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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2019.10.31

理念、新分野、承継で情報伝達業へ躍進。看板屋からデジタルサイネージの旗手に:タテイシ広美社

表示・音声による警報で防災情報を届けるデジタルサイネージ(京都市防災情報システム)  

広島県の内陸部に本社を構える中小企業が、大手企業と対等に連携するデジタルサイネージの旗手に成長した。躍進をもたらしたのは「ミッション・ビジョンの実現」「新規事業への挑戦」「事業承継の成功」だ。

 
創業以来赤字なし利益率10%を堅持
   
広島県南東部の山あいに広がる府中市は人口約3万9000人の街で、リョービや北川鉄工所といった東証1部上場企業が本社を置く。“ デジタルサイネージ(デジタル技術を用いた電子看板)” の旗手として注目を集めるタテイシ広美社も、1977年にこの街で創業した。    屋内外に掲げる看板製作からスタートし、LED電光掲示板や電子ペーパーなどの商品開発を推進。防災情報システムや2020年の東京五輪に向けたデジタルサイネージを受注するなど、目覚ましい発展を遂げている。   「従来の看板とデジタルサイネージの売り上げ比率は4:6と、デジタルサイネージが主流になりました。当社はデジタルサイネージの構造を熟知し、企画提案からデザイン、設計、ソフト開発、製作、施工、メンテナンスまで一貫してこなせる日本では希少な存在です。メーカーと看板屋の両業務に精通した強みを生かして、全国規模でデジタルサイネージに関連した事業を展開しています」 そう語るのは、タテイシ広美社の創業者であり、代表取締役会長の立石克昭氏だ。   同社は創業以来42年間、一度も赤字を出したことがない。直近の実績は売上高10億1300万円(2018年7月期)。利益率10%を堅持し、80%近い自己資本比率を誇る優良中小企業である。  
仕事を楽しんで目標達成を目指す
  タテイシ広美社のステージアップを支えた要因は三つある。まず、「ミッション・ビジョンの実現」だ。   「高校を卒業後、大阪の看板屋で修業を積み、帰郷して起業しました」と立石氏は創業当時を振り返る。大阪へ修業に行くことを父親に申し出た際、「大阪で5年修業したら府中に帰って会社を興す。10年たったら社員を10名にして法人化し、実家を建て替える」と宣言した。父親からは「お前の思う通りになるものか!」と戒められたが、立石氏はその誓いを見事に達成したのだ。   「この経験を通して、目標を持つことの大切さが身に染みて分かりました。多少誇大なところがあっても、熱い思いのこもった目標であれば、試行錯誤しながら達成するためのプランや方法を思い付き、目標が形になっていくものです」(立石氏)   企業にとって最大の目標である経営理念は、「お客様の繁栄を考え、地域・社会へ貢献することが我社の繁栄につながる」とした。毎朝唱和し、新入社員には詳しく解説するなどして社員への浸透に努めている。   事業を展開する中で、売り上げや利益よりも社員の幸せが大事だと気付いた立石氏は、経営理念に「社員の自立と豊かな幸せを実現し、地域・社会に貢献する」を入れた。すると、ある社員から「これはきれいごとですよ」と批判された。   「そこで、毎年作成する経営指針に、社員のプライベートな夢を盛り込もうと考えました。社員一人一人の夢を全社員で共有し、一緒に実現していこうと」(立石氏)   こうして、社員の幸せを真摯に追求する姿勢を明示したのだ。同社の経営指針を見ると、顔写真付きで全社員のプライベートな夢と実現方法、進捗状況が記載されている。年に3、4回、経営トップが個人面談を行って夢の確認や達成度合いなどを確認しているそうだ。   「仲間の夢を実現するために、業務を他の社員がシェアして早めに帰宅させるといった取り組みが自主的に行われるようになった」と立石氏はうれしそうに話す。そして、こう続けた。 「目標や夢に一歩一歩近づいていると実感すると、仕事は楽しくなるものです。人生の中で多くの時間を費やす仕事が楽しくなかったら不幸。“ 仕事を楽しむことが人生を楽しむこと”。これが私の経営哲学です」
情報伝達業として新領域を切り開く
ステージアップを支えた二つ目の要因は「新規事業への挑戦」である。バブル景気の崩壊に伴い、1991年のタテイシ広美社の売り上げは30?40%ダウンし、赤字の危機に直面。そこで、大手家電メーカーが製造するLED電光掲示板の代理店になった。売れ行きは好調だったが、ある顧客からの「もっと大きなものがほしい」という要望をメーカーに伝えると、「一点物のために製造ラインは変えられない」と拒否された。   立石氏は「これは中小企業の仕事だ。当社がメーカーになって取り組もう」と決断し、社外のプログラマーや制御盤メーカーなどの力を借りて顧客が望む大きさの電光掲示板を完成させた。ところが、強烈な太陽光の下ではディテールが鮮明に表示できないという欠陥が判明し、大ピンチに陥った。   「常に現在が起点となり、良い方に転ぶか悪い方に転ぶかはこれからの判断次第」と自らに活を入れた立石氏は、欠陥を克服する商品づくりと、旧商品の再販先探しを急いだ。そして、顧客が満足する新商品が誕生し、旧商品は太陽光が当たらない屋内運動施設への納品が決まった。デジタルサイネージ事業の幕開けである。   当初、LED電光掲示板の発注先は大手企業が多く、「田舎の中小企業が、数千万円もする商品をきちんと納品できるのか」との不安を露骨に示されたこともある。「社内稟議にかけるため、登記簿謄本と3期分の決算書を提出してほしいと言われた」と立石氏は苦笑する。    それがいまや、凸版印刷と共同で世界最高水準の高精細LEDディスプレーを開発、NECと共同で2020年の東京五輪開幕までの日数を示す「デイカウンター」を都内自治体に納入、自動運転バス向けのIoTバス停の実証実験を自治体と開始するなど、最先端を突き進む。   新規事業が軌道に乗る中、もはや自社の業態は従来の枠に収まらないと感じた立石氏は、以前参加した経営セミナーで熟考した末にひらめいた「情報伝達業」が最適と判断。「今日から看板業ではなく、情報伝達業として業務を展開する」と社員に宣言し、経営理念にも「情報伝達業として、情報をかたちにすることを目的とする」を加えた。「情報伝達業という5文字がなかったら、当社はここまで至っていないでしょうね」と立石氏は振り返る。   「いこるところに人は集まる」は、立石氏の信条 「いこるところに人は集まる」は、立石氏の信条  
社長と会長の二人三脚で〝いこる〟会社を次代へ
  ステージアップを支えた三つ目の要因は「事業承継の成功」である。立石氏は2014年の創業40周年を機に、娘婿の立石良典氏へ社長のバトンを渡した。事業承継にはあまり気乗りしなかった立石氏だが、良典氏とは初見で意気投合。「大手企業の社員でありながら、チャレンジ精神が旺盛で経営者の素質がある」と立石氏は確信した。良典氏が事業承継の決意を社内で発表すると、「すぐにローンを組んで自宅を建てた若手社員が2人いた」と立石氏は笑う。会社の未来に希望が持てた証しだ。   現在、立石氏は従来の取引先の仕事を継続し、良典氏はデジタルサイネージ事業を中心に、新規事業の立ち上げや関東市場の開拓を推進。良典氏の入社を機に、売り上げが急増した。   「適度な距離感を保って二人三脚で事業を進めています。会社の目標設定は社長に任せていますが、東京五輪の次は大阪万博、リニアモーターカー開設といったビッグイベントを見据えた事業を展開していくことになるでしょう」   そう語る立石氏のモットーは「いこるところに人は集まる」。“ いこる” は炭に火が付いて赤々と燃えた状態を指す備後弁だ。つまり、熱い思いを持った会社や人材には良い出会い・仕事・情報などが集まってくるという意味である。立石氏が起こした力強い炎は、良典氏へと受け継がれ、情報伝達業の未来を照らす。   タテイシ広美社 代表取締役会長 立石 克昭氏 タテイシ広美社 代表取締役会長 立石 克昭氏  
Column

地場企業の魅力を伝えて人材を残す

文部科学省では、学校が地域住民などと目標やビジョンを共有し、地域と一体になって子どもたちを育む「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度、以降CS)」の普及に努めている。タテイシ広美社が本社を置く府中市は「地域の中に学校を! 学校の中に地域を!」をスローガンにCS導入を積極的に進め、市内の全小中学校がCSを実施している。その協議会会長を務めるのが立石氏だ。 「小中一貫の府中明郷学園では、7年生が地域の魅力を発信する模擬会社を設立。地元の企業で職場体験を行い、そこの商品や廃材、機械などを使って新商品の開発、試作、販売にチャレンジしています」(立石氏) こうした活動には地元企業の協力が欠かせない。立石氏をはじめとする経営トップが教壇に立ち、経営理念の必要性や製品開発の考え方、マーケティングの進め方などを話すこともあるそうだ。「これをきっかけに地元企業に興味を持ち、将来は地元で活躍する人材になってほしい。タテイシ広美社に入社してもらえたらベストです」(立石氏) まさに「地域・社会へ貢献することが我社の繁栄につながる」という経営理念を体現しているのだ 地域の小学生を招く会社見学や、従業員の家族を招く企業参観も実施(上)。社員に浸透する経営理念では自社を「情報伝達業」と定義し、事業を広げている(下) 地域の小学生を招く会社見学や、従業員の家族を招く企業参観も実施(上)。社員に浸透する経営理念では自社を「情報伝達業」と定義し、事業を広げている(下)  
 

PROFILE

  • ㈱タテイシ広美社
  • 所在地:広島県府中市河南町114
  • 創業:1977年
  • 代表者:代表取締役会長 立石 克昭、代表取締役社長 立石 良典
  • 売上高:10億1300万円(2018年7月期)
  • 従業員数:61名(2018年7月現在)