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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2026.03.19

小さな課題をデジタルで解決し、改善を重ねる風土を全社で醸成 戸田建設

「自前主義」を貫くか、「餅は餅屋」と社外パートナーに一任するか。
戸田建設では社長直轄のDX統轄部が戦略のアーキテクト(設計者)となり、内製と共創の均衡を見極めている。


戸田建設 執行役員 DX統轄部 統轄部長 羽田 正沖 氏

戸田建設 執行役員 DX統轄部 統轄部長 羽田 正沖 氏



統轄部だけでなく各部門にDX人財を配置

2026年、創業145周年を迎えた戸田建設。宮大工の技と心を発展させて未来のまちづくりへつなぎ続けようと、「Build the Culture. 人がつくる。人でつくる」というブランドスローガンの下、人を起点にしたDXの実践を地道に積み重ねている。


同社では、2031年の創業150周年を迎えるまでに「データを価値創造へつなぐ強い運営力」と「新規事業の創発力」を磨き上げていこうと、「全社DXビジョン2030」を策定。新しい企業文化の構築に全社を挙げて取り組んでいる。


「当社が重視しているのはDX(デジタルトランスフォーメーション)の『X』、つまり『変革』です。組織ないし組織で働く人々がどう変わるのか。常に、その1点にフォーカスしています」


そう語るのは、2025年3月に新設されたDX統轄部で部長を務める、執行役員の羽田正沖氏だ。DX統轄部は社長直轄の組織で、「デジタル戦略室」と「デジタル変革実装室」の2チームに分かれている。デジタル戦略室の4名は社内の全部門と密に連携し、現場で発生する多種多様なDX関連のニーズに対応。社内に点在するアイデアや取り組みを吸い上げ、常に全体最適で進められるように俯瞰ふかんした視点で調整を図っている。デジタル変革実装室には、社内で育成した本格的な技術力を持つエンジニアが17名所属し、アプリの開発・運用・保守管理を手掛ける。


こうした全社横断の有機的なDX体制は、一朝一夕に築かれたものではない。


まずは、同社が2020年3月に策定した「中期経営計画2024」でDX推進を事業変革の中核と位置付けて以来、「DX人財」をどのようにして育てているのか、羽田氏に聞いた。


「初年度の2020年には、公募を通じて集まった意欲の高い若手社員30名が、10カ月間にわたり、現業のままINIAD(東洋大学情報連携学部)のリカレント教育プログラムを受講し、DXを体系的に学びました。その後、成績上位者10名がDX統轄部の前身であるDX推進室に異動し、さらに2年間、ほぼゼロの状態から腰を据えてソフトウエアエンジニアリングを学びました。そして、現在はデジタル変革実装室のエンジニア1期生となって活躍しています。


2023年から2024年にかけてはプログラムを4カ月に凝縮し、20名が受講。うち、成績上位者5名がデジタル変革実装室に加わり、1期生の指導の下、実務を通してスキルを磨いています」(羽田氏)


デジタル変革実装室に所属しないその他のプログラム修了者は、所属部署で、課題やアイデアをボトムアップでDX統轄部につなげる役割を果たしているという。また、毎週1回ランチタイムに開催する「DXのつどい」では、DX統轄部および各部門のDX推進担当者が情報を共有。社内に点在する大小さまざまな関連トピックスを整理し、同一の課題に対して複数の部署が開発するなど重複が発生しないよう、プロジェクトを集約・統合・分散しながら優先順位を付けて進めている。



新本社は丸ごとDXの実験場

同社がDX人財の育成で最も重視しているポイントは、「自分の課題を解決できるアプリを自分の手で作るプロセスを通じてスキルを磨くこと」だと羽田氏は語る。デジタル変革実装室が開発した「ToLabel(トラベル)」も、その実践を通して生まれたものだ。作業所で働く社員が、コア業務に集中できるよう、業務アウトソーシング(BPO)を効率化する社内専用アプリを内製。チャットで手軽にBPO先とコミュニケーションが取れるようになり、メールや電話をする手間が一気に解消された。さらに、全国の作業所が個別に行っていたBPO業務がアプリに一元化されたことで、ベストプラクティスが共有できるようになり、成果物の精度を向上させるプラットフォームとしても機能している。


「DXは勉強するだけでは身に付きません。自分たちが実際に抱えている課題を解決できる教育プログラムの方がモチベーションも高まりますし、有効だと実感しています」(羽田氏)


一方、自分たちで開発したツールを安定的かつ長期的に運用していくには、開発プロセスの共有やマニュアルの整備などが必要だと羽田氏は指摘する。


「専門企業に外注すればフォローアップ体制も万全ですが、内製の場合は、それも含めて自分たちで整備しなければなりません。アプリの開発はゴールではなくスタート。現在のフェーズにおいては運用体制の確立が課題です」(羽田氏)


2024年にローンチしたスマートオフィスアプリ「T-BuSS(ティーバス)」は、デジタル変革実装室が主体となり、IoTの先端技術を持つ社外パートナーとの共創で開発した、オフィスビルユーザー向けの新しいソリューションシステムだ。社員や訪問客の位置情報、食堂やトイレの混雑状況、空気環境などオフィス環境の確認、会議室の検索予約、空調・照明・ブラインドの調整、ドリンク注文、エレベーターの呼び出しなど、スマートフォンでさまざまな操作が可能で、快適なオフィス空間を実現できるという。ゼネコンならではのネットワークを最大限に生かして、他社製の優れたハードウエアとスムーズに連動できるよう共創しながら、顧客ごとのニーズにも柔軟に応じて機能追加やカスタマイズができるよう、内製できる領域を確保している。


「全てを外注してしまうと、その後のきめ細かい修正が難しくなります。アプリの開発と運用を協調的かつスピーディーに回し、持続的な改善を行う『DevOps(デブオプス)』体制を実現するには、内製力の向上が不可欠です。特にAIの進化が著しい今、セキュリティーの観点からも内製力の強化は必須だと考えています。内製化するか否かの判断は、やってみなければ分かりません。『まずはやってみる』という姿勢が大切だと考えています」(羽田氏)


2024年に竣工しゅんこうした新本社ビル「TODA BUILDING」では、T-BuSSの使用を開始し、同ビルに勤務する全社員が実際に使いながらニーズを洗い出して改善を重ねてきた。同社は、このビルを「未来のまちづくりを象徴するスマートオフィスビル」と位置付け、15年前の2009年から、「最新のデジタル技術が働く人々を支える建築物とはどのようなものか」と構想を練ってきたのだ。高度なデジタル技術を持つ社外パートナーと「共同開発者」として目線をそろえ、開発から運用まで一貫して携わることで、社員のDXスキルは加速度的に向上しているという。千人規模の社員がT-BuSSを使用し、改修しながらTODA BUILDINGは現在も進化し続けている。


「T-BuSS®」タグをスマートフォンで読み取ることで座席情報や勤務登録などができる。

「T-BuSS」タグをスマートフォンで読み取ることで座席情報や勤務登録などができる。


会議室の「T-BuSS®」タグを読み取ってドリンクを注文すると、自動搬送ロボット(写真中央)が部屋へ届ける。

会議室の「T-BuSS」タグを読み取ってドリンクを注文すると、自動搬送ロボット(写真中央)が部屋へ届ける。



100名超の社員がアプリ開発に挑戦

2025年6月には、DX人財のさらなる育成を目指して「TODA Digital Dojo」を新設した。これは、プログラミング言語による記述が不要なノーコードツールなどを使って自分たちの業務を改善するアプリを作る、チーム参加型のデジタル道場だ。受講希望者を先着順で募ったところ、定員100名の枠がわずか数分で満員になった。


同社の社長の前で成果を発表する「自慢大会」では、現場でのちょっとした困り事を解消するアプリや、営業担当者が商談に最適な飲食店の情報を共有できる投稿アプリなど、日常のささいな困り事から生まれたアイデアが続々と披露され、盛り上がったという。


一方で、同社の社内ベンチャープログラムGATEを利用して事業開発を進めるケースもある。ビル・学校・工場などさまざまな施設の管理業務を効率化するクラウド型プラットフォーム「RAKU-PLATTM」(β版)を自社開発。「CEATEC(シーテック)2025」で発表。現在トライアルを実施中だ。すでに有償顧客もいるという。


これは、施設管理者が扱う膨大な情報を全てウェブブラウザ上で一元管理できるソリューションサービスで、施設内で不具合が起きた際や点検時に、建物の3Dモデルをクリックするだけで必要な図面・記録・資料などを引き出せるというもの。「あの人でなければ分からない」という業務の属人化を避けることができ、引き継ぎそのものが不要になる。「シンプルで簡易的だからこそ使いやすいと、好評をいただいております」と羽田氏。建設・施工の先にある運用のライフサイクルをデジタルで支える新しい事業がつくり出されている。


「当社は、人々の活動をデジタルが支え、よりスムーズにできる社会を目指しています。今後も多様化するニーズに応えるため、さまざまなパートナー企業や自治体・市民と垣根を越えて共創しながら、『価値のゲートキーパー』として時代に即した未来のまちづくりを進めます」(羽田氏)


建設の専門知識と実務経験を身に付けたDX人財が、デジタルを活用した新規事業を創出する新時代へ。ロングスパンで腰を据えて人財育成に取り組んできた成果が今、花開こうとしている。


※ アジア最大級のITとエレクトロニクスの国際展示会


さまざまな施設の管理業務を効率化するクラウド型プラットフォーム「RAKU-PLAT」のウェブサイト

さまざまな施設の管理業務を効率化するクラウド型プラットフォーム「RAKU-PLAT」のウェブサイト



戸田建設(株)

  • 所在地 : 東京都中央区京橋1-7-1
  • 創業 : 1881年
  • 代表 : 代表取締役社長 大谷 清介
  • 売上高 : 5866億6100万円(連結、2025年3月期)
  • 従業員数 : 6910名(連結、2025年3月現在)