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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.03.30

ドローン×ICT建機で工期短縮、週休2日・残業ゼロへ 巴山建設

東京・多摩エリアの地域密着企業として土木建設事業を手掛ける巴山建設は、自社一貫施工の全工程でDXを推進。「中小企業の建設DXモデル」としての成功の鍵は、たゆみないトライアンドエラーの実践にあった。


巴山建設 代表取締役社長 巴山 一済 氏(左)、土木部 技術システム課 課長代理 松村 大生 氏(右)

巴山建設 代表取締役社長 巴山 一済 氏(左)、土木部 技術システム課 課長代理 松村 大生 氏(右)



ドローンによる測量で工期が大幅に短縮

東京と神奈川の境を流れる多摩川沿いに本社を構える巴山建設は、河川・橋梁きょうりょう・道路など多摩地域のインフラを支えてきた。2019年、観測史上最高水位を記録して橋が損壊した台風災害の復旧工事にも携わり、創業76年の歴史を持つ。


業績は近年伸びている。2025年9月期の売上高は前期比で10億円増え、43億円を記録。2020年代に入り売り上げは倍増し、新規顧客も3倍に増えた。注目される背景には、業界に先駆けたDXの推進がある。


「成長要因の一つがICT施工です。ドローンで測量し、3D図面で計画を示すことで、発注者に伝わりやすい提案ができます。公共工事では工事成績評定で加点されることもあり、それが次の受注につながっています」


そう語るのは、祖父・父に続く3代目として同社を継いだ巴山一済氏である。DXを本格的に進め始めた転機は、社長に就任した2021年だった。ただ、芽は数年前からあった。現場の写真・動画をドローンで記録しようと検討していた際、GNSS機能※1を搭載したドローンが国内で発売されることを知ったのがきっかけだ。


「GNSSで測量できるようになると精度が一気に上がり、しかも簡単に、短時間で現況地盤を把握できます。現場で最も重要なのは、施工前の地形を正確に知ること。位置や高さ、水平、角度を押さえた上で、どう掘るかが決まります。従来は、測量機やメジャーで測って図面を起こし、重機の動かし方まで含めて施工計画を描いていました。人の手で1カ月かかっていた作業が、ドローン測量なら3日もかからず終わります」(巴山氏)


さらに追い風となったのが、ICT建機の進化だった。ドローンで取得した点群データをもとに地形の3Dモデルや図面を作り、それをICT建機に載せて施工すれば、生産性が大幅に上がる。巴山建設は、オペレーターの操作を支援するマシンガイダンス※2だけでなく、3D設計図通りに掘削を進めるマシンコントロール(自動制御)※3も早い段階で導入した。


本格的な取り組みから5年。巴山氏は、ICT施工が生む価値と将来性に手応えを感じている。


「最新機器を導入しても、他社がすぐ同じレベルでできるとは限りません。実証実験を重ねて経験とスキルを蓄積し、現場のオペレーターや作業員がICT施工を理解し、全社員が納得して取り組める状態になって初めて、人手不足や労働時間短縮といった課題が解決できるんです」(巴山氏)


※1 全球測位衛星システム。GPSなどの衛星信号を利用し、地球上の現在位置を高精度に特定する技術

※2 建機の位置情報と設計データをリアルタイムで表示するオペレーターのナビゲーション機能

※3 建機動作の自動制御システム。位置情報と設計データを照合し刃先の高さ・角度を自動調整



安全性と生産性を両立
働き方改革にも直結

ICT施工は「便利で簡単なだけでなく、より精緻なデータを得られる」技術であり、現場の仕事の進め方や常識そのものを変えた。


代表例が、施工の基準となり品質に直結する「丁張り」だ。従来は5〜10m間隔で1つ設置するのに、2人がかりで約1時間かかっていた。10カ所必要な現場なら、それだけで10時間の作業になる。さらに、重機オペレーターの操作を手元で誘導する作業員も欠かせなかった。


ところが、GNSS測量の位置情報を、3D設計データに基づく重機制御に連携させることで、丁張りも誘導員も不要になった。


「ICT施工によって、高所や斜面での転落、重機との接触といった危険な作業が減り、安全性が上がりました。加えて、作業員1〜2人分の人件費が不要になり、安全性と同時に生産性も高まりました」(巴山氏)


現場の業務が変わるのに合わせて、社内体制も見直した。施工管理者の業務を効率化し、分業を進める専門部署として「技術システム課」を新設。3Dモデルや図面作成は、女性2名のCADオペレーターを新たに採用して担う体制を整えた。


「以前は、現場の測量も設計図作成も施工管理者が全部やっていたので残業が発生していました。そこで役割分担を進め、現場でしかできないこと以外は技術システム課の内勤メンバーが担い、残業を減らそうとしています」(巴山氏)


この狙いは当たり、労働時間の削減に成功。現在は週休2日で残業はほぼゼロ、有給休暇取得率も90%を超えた。技術システム課の松村大生氏は、ICT施工の推進リーダーとして現場を支えてきた。


「私も含め、全社員がゼロからのスタートでした。『失敗してもいいから、まずやってみよう』というトライアンドエラーで検証を重ねました。社長が作成したICTマニュアルを配布し、現場で分からないことは、技術システム課6名が対応しています。問い合わせは多いですが、電話が来るのはICTが現場に浸透している証拠。業界のICTは日進月歩なので、マニュアルも常に更新しています」(松村氏)


70歳代のベテラン施工管理者から「こうすればもっと便利」と改善提案が出て、それを現場に反映することもある。ICT導入をきっかけに、業務品質と意欲の向上が全社に広がった。これまで施工スピードに課題があったオペレーターも、ICT建機でスキルアップし、現場全体の底上げにつながっているという。松村氏は「残業が減って、エンゲージメントや社内の空気感が良い方向に変わった」と話す。


働きやすい職場づくりは、女性の採用・定着にもつながっている。女性を登用・支援する「ともやま小町プロジェクト」をはじめ、女性専用休憩室の設置、ヘルメットや日焼け止めの支給などを推進し、「令和6年度東京都女性活躍推進大賞・特別賞」も受賞した。


「年齢や性別に関係なく働きやすく、私生活も充実する。建設業界は他業界より遅れがちですが、これから生き残り、成長するには不可欠です」(巴山氏)


ドローン測量により工期が大幅に短縮。分かりやすい3D図面が評価され、次の受注獲得につながっている

ドローン測量により工期が大幅に短縮。分かりやすい3D図面が評価され、次の受注獲得につながっている



遠隔操作の無人施工と完全自動化を目指す

巴山建設が保有する重機は50機。そのうちICT建機は20機を占める。巴山氏は「保有台数は国内トップクラスで、関東ではナンバーワンだとメーカーから言われています」と語る。7億円を超える先行投資も、迷いはなかったという。


「結局、ICTは環境が整わないと始まりません。業務改善でどれだけ効率化・生産性向上・コスト削減につながるかは数値化しにくい。だからこそ経営者のセンスが問われます。投資して土台をつくり、現場と人材を育てる。それだけです」(巴山氏)


同社が2005年から力を入れてきたのが、協力会社に外注していた重機オペレーターや現場作業員を自社で採用し、育成することだった。今では20名を超え、各人が積み上げてきた現場経験がICT施工を進める大きな推進力になっている。将来、DXが当たり前になり差が付きにくくなったとき、価値を生むのは何か。その答えは、人材が培ってきた技術・知見・ノウハウによる「現場力」にある。


「建設業はなくならない業界です。中堅・中小企業が勝っていくには、直営部隊が支える“本当の技術力”が欠かせない。その信念は変わりません。人が一人前になるには、10年以上かかるのです」(巴山氏)


ICT施工で扱う3Dデータは、視覚的に共有できる分かりやすい「共通語」になる。営業提案やプレゼンテーション資料としても、発注者の納得度を高められる。さらに、測量から出来形管理まで各工程を効率化・高速化できるため、一貫施工の強みをいっそう伸ばす相乗効果も生まれる。その先に見据える挑戦は、遠隔操作による無人施工と自動化だ。


「巴山建設は、頼めば何でもできる“建設業のデパート”。しかも、一貫施工でどこよりも速く、品質も高い。そう評価され、顧客から選ばれる存在になっていきたいです。特に災害復旧はスピードが命で、実績と信用が継続受注につながります。無人施工はすでに試験的に始めており、2027年には複数現場で本格運用したい。オペレーターが不要な完全自動化も、実践データを蓄積している段階ですが、2031年ごろの実現を目指しています」


多摩川の増水や濁流など危険な現場でも、無人施工なら安全なオフィスからモニター映像を見て遠隔操作できる。「いざという時に役立てるには、普段から使っていないといけない」と巴山氏は言う。その言葉の裏には、従来の建機とは異なるICT建機に対応し、現場での実証実験を通じて重ねてきた無数の試行錯誤がある。


松村氏も「トライアンドエラーの結果をメーカーにフィードバックすると、『そんな失敗もあるのか。新開発の改善に生かしたい』と言われます。想定を超える失敗事例こそ貴重な財産なのです」と語り、さらなる進化を見据える。「失敗」という知的資産(IP)が、企業価値を押し上げる大きな成果になるとも言えるだろう。


地域に根差し、インフラを支え続ける中堅・中小建設企業だからこそ、先進DXを取り込み、磨き上げる経営の強さが求められている。BIM/CIM、施工模型製作の3Dプリンタ、完成図のAR・VRなど新技術を次々に導入し、次代も多摩の担い手であり続けようとする巴山建設の姿は、全国の「地域の未来づくり」にとって有力な道標となるはずだ。


GPSやセンサー、3D設計データを活用し、建機の操作を自動または半自動で制御・補助するICT建機

GPSやセンサー、3D設計データを活用し、建機の操作を自動または半自動で制御・補助するICT建機


巴山氏の手作りによるDXに関するマニュアル。地道な説明を重ね社内への浸透を図った

巴山氏の手作りによるDXに関するマニュアル。地道な説明を重ね社内への浸透を図った


巴山建設(株)

  • 所在地 : 東京都調布市多摩川2-25-1
  • 創業 : 1950年
  • 代表 : 代表取締役社長 巴山 一済
  • 売上高 : 43億円(2025年9月期)
  • 従業員数 : 65名(2025年12月現在)