•  
モデル企業のメインビジュアル
モデル企業
モデル企業
【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.04.30

不変の在りたい姿へ、その時々の変化に適応 サンマルクホールディングス

熱々の焼きたてパンを、食べ放題で好きなだけ、おいしく味わえる喜び――。そんな至高のひとときの体験と、代名詞となったチョコクロで、高い人気と知名度を誇るサンマルクホールディングス。ベーカリーレストランに始まるカフェ事業、鎌倉パスタなどのレストラン事業に2024年、M&Aで新たに牛カツ事業が加わり、3つのブランドを基軸に構成するグループ経営で、確かな成長軌道を描き続けている。


サンマルクホールディングス 代表取締役社長 藤川 祐樹氏

サンマルクホールディングス 代表取締役社長 藤川 祐樹氏



M&Aで新業態を打ち立てる「フェーズ3」

「晴れの国」と呼ばれる岡山。温暖な気候で農産物に恵まれたこの地で、豊かな食の空間・文化を創り出すサンマルクグループは誕生した。


カフェ・パスタ(レストラン)・牛カツの3業態をメインブランドに、グループ877店舗(2025年9月末)を展開。2026年3月期の売上高は前年比24%増の880億円、営業利益も同37%増の50億円を計上見通しで、5カ年中期経営計画が終わる2029年3月期は目標を上方修正し売上高1000億円の達成を見据える。


持続的な成長を遂げるグループ経営をけん引するのは、2022年に34歳で社長に就任した藤川祐樹氏だ。5年間で売上高は倍増、営業利益はプラスに転じ、初のM&Aも実現したトップリーダーに、現在地に至る原動力の源泉を問いかけてみた。


「創業者の片山(直之氏、故人)は、『企業は環境変化適応業』と言っていました。その時々のテーマに合う取り組みを続けた結果が業績数値に表れ、足元の成長がありますし、今はフェーズ3に入っています」(藤川氏)


フェーズ1は、1990年代にベーカリーレストランの単一業態でフランチャイズ化に成功した創業期。フェーズ2はサンマルクカフェ、函館市場、鎌倉パスタなど新業態を自社開発して複数業態を展開し、新規上場を果たして持ち株会社制に移行した2000年代の第二創業期。そして、2018年に創業者が他界する試練を乗り越え、メニューの付加価値やサービス品質の高度化、店舗オペレーションの効率化で収益性を改善し、さらなる成長軌道を描くフェーズ3だ。


2022年にはグループ初のM&Aで京都の人気カフェ「マドラグ」を、2024年には「京都勝牛」「牛かつもと村」2社を買収し、牛カツ業態を新たな経営の柱に打ち立てた。


「フェーズ2は、単一業態による国内商圏の出店余地の限界を。フェーズ3は、人口減少が続く内需だけでは成長が難しく外国人のお客さまが少ないリスクを。どちらも、変化の先の成長を担保する適応です。


M&Aも活用し、日本のローカル外食企業から、日本を代表するグローバル外食企業になっていこうと考えています」(藤川氏)


牛カツ業態のグループインへ、藤川氏自身も変化適応する大きな決断を行った。2社で200億円規模のM&A投資を借入金で賄い、創業以来の無借金経営から大きくかじを切ったことだ。外国人に人気の牛カツが、年間4000万人を超えるインバウンド(訪日外国人旅行者数)需要拡大や海外展開の突破口として、成長エンジンになる未来への一歩だ。


「海外のFCパートナーは日本食の複数業態を手掛けていて、牛カツからグループの他業態にも広がる可能性が高く国内視察が相次いでいます。海外展開を志す日本の外食産業からもM&Aの相談が増えて、業績好調な牛カツ業態が良い宣伝効果になっています」(藤川氏)



グループ経営に重要な「形式知化」

「変わりゆく」環境に適応するために、必要なことは何か。選択肢は多岐にわたるが、「変えないもの」をよりどころに、進み行く方向性をシンプルに分かりやすく指し示すのが「サンマルク流」だ。グループ経営理念「私たちはお客様にとって最高のひとときを創造します」の共有である。


「創業の原点に立ち返る、ということです。ただ、後継経営者が、その時々に『最高のひととき』を解釈し直すことが重要です。私なりの言葉で『事前期待を、少しでもよいから超えていく』であると説明しています。また、今ある飲食業の枠組みにとらわれず、宿泊業やウエディングなど他の業態でも最高のひとときを創造できる、とも伝えています」(藤川氏)


経営理念とその実現行動を共有するアプローチは2つある。1つはマネジメント人材研修「創成塾」※1で、創業者がつづったテキストを通して、理念や経営の要諦を腹落ちすること。もう1つはグループ全社員への直接発信で、社長メッセージを毎月配信。グループ全社員が集まる社員総会や半期ごとにエリア別で実施する決算説明会でも、直接対話も重ねている。


「グループ経営で最も陥りやすい落とし穴は、プリンシパル・エージェント問題※2の『情報の非対称性』の発生です。持ち株会社をプリンシパル、事業子会社をエージェントと考えた時、当社はオーナー経営だったため暗黙知的なことがまだ多く、互いに『何か違う…』となりかねません。『分かっているはず』『聞かされていない』ことを形式知化した創成塾テキストが、マネジメントの大前提になりますし、一般社員にも暗黙知を減らすことが、グループ経営の推進にはとても重要です」(藤川氏)


事前期待を超える具体例は、グループ全体で情報共有をしている。ドリンクをこぼしたら、新しく取り換える。子どもに食べさせることを優先し、冷めてしまった親のパスタは温かく作り直す。「楽しみにしていた、ひととき」で顧客が喜びを実感できる行動を、社員一人一人が体験学習で積み重ねることが、「最高のひととき」を生む力になる。


「作り直して原価率が2倍になってもまだ利益は残りますし、お客さまが再来店し、友人も連れて来てくれたら、売り上げが増えます。社員もうれしくなって働く誇りを感じ、積極的に新たな挑戦行動を取れるようになります」(藤川氏)


※1 部長職昇格前に実施する経営者人材育成のマネジメント研修
※2 上司・持株会社(プリンシパル)と部下・子会社(エージェント)の関係性で、「目的の不一致」「情報の非対称性」により、エージェントがプリンシパルにとって不利益な行動を取りがちになること


サクサクのクロワッサン生地でチョコレートを包んだ「チョコクロ」はサンマルクカフェの看板メニュー

サクサクのクロワッサン生地でチョコレートを包んだ「チョコクロ」はサンマルクカフェの看板メニュー



「足りないピース」へ物理的な変化を起こす

複数業態のグループ経営は、多様な価値創造やリスク低減が可能になる。新たに導入した公式アプリ「myサンマルク」は、異業態のグループ内ブランドを横断してシームレスに「最高のひととき」を体験できるサービスで顧客を囲い込み、グループ全体で来店頻度を高める狙いだ。社内的にも、事業会社の意思決定のスピード化、機動性あるポートフォリオの入れ替えなど、大きなメリットがある。


一方で、組織がタコツボ化しやすいデメリットもある。その解消と予防のため、異なる事業会社の社員同士のグループワーク研修を行い、横軸でつながる機会を設定。制度面も、評価基準が事業会社別にバラバラだとタコツボ化の要因になるため、スーパーバイザー(エリアマネージャー)に求められる普遍スキルなどは全業態で統一化を進めている。


「グループの成長も持続性も、いかに環境変化に適応するかに尽きます。ただ、私は改革や変革という言葉が嫌いで、サラリーマン時代は耳にするたびに冷めていました。ですので、その言葉の代わりに、在りたい姿を示し、ひも付く物理的変化を起こす行動を重視しています。


日本を代表するグローバル外食企業になるために、足りないピースは何か。京都に本社機能の主要部門を移転するのも、グループ全体に向けた行動メッセージです。食のレベルが高い京都を拠点とし、海外のパートナーやお客さまにも、当グループが『KYOTO=Japanブランド』だと認識される姿です」(藤川氏)


M&Aによる新業態開発も、目に見える物理的変化を起こす行動だ。京都勝牛のマーケティング担当がホールディング会社に転籍し、インバウンドへの情報発信ノウハウをグループ全体で発揮するなど、積極的な人材登用も成果を上げ、一体感の醸成にもつながっている。さらに今、進化を遂げるグループ経営の未来像に、藤川氏は独自の仮説を立てている。


「伊勢神宮の式年遷宮※3のように、ホールディング体制そのものは維持しつつ、持ち株会社と事業会社の役割分担や権限配置を定期的に組み替え、その時々の環境に適応していく。そうしたグループ経営こそ、実は最も合理的ではないかと考えています。何も変化なく、今ある姿でこのままずっと、と考えることから、デメリットやリスクが生まれますから。


お客さまが喜び、社員も一人一人の努力が報われて、共に『最高のひととき』を感じて幸せになれるような会社の姿を実現していきたいですね」


実は、不変の経営理念は創業当初から、英文「We Create the Prime Time for you」を併記している。


「for youをあえて最後に付けて『あなたのために』を強調しているのが重要です」(藤川氏)。それは、日本から世界に示すグループアイデンティティーになっていく。


※3 伊勢神宮で20年ごとに社殿を新しくし、伝統を保ちながら刷新と継承を行う営み


サンマルクホールディングスが展開する「鎌倉パスタ」のカルボナーラ(左)。2024年にグループインした「京都勝牛」の店舗(右)

サンマルクホールディングスが展開する「鎌倉パスタ」のカルボナーラ(左)。2024年にグループインした「京都勝牛」の店舗(右)



COLUMN
変化適応に挑むからこそ、失敗の無駄をなくす


社長室の本棚に残る、創業者の蔵書。インスパイアを受けアイデアを育み、グループの未来にはせた思いを、藤川氏は1冊ずつ読破し、ひも解いている。
「創業者が参考にしたページは角が折れているので、なぜ、どこに引かれたのか、私なりに考えることができ、経営者としての壁打ちのように楽しく学んでいます。
片山はメディア取材を受けなかったので、考えを知る情報源が少ないのですが、創成塾のテキストを残してくれました。経営者人材の心得として、私も講師を務めています」(藤川氏)
「創業と守成、いずれか難き」。中国故事に由来する創成塾の名は、「どちらも難しいが、創業は過去のこと。勢いをさらに付けてていく守成の大変さに向き合う」という創業者の覚悟を示す。ホールディング会社と事業会社、双方のトップとして経営者人生を歩む中での失敗経験を伝える訓えが数多くつづられている。
「こうしたら失敗するから、(後に続く)あなたたちはするなよ、と。同じようなミスが起きる無駄をショートカットし、失敗の確率を下げることを強く意識していたのでしょう。成功パターンは多岐にわたり再現性が高くない半面、失敗は割とワンパターンで陥りやすいわながあると、私も感じています」(藤川氏)
変化適応に、挑戦と失敗は付き物。だからこそ、失敗リスクが低いチャンスをつかみ取り、同じ失敗を繰り返す無駄をなくす。それが、時流の移ろいや環境の変化へ、その時々に適切な行動を起こす鍵になる。



(株)サンマルクホールディングス

  • 所在地:岡山県岡山市北区平田173-104
  • 創業:1989年
  • 代表者:代表取締役社長 藤川 祐樹
  • 売上高:708億9565万円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数:7408名(連結、パート・アルバイト含む、2025年3月期)