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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2019.12.27

第一印象を大切に、真摯な姿勢で M&Aを成功へ:ハヤブサ

  2019年に創業60周年を迎えたハヤブサは、アウトドア・レジャー分野の“大海原”で持続的成長という釣果を狙う  

釣りをはじめとするアウトドアスポーツやレジャーの総合メーカーとして、国内外で事業を展開するハヤブサ。 もともとはライバル関係にあった「レイン」を100%出資の子会社とすることで、ビジネスの可能性を広げようとしている。

 
サビキ釣り仕掛けの商品化に初めて成功
  兵庫県南西部に広がる播州(播磨)地方。この一帯は幕末の頃から地場産業として釣り針作りが盛んだった。「播州針」として知られる釣り針は全国で約9割のシェアを誇り、2010年には地域団体商標に登録されている。   ハヤブサは、1959年に播州地方の三木市で、創業者の田尻隼人氏が小売り向けの釣り針の製造を始めたことが原点だ。釣り針業界の中では後発であったものの、田尻氏自身が釣りを趣味としていたことから、「便利で簡単に多くの人に釣りを楽しんでもらいたい」という思いを込め、商品開発に力を注いだ。   そこから生まれたのが、釣りに用いる仕掛けの一種であるサビキのベストセラー商品「小アジ専科」シリーズである。発売後、半世紀にわたるロングセラー商品で、サビキ釣りの魅力を全国に広く伝える先駆けとなった。   準備に手間がかからない仕掛けを次々と開発することで、ハヤブサは着実に成長していった。1994年にはルアー(疑似餌)フィッシングのブランドを立ち上げたことが、さらなる成長の原動力となっている。   加えて、1974年には海外生産(韓国)を開始。早くから海外市場の開拓も行ってきた。近年はフィッシング事業に加えて、スポーツアパレル事業およびペット事業も展開している。   商品開発力を強みとするハヤブサは、3代目社長の歯朶由美氏の下で事業拡大に向けた中期経営計画を策定。その一環として、およそ2年前からタナベ経営のセミナーなどを通じてM&Aに関心を持ち、その実現を模索してきた。金融機関やM&A仲介事業者などに譲渡先の紹介を依頼すると、ペット事業関連の候補企業が挙がってきたのに続き、フィッシング事業でもM&A仲介事業者を通じて候補を紹介された。    
事業の補完、シナジーを重視して候補を探索
  由美氏はペット事業でのM&Aを希望した。それに対し、息子の歯朶哲也氏(常務取締役)は、フィッシング事業でのM&A候補の方が事業展開に有利だと考えたそうだ。   「ペット事業という新規分野でM&Aを目指し、事業を一気に成長軌道に乗せる戦略は確かにメリットがあると思いました。しかし、フィッシング事業でのシナジー(相乗効果)を冷静に判断した結果、後者との交渉を優先して進めるべきだと考えたのです」(哲也氏)   当初は難色を示していた由美氏を説得。フィッシング事業におけるM&Aを進め、哲也氏が交渉実務を全て担当した。結果的に、この時点で意思統一して交渉窓口を一本に絞ったのが、後々の折衝で有利に働くこととなった。   哲也氏が有望視したフィッシング事業でのM&A候補は、栃木県佐野市に本社を置く「株式会社レイン」(以降、レイン)であった。従業員数は10名と組織の規模は小さいものの、ルアーの一種であるワーム(ミミズや小魚などを模した疑似餌)を中心に商品開発力に優れ、釣り愛好家の中では有力ブランドの一つとして知られた存在である。   「例えば、レインはアジ釣り用のワームやブラックバス釣り用のシンカー(仕掛けに用いる重り)などで根強い人気の商品を持っていました。こういった分野は、当社の事業を補完するのに加えてシナジー(相乗効果)を発揮できると、候補先の情報が来た当初から考えていました。また、当社の海外ネットワークを活用することで、生産力の増強や販路の拡大を早急に見込める点も大いにメリットがあると感じました」(哲也氏)   一方、レインは商品開発力に優れているものの、事業の海外展開は限定的であった。加えて、後継者問題を抱えていたことから、会社の未来を考えたときにM&Aへの取り組みが重要と捉えていた。   もっとも、レインの社長は自社のブランドに対する思い入れが強く、「真に信頼できる相手先でなければ資本提携は行わない」という姿勢を貫いていた。ハヤブサから声が掛かる前、複数の同業他社に打診を行っていたものの、いずれも交渉が途中で頓挫した経緯もあった。    
  • (株)レイン
  • 所在地:栃木県佐野市田沼町817-5
  • 創業:1993年
  • 代表者:代表取締役 平井 久
  • 資本金:2000万円
 
  • 沿革/History
  • 1993年 個人事業で米ZOOM BAIT社製ワームの輸入販売を開始
  • 1996年 有限会社レインプランニング(本店・東京都中央区)設立
  • 1998年 現社名に変更、釣り具卸販売へ本格参入
  • 1999年 国際フィッシングショー出展、関西営業所開設
  • 2000年 オリジナルワーム「クラッカージャック」発売
  • 2002年 資本金2000万円に増資、「レインズ」ワーム製造・発売開始
  • 2010年 欧州釣具貿易展示会(EFTTEX/エフテックス)
  • 米国・世界フィッシングショー(ICAST/アイキャスト)出展
  • 2012年 フランス国内釣具展示会出展
  • 2019年 ハヤブサと資本・業務提携
 
何事も率直に話し合う姿勢で、商談を円滑に
  こうした事情をM&A仲介事業者から事前に聞いた哲也氏は、「交渉は容易ではない」と危惧した。そこで心に決めたのが「何事も誠実に率直に話し合う」という姿勢だった。M&Aの交渉では、とかく腹の探り合いばかりで、手の内をなかなか見せないといった場面が少なくない。まして、自社にとって都合の悪い情報はなるべく開示したくないという心理が働くため、せっかくまとまりかけた交渉が少しの行き違いで破談になりかねない。   その点、ハヤブサとレインは「何事も率直に話し合う」という姿勢がうまくかみ合った。哲也氏が、「どうなるか心配はしたものの、第1回の協議の時点から好感触だった」と語るように、双方とも相性の良さを実感したという。   2018年7月に行われた初回協議が円滑に終わったことから、8月には情報開示へと進んだ。それと併せて、哲也氏は社内で商品開発や営業の部門長と対話を行い、M&Aの有望性について忌憚のない考えを聞いている。   「両部門長から『レインに対してマイナスイメージは湧かない。むしろシナジーなどプラス面をイメージできる』と前向きな意見をもらい、交渉をさらに進めていこうと意を強くしました」(哲也氏)   9月には両社のトップ会談が実現。互いの懸念事項を確認した。ここでも話し合いが順調だったことから、11月にはタナベ経営に依頼して財務面や事業面の調査を行った。12月に入り、届いた中間報告書を読んで問題がないと判断した哲也氏は、年内に資本提携の契約を結ぶ決断を下した。   交渉の過程で問題となった項目は少なかった。ただ、特に時間をかけて慎重に行ったのが、レインの社長の処遇であった。「交渉を重ねた結果、退職金をお支払いした上で代表取締役社長を退任後、引き続き顧問としてレインで活躍していただく形で決着しました。また、『株式会社レイン』は存続させ、認知度の高いブランドもそのまま残しています。もちろん、従業員の方々は雇用を継続することとしました」(哲也氏)   また、契約に先立ち哲也氏は帳簿上で資産価値を精査するとともに、倉庫などの現場に赴き設備や在庫などを確認。帳簿と実際の食い違いがないか綿密に確認した。この点でも事前に伝えられた情報通りで想定外の事項はなかった。それが契約に踏み切った理由の一つとなった。    
両社の強みを生かした商品の共同開発を目指す
  資本提携の契約が完了すると、哲也氏はまず両社の従業員にその旨を伝えた。互いにライバル関係であった企業同士の縁組みは、驚きと好感を持って迎えられた。さらに年明けには業界新聞で資本提携を発表し、すぐさま展示会での共同出展となった。   ハヤブサは3名の従業員をレインの社長および取締役として派遣した。人材育成を次代の成長の重要な基盤に掲げるハヤブサとしては、「経営人材の育成という観点から、従業員にとって貴重な経験になるはず」と哲也氏は期待する。   さらに、レインのガバナンス向上にも取り組んでいる。就業規則や給与体系を見直し、「従業員が従来以上に安定した気持ちで仕事に取り組んでもらえる会社づくり」を目指しているそうだ。   また、事業体制の強化にも着手。資金の提供を通じて商品開発力の向上を図るとともに、協力工場のネットワークを活用して増産体制の強化を進めている。   今後、哲也氏は日本国内におけるレイン商品のシェア拡大を進める一方、海外での販売拡大も考えている。   「レインのワームはフランスなどで人気が高いことから、欧州やロシアでの売り上げアップが見込めます。加えて、大市場である米国での浸透を積極的に図っていく考えです。商品開発の点では、例えばワームに関して両社それぞれで強い分野があり、補完し合う関係であることから、ブランド価値の向上につながると考えます。いずれは両社の強みを生かして商品の共同開発を検討していきます」(哲也氏)   M&Aの成功要因について聞いたところ、哲也氏は「第一印象が大切」と述べた。   人と人の出会いと同様、企業同士の合併・買収も初めの印象が肝心と言える。そのためには、互いに率直に話す、情報を開示するなどの姿勢が欠かせない。   そして、経営トップが率直に話せるだけの事業内容の充実性、ガバナンスの整備があってこそ、相手に対してより良い第一印象をもたらすことができる。M&Aという場面においても、日頃の経営努力の積み重ねがその成否を左右するのは言うまでもない。     企業同士の合併・買収も初めの印象が肝心です ハヤブサ 常務取締役 歯朶 哲也氏

PROFILE

  • ㈱ハヤブサ
  • 所在地 : 兵庫県三木市吉川町大畑341-23
  • 創業 : 1959年
  • 代表者 : 代表取締役社長 歯朶 由美
  • 売上高 : 29億2000万円(2018年12月期)
  • 従業員数 : 153名(2019年11月現在)