•  
モデル企業のメインビジュアル
モデル企業
モデル企業
【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.03.31

業務と情報の「リアル」を可視化し、絶え間ない進化を 屋部土建

沖縄県に本社を構える屋部土建は、いち早く建設業が直面する課題を解決し、ICT施工など時流の変化にも適応してきた。同社は、「求められる姿」を満たすだけでなく、生産性や働きやすさを向上する「在りたい姿」へと進化を続けている。


屋部土建 常務執行役員 入佐 学 氏

屋部土建 常務執行役員 入佐 学 氏



BCP対策として業務のクラウド化を始動

ゆがふホールディングスグループの中核を担い、道路・港湾・橋梁などさまざまのインフラ・ホテル・オフィスビル・商業施設、保有船舶による海上工事など、沖縄の公共・民間工事の総合建設業として成長を続ける屋部土建。同社は、経営トップ主導のもとDXを推進し、今では沖縄県内のDX推進企業として、建設業界だけでなく広くその名が浸透している。


「全社員が集まるミーティングで、『これからの建設業の課題解決にはDXが必要だから、どんどんやっていきます。でも、手段であって目的ではないですよ』と発信したのが、当社のDXの第一歩でした。


当初はBCP(事業継続計画)対策としてバックオフィスのクラウド環境を構築しました。Google社が提供する『Google Workspace』を導入し、社内ポータルサイトも開設。いつ、どこからでも業務データへのアクセスを可能にし、情報管理の一元化を実現しました。また、国がi-Constructionや『新3K』※1を打ち出し、法律改正で工事発注者から求められることが変わるタイミングで、ドローンやBIM・CIMなど3D(3次元)モデル設計による施工現場管理のDXも進めました」


10年目を迎えた業務変革プロセスをそう振り返るのは、常務執行役員の入佐学氏である。バックオフィスも、現場施工も、DX推進で心を配った共通点がある。それは、「社員が触れる環境づくり」だ。


業務フローのクラウド化は、チャットで全社員に連絡・安否確認できる仕組みで「使いやすさ」を実感する人を増やした。現場施工も、工事部を皮切りにスマートフォンに移行。メール送受信の便利さ、得られる情報量や業務処理能力は、スマホになって大きく向上した。コロナ禍には内勤も含め全社員に支給対象を拡大し、「みんなが触れる」環境が出来上がった。


「取引先や協力会社から総務部に届く、コンクリート単価や休暇期間などの情報も、『Googleチャット』で一斉に全社員がすぐに分かり、ポータルサイトでも確認できます。情報共有のスピードアップを、全社員を巻き込みながら進めてきました」(入佐氏)


一方で、DXツールの導入に重視したのがスモールスタートで始めることだ。現場で使う施工管理アプリは、いきなり全社導入するのではなく、少人数で使い始め、社員からの評価が高いものだけを本格導入していった。


「なるべく初期投資がかからないサービスを選び、評価が芳しくなければすぐにやめて変えました。現場施工のICTは選択肢の幅が広く、専門性も高いので、デジタルツールに詳しい現場スタッフがチャレンジし、ドローンなど先進ツールの活用が進んでいます」(入佐氏)


リアルタイムの情報共有の進化へ、絶えず情報収集も欠かさない。建設・土木DX展示会には現場スタッフも参加し、他府県の先進事例の視察も重ね、SNSで全国から発信される業界・企業のDX動向もチェックする。「情報のインプットが少ないと、当社にとって良いものが選べず刺激もありませんから」と、入佐氏は続ける。


「好きこそものの上手なれ」という考え方が推進力になり、生まれた挑戦がすぐに情報共有され、「私もやってみよう」と新たな変容を呼び起こす。絶え間ない進化への好循環が生まれている。


※1 「給与が良い」「休暇が取れる」「希望が持てる」の3要素


2016年のi-Construction推進を機にICT・BIM・CIMの導入を開始。業務効率化と高度化を図っている

2016年のi-Construction推進を機にICT・BIM・CIMの導入を開始。業務効率化と高度化を図っている



組織体制をフレキシブルに

DX推進フェーズに応じたフレキシブルな組織体制づくりも、屋部土建ならではの取り組みだ。2021年に土木工事部や建築工事部など各部署へDX推進室を開設し、担当者が連携して情報交換を重ねた。2023年には全社的に統合した「DX推進部」を発足し、コア事業である土木・建築の両軸でBIM・CIMに対応できる3Dモデル・設計スタッフの育成に注力。そして2025年、再び各部署にDX推進担当者を配置する体制へと移行した。


「DX推進部で一定数の人材をそろえることができました。今後は、工事の生産性向上という成果を出すために、役割や責任の所在をより明確にした方が推進しやすいと考え、各部署に担当者を戻しました。とはいえ、同じフロアにいるので、部署の垣根を超えて情報交換し、連携は以前より強固になっています。生産性をどう上げるか。それがDXの目的ですし、より労働生産性の向上を意識した現場運営を実現していきたいと考えています」(入佐氏)


経験と高度なスキルが求められる3DCADオペレーターは獲得競争が激しく、業界全体で人材不足が続く。そこで同社は、キャリア採用に加え、不動産業など異業種からの未経験者も採用している。「好きでやる気がある人を育てる」方針を貫き、ある取り組みを行った。


それが、「常識を、YABUれ。」というDXを積極的に推進する姿を言語化したCMのメディア展開だ。キャリア形成や活躍の舞台として、「DXに挑戦できる企業」というイメージが応募者の心に響いた。


「DXを現場やバックオフィスだけで終わらせず、自社の魅力や社風として発信することで、新卒・中途を問わず採用に好影響が生まれています」と、入佐氏は語る。2023年の本社移転とともに誕生したDX推進拠点「YLAB」も、新たな発信拠点だ。建物や構造物の模型製作用3Dプリンター、ドローン、測量機器などが見学可能で、3Dスキルの育成拠点になっている。


生産性向上へ向け、構築したクラウド環境を活用した協力企業とのデータ連携や情報共有も進む。契約書類はほぼ100%デジタル化され、他業務のペーパーレス化も現在進行形だ。


「電子契約なら、1億円の工事案件で必要だった3万円の収入印紙代も、郵送の手間も不要になります。100%近い普及率は、キャッシュ面でのメリットを実感してもらえた証しでしょう。協力企業をどれだけ巻き込めるか。もちろん、システム運用費は全て当社負担です」(入佐氏)


内発的な業務変革が、社外の取引先や協力企業をも巻き込んで改善効果を波及させ、利益創出につながる。その実感が、さらなるDXの加速を生んでいる。


2023年、屋部土建は本社移転に合わせてDX拠点「YLAB」を開設。ドローンや3Dプリンターなどの最新機器を備え、DXの情報発信や人材育成を通じて「新しい建設業の魅力」を伝えている

2023年、屋部土建は本社移転に合わせてDX拠点「YLAB」を開設。
ドローンや3Dプリンターなどの最新機器を備え、DXの情報発信や人材育成を通じて「新しい建設業の魅力」を伝えている



次なるテーマは「データドリブン」

全社の業務ワークフローに定着した「リアルの可視化と共有」。これを多様なデータドリブン経営に生かすことが、同社のさらなる進化へのテーマだ。


蓄積したデータを可視化し、受注戦略や分析につなげる取り組みが始動している。経営に関わる数字は、担当部署と情報システム部門が連携して分析ツールを開発中。営業は受注金額や通期の決算見込みを、現場は毎月の施工状況をリアルタイムで可視化し、社内の誰もがアクセスできる環境を構築した。


「工期が延びる可能性があれば、いち早く共有して『どう遅れを取り戻すか』を現場だけでなく、全社で考える。経理部門なら請求書発行を遅らせる準備もできます。日々の業務情報からデータドリブンを始め、現場は課題解決に向けた助けを求めやすく、本部もフォローしやすくなる。事後対応ではなく未然に防ぐ、互いを理解しコミュニケーションが取れる環境を目指しています」(入佐氏)


時間外労働の上限規制への対応として、勤怠管理データの可視化も推進する。人が足りないのか、課題はどこにあるのかなど、リアルな実態を知ることが労働時間を減らすための対策を生むきっかけになる。建築工事部では、残業削減のボトルネックになっていた写真管理業務に、タブレット端末と写真管理システムを活用。現場で多様な業務処理が可能になり、月20時間の残業を削減する社員も表れた。土木工事部でも、会議メモや資料共有の機能を上長が率先して使うことで、部下への浸透や活用が広がっている。


確かな実績が生まれると、「ツールを使いこなせば着実に働きやすくなる」という実感が浸透する。今後は、AIやロボットも使いこなすことで、仕事の質と量を高め、社員一人一人のポテンシャルの幅と厚みを増す姿を目指している。


「例えば、生成AIの『Gemini』については、最低限のスキル基準の作成を進めています。使えて当たり前になるように支援し、スキルアップで社員の価値も向上するように。教育する上で、『これからは必須のスキル、必要とされるスキルです』という動機付けが必要だと考えています。もちろん、建設業は現場の経験価値が大切です。AIがいかに早く答えを導き出しても、形にするのは現場ですから。デジタルと現場、その両輪でしっかりと動かす仕組みを築いていくところです」(入佐氏)


DXの取り組みについて他社とも情報交換を行っており、視察も相次いでいる。


「いつでも歓迎していますし、情報交換で当社が教わることも多いですね。経営層やDX担当部署の方の視察が多く、やはり投資対効果や社内への浸透方法などが共通の課題のようです。何よりも必要なのは、やはりトップの覚悟でしょう。『DXは避けて通れない。何が何でもやらねばならない経営課題だ』と、経営課題として位置付けているかどうか。経営層の覚悟と、現場に立つ社員の腹落ち度合い。それらの違いが、推進スピードに表れてきます」(入佐氏)


「新3K+1」※2実現のトップランナーとして、屋部土建は部署別にもDX目標を明文化している。「ひと言で言えば、『DXを使い倒せ』という感じです」と笑顔で語る入佐氏。言葉も行動も、成果も課題も、全てをリアルな姿で示すことが、次なる変容のスタートラインとなっていく。


※2 「新3K」に「かっこいい」を組み合わせたスローガン


(株)屋部土建

  • 所在地 : 沖縄県浦添市字港川512-55 ゆがふBizタワー浦添港川 7F
  • 創業 : 1933年
  • 代表者 : 代表取締役社長 照屋 博章
  • 売上高 : 263億8260万円(2025年9月期)
  • 従業員数 : 342名(2025年9月現在)