる構想である※2


重要なのは、成長・持続・社会価値という3軸を「投資配分」と「人材変革」で一体化して回そうとしている点である。


※1 日本航空プレスリリース「新たな成長戦略『JALグループ経営ビジョン2035』を策定」(2026年3月2日)
※2 日本航空「JALグループ経営ビジョン2035」



複数の要素を組み合わせてレジリエンスを高める

JALは、レジリエンスを「安全」「供給力」「財務」「人材」という複数の要素を組み合わせて高めるものとして整理している。


❶ 安全を土台に据える
公表資料では、安全を全活動の基盤に置き、航空事故・重大インシデント「ゼロ」を継続目標とする旨が示されている。航空業界の特性ではあるが、中堅・中小企業に置き換えれば「品質事故・重大クレーム・重大労災」を経営指標として把握し、月次で見る姿勢に相当する。


❷ 供給力は「投資の意思」で決まる
JALは今後の戦略的配分として「今後5年間で2兆円を超える戦略的な経営資源配分」を掲げている。規模はまねできなくとも、示唆は明快である。レジリエンスは“節約”だけではつくれない。供給力のボトルネック(設備・人員・IT・物流)を特定し、意図して投資する必要がある。


❸ 財務レジリエンスは「投資と還元の両立」で説明する
JALはEBIT目標(2030年度・2035年度)など複数年のターゲットを示している。中堅・中小企業においても、売り上げ目標より先に「何で利益とキャッシュをつくるか」を説明できると、金融機関・株主・従業員に対する納得度が上がる。その結果、攻めの意思決定がしやすくなる。


❹ 人材とテクノロジーをセットで投資対象にする
DX・AIなどテクノロジー投資や人的投資を明確に示している点も、レジリエンスの設計として重要である。中堅・中小企業のグループ経営では、子会社を増やした瞬間に「管理・経理・人事・安全品質」の共通基盤が弱点になりやすい。ここを投資対象として扱う発想が、事故を減らし、成長投資の速度を上げる。


JALは「社会価値創出と着実な成長」を並列に掲げる。さらに公表資料では、2050年のCO₂排出量実質ゼロなど脱炭素の方向性が示されている。社会価値を“別枠の活動”ではなく、事業ポートフォリオの中に置いている点が示唆的である。


中堅・中小企業において社会価値は、経営成果に直結する。具体的には、採用では理念と実行が伴う企業ほど人材が集まりやすい。受注では取引先から求められるサプライチェーン対応(品質・人権・環境)を満たしやすくなる。資金調達では金融機関・投資家に対する事業の説明力が高まり、理解を得やすい。地域面では自治体や地場企業との連携が進み、新たな機会が生まれやすくなる。


要点は社会価値を語ることではない。どのテーマを、どの事業の競争力に接続するかを決めることだ。


本事例から、自社でもすぐに実装できる要点を3つに絞る。


❶ 事業を3区分する
成長・持続・社会インパクト(新規)に棚卸しし、各区分のKPIを1~2個だけ決める。


❷ レジリエンスKPIを月次で見る
品質・安全(重大ゼロ)、キャッシュ(資金繰り余力)、要職人材(後継・欠員)の3点だけでもよい。


❸ 社会価値テーマを1つに絞り、事業に接続する
脱炭素、地域、人的資本のいずれかを選び、「採用・受注・生産性」に結び付く施策に落とす。


JALのビジョンが示すのは、レジリエンスが“守りの施策”ではなく、事業ポートフォリオ変革を回し続けるための攻めのインフラだという点である。中堅・中小企業のグループ経営においても、この発想に立てば、次の一手が打ちやすくなるはずだ。



日本航空(株)

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  • 設立:1951年
  • 代表者:代表取締役社長執行役員 鳥取 三津子
  • 売上高:1兆8440億9500万円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数:3万8433名(連結、2025年3月現在)