従業員の心の問題は目に見えづらい。が、経営者にとっては重大な懸念材料だ。一方、部下にとって上司は最大の「職場環境」である。組織のポテンシャルを最大化するために、従業員のメンタルヘルスの在り方を探りたい。
部下の仕事を決定する上司がストレスの原因になることも
出典 : 東京海上日動リスクコンサルティング「平成28年度 厚生労働省委託事業 職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」(2017年4月28日)
上司は自分の言動の影響の大きさに気付くこと
上司が部下に対して細やかな配慮をする、あるいは密接なコミュニケーションを図ることで、部下が感じる「職場環境」は大きく改善する。では、より良い職場環境にするため、上司はどう変化すべきなのだろうか。
「まずは本人が、“ 自分の言動が部下や職場の雰囲気に与えている影響” に気付くことです。実はパワハラも、当人はまったく自覚していないケースがほとんどです」(小原氏)
例えば、ある上司が、てきぱきと業務をこなす部下Aさんには「いつも仕事が早いね」、作業スピードが遅い部下Bさんには「まだできないのか」と、日頃から心の中で思っていたとする。そうした心象を上司は口に出さないが、普段の言動を通じて2人に伝わり、それがボディブローのように積もり積もって結果的にBさんがパワハラを受けていると感じてしまう。
「ついイライラして、『まだできないのか』と言葉を発する上司も少なくありません。しかし、冷静になって考えれば、自分が部下に対して過度の期待や要求をしたから、そうした結果(パワハラ)になったことが分かるはず。自分が知らないうちにパワハラをしたり、部下にストレスを与えたりしていることに、まずは気付くことが大切なのです」(小原氏)
また小原氏は、上司である中間管理職の役割は、「部下の適性を把握し、部下と対話をして部下がやりたい、得意な仕事を職務の1割でも2割でも担当させることによって、成果を上げること」だと指摘する。しかし、パワハラが起きるチーム、または「コミュニケーションが少ない職場、うまくいってない職場」では、部下を評価している立場にいる優位性だけが“ 無意識” に独り歩きして、“ 上から目線”に陥っていると警鐘を鳴らす。
上司である中間管理職の自覚を促し、部下のストレスを軽減するためにも、職場環境改善を支援する専門家でもある「産業カウンセラー」が職場に常駐することが望ましい。しかし、現状では産業カウンセラーが常駐する事業所は大企業の本社や中核拠点など、ごく一部に限られている。ほとんどの中堅・中小企業は、産業カウンセラーの常駐効果を知らない、または人件費がかさむと考えているためだ。
こうした見方に対し、小原氏は言う。「ダブルジョブ(社内兼業)にすれば、人件費はかからない。各部門に1人くらい、(産業カウンセラーを)置いてほしいと考えています。経理、営業、IT部門などの担当者が業務の1割だけでも、産業カウンセラーの感覚で職場に関わってもらえれば大きな意味があります」
無意識に発揮している対人キャラクターを自己認識する
日本産業カウンセラー協会 会長(代表理事) 小原 新氏
Column
異なる領域を有する専門家が職場環境改善を支援
日本産業カウンセラー協会の活動領域は、「メンタルヘルス対策の支援」「キャリア形成への支援」、そして「職場における人間関係開発・職場環境改善への支援」の三つである。一見するとそれぞれ異なる領域に見えるが、いずれも、より良い職場環境づくりの貢献につながる領域ばかりだ。 説明するまでもなく、メンタルヘルス対策支援は職場における人間関係の改善と密接に関連している。また、キャリアの在り方が従業員のメンタルに大きな影響を与えることもある。 「当会は、一般的に〝メンタルヘルスに特化した専門集団〟と思われがちですが、実は産業カウンセラーとキャリアコンサルタントの両方の資格を持った実践家の会員が、多数存在する全国規模の組織。つまり、『職場環境改善(働きやすい生産性の高い職場づくり)の専門家集団』です。このような専門家集団はあまりないと思います。今後もこの強みを生かしながら、働きやすく、生産性の高い職場づくりに寄与していきたいと考えています」(小原氏)PROFILE
- 日本産業カウンセラー協会 会長(代表理事) 小原 新(おばらあらた)氏
- シニア産業カウンセラー、SPトランプ・ファシリテイター、キャリアコンサルタント、衛生管理者。1946年生まれ、中央大学卒。1969年、現日鉄建材㈱に入社、人事労務を中心に担当し、人事部長、役員を経て同社顧問。2010年に退社。一般社団法人日本産業カウンセラー協会専務理事、副会長を経て、2017年会長就任。元東北大学大学院経済学研究科非常勤講師。元NPO法人キャリアコンサルティング協議会会長。著書に『人事部主導によるパワハラ解決と管理者研修ドリル』(経営書院)。
- (一社)日本産業カウンセラー協会
- 所在地:東京都港区新橋6-17-17 御成門センタービル6F
- 設立:1960年
- 代表者:会長(代表理事)小原 新
- 会員数:3万2900人(個人、2019年7月末現在)