エリザベス女王が観戦したポロ世界大会に陪席する金子氏(最前列の左端)
電話機コード製造を祖業とする金子コードは、現在、医療用カテーテルやキャビア養殖を手掛ける企業へと進化を遂げている。いかに新事業を創出してきたのか、その軌跡を追う。
キャビア養殖に挑戦した電話コード製造企業
電話コードから医療へ カテーテルの開発に挑戦
高度経済成長期に業績を伸ばした金子コードだったが、1985年に経営環境が大きく変化した。電電公社の民営化である。それに伴って家電メーカーが続々と電話機市場に参入し、指定業者だった同社も無傷ではいられなかった。1985年に27億円強あった売上高は急降下を強いられた。 「2代目だった父は、状況を打開するために電線事業の海外展開や商品の多角化を打ち出しました。その際、新しい商品として着手したのがモジュラーケーブルで、国内シェア80%まで成長し、その後のカテーテル用チューブ開発にもつながりました」(金子氏) 海外事業については金子氏が陣頭指揮を執り、中国で電話コードの生産を行って、海外市場を開拓するなど業績を伸ばしていった。 1988年には、新規事業開発をスタート。「電線では事業拡大は望めない」という判断で挑戦したのが、高度医療を支えるカテーテル用チューブだった。 「当時、カテーテルは海外製品を使用していましたが、医療現場では日本人の体に適したカテーテルが求められていました。カテーテル用チューブの開発には、ケーブルで使う押出成形の技術が転用できると判明して開発に着手。試作品が完成した1992年にメディカル事業部を立ち上げました」(金子氏) 医療現場が求めるカテーテル用チューブの「柔らかさ」「細さ」「折れない硬さ」「操作性の良さ」を実現するため、同社は開発を進めていったが、すんなりと良い結果は得られなかった。 試行錯誤の上、自信を持って試作品を医療機器メーカーに持っていくと、すでに欧米メーカーは、それを上回る品質の製品を開発していた。また、製品が完成しても、医療機器は認可を得るのに時間がかかるため赤字が続いた。 当時はバブル崩壊後で、経営が苦しい時期。膨大な設備投資をしながら結果を出せないメディカル事業部に、社内の風当たりは強くなるばかりだった。 それでも努力を重ね、事業部立ち上げから10年後の2002年にようやく黒字転換した。その後は順調に事業拡大を続け、今では同社を支える基幹事業に成長を遂げている。
明確な目標を定めて経営を立て直す
あえて成果が出るのに時間のかかる分野に挑戦
2015年からの第2ステージに掲げたスローガンは、「ZERO ONE プロジェクト~生み出せ、育てよ、NO.1になれ!~」である。 「事業を拡大する中で若い社員が増えました。彼・彼女らは事業を1から10にすることには長けていますが、ゼロから何かを生み出した経験がない。そこでゼロから1を生み出し、育てて、ナンバーワンにすることを掲げました。キャビア養殖もその一環として生まれたものです」(金子氏) 新規事業創出に当たり、金子氏は「軌道に乗るまで最低10年はかかるもの」「これまでの事業領域とはまったく関係ないもの」という二つの条件を付けて、担当社員を海外視察に送り出した。 大企業の社長の任期が平均6年ほどという統計を見た金子氏は、「成果が出るまでに10年かかる事業には、大企業が参入しにくい。オーナー企業だからできる事業だ」と考えたのだ。山のように積み上げられた新規事業案の中から金子氏が選んだのは、キャビアの生産だった。 高級食材として知られるキャビアの国内流通の約90%は輸入物。しかも、長期保存のため多くの塩を加えているので塩味が強い。またチョウザメは絶滅危惧種なのでワシントン条約により取引ができない。つまり、キャビアは全て養殖のチョウザメから採卵されているのだ。 「稚魚から育てて卵を産むまで最低7年、準備段階を含めると10年はかかります。しかも高品質な“ 生キャビア” であれば外国産にとって代わることができる。輸出も可能ですし、富裕層対象のビジネスになるので、収益率が高いと考えたわけです」(金子氏) キャビアの味には「水質」が大きな影響を与える。そこで担当社員は、北海道から九州まで、日本一きれいな水を求めて全国行脚を敢行。天竜川上流の静岡県浜松市天竜区春野町の水にたどり着き、2014年12月からチョウザメの養殖を開始した。 すでに一部のチョウザメからはキャビアを採卵し、高級レストランやホテルへ納入を始めた。養殖地から命名した「ハルキャビア」は、濃厚でクリーミーな味わいがプロの料理人からも高い評価を得ている。約2万尾いるチョウザメからキャビアが本格的に採卵できるのは2、3年後の予定で、今後の事業拡大が期待されている。既成概念にとらわれず新しい産業をつくる
高評価を得ているハルキャビアの他に、もう一つ、金子コードが新規事業として力を入れているのが人工筋肉の開発である。 人間の腱と同じような機能を形状記憶合金で再現する金子コードの人工筋肉は、従来のように電動モーターや空気圧式の動力を使用せずに動かせるため、小型化や軽量化という難題を解決できる方法として注目を集めている。 今後も開発を進め、より人の手に近い動作を再現できる義手や、リハビリ・介護現場用のパワーアシストスーツなどに利用していく予定だ。 さらに、子会社の美織では、西陣織や漆塗り、和紙といった日本の伝統工芸の技術を生かしたテーブルウエアを開発し、海外を中心に販売している。 「初代は商品をつくり、2代目は新しい事業を生んで会社を発展させました。そんなフロンティア精神を継承しながら、新しい産業を興していきたいと考えています。キャビア養殖も、単に生産するだけでなく、流通やブランディングも含めた新しい販売方法の確立など、“ 陸上養殖” の6次産業を目指しています」(金子氏) 既存の枠組みにとらわれない新しい発想で、壮大な夢に向かって突き進む金子コードの歩みは力強い。
金子コード 代表取締役社長 金子 智樹氏
PROFILE
- 金子コード㈱
- 所在地:東京都大田区西馬込2-1-5
- 創業 : 1932年
- 代表者 : 代表取締役社長 金子 智樹
- 売上高 : 47億円(2019年3月期)
- 従業員数 : 342名(2019年5月現在)