1951年の発売以来、大人気商品の「パインアメ」。発売当時の価格は、1粒1円だった(左)パインアメの姉妹品として1965年に発売した「オレンジアメ」(右上)
口の中ではじける泡の爽快感とジューシー感が特長の「あわだま」(右下)
「パインアメ」で有名なパインの公式ツイッターが注目されている。12万以上のフォロワー数を集める大阪の中小企業が、ここまで人気を得ているのはなぜか――。そこには、懐かしさから「新しさ」をつくり出す工夫が散りばめられていた。
ゆるっと始まった「パインアメ」公式ツイッター
社内で承認された理由は“お金がかからないから”
缶詰のパイナップルを模した愛らしい形と、飽きのこない甘酸っぱい味わい。誰もが知っているロングセラー商品「パインアメ」を製造販売するパインが、ツイッターで人気を集めている。フォロワー数はすでに12万を超え(2019年8月末現在)、ツイッターを通して食品、衣料、雑貨、ゲームまで業界を超えたコラボレーションが広がっている。
同社がツイッターを始めたのは2010年のこと。係長のマッキーさん(ご本人の希望により名前は非公表)からの提案がきっかけだった。
「社内で月1度の提案活動が行われていましたが、上司がもともと開発部だったことから管理部門でも提案活動を推奨。私は個人的にツイッターを楽しんでいたので、『会社でも始めたら面白いのでは』と思って提案しました」(マッキーさん)
日本でツイッターのサービスが始まったのは2008年4月。高校生を含めた若者を中心にユーザーは広がっていたが、大手であっても公式アカウントを持つ企業は数える程度だった。ようやくメディアが一部の企業の活用事例を取り上げ始めたころだ。
一方、同社はそれまで広報や広告宣伝を特に行っておらず、この提案が通る可能性は低いように思われた。ところが、いくつかの社内会議を通って公式ツイッターは見事に承認された。その最大の理由は、「タダ」だったからだという。
「『お金をかけずに広告できるなら良いのではないか』と、ゆるっと認められました」(マッキーさん)
なんとも大阪の企業らしい発想であるが、「良いことはすぐに取り入れる」という同社の気質が後押ししたことは確かだろう。
一つのつぶやきで状況が一変
ネットとメディアで大きな話題呼ぶ
公式ツイッターは無事に承認されたが、次の問題は誰がツイッターの「中の人」(担当者)になるか。そもそもツイッターを知っている社員がいなかった。そのため、提案者であるマッキーさんに白羽の矢が立った。
担当を命じられるとはまったく思っていなかったマッキーさんだったが、「責任の重さを感じながらも、『面白そう!』という気持ちの方が強かった」と当時を振り返る。スタート時のフォロワーは20名ほど。ひっそりと始まったが、発信する内容やタイミングを試行錯誤したり、「パインアメ」とつぶやいている人にリプライ(返信)を送って公式アカウントを紹介したりと、地道な活動を続けるうちにじわじわとフォロワーが増えていった。
この流れが突然変わったのは2012年11月28日。この日のつぶやきが、状況を一変させることになる。
「(…… きこえますか… きこえますか… みなさん… パインアメです… 私は今… みなさんの心に… 直接… 呼びかけています… パインアメは… 鳴るように作っていません… 吹いても鳴らないのです… )」
実は、業務で来客の対応をするマッキーさんは、「普段から『パインアメって鳴りますよね』という言葉をよく掛けられていた」と言う。残念ながら、パインアメは吹いても鳴らない。鳴るのは、同じ大阪市の菓子メーカー・コリスの「フエラムネ」である。
「形が似ているからか、勘違いされている方が多いという実感はありました。これはツイッターのネタにすると面白いと思い立ちました」
この実体験に、そのころツイッター上ではやっていた「きこえますか…」というフレーズを合わせて発信したところ、想像をはるかに超える反響が寄せられた。瞬く間にリツイート(RT)が広がり、1日で2万5000RTという記録を樹立したのだ。
「これをきっかけにフォロワー数が増えましたし、『パインアメを買いました!』というツイートもたくさんいただきました。また、メディアから取材に来ていただくほど話題になったことに、社内が非常に驚いていました」(マッキーさん)
何げない気付きから始まった“鳴らない事件”には、さらに思いがけない展開が待っていた。このツイートを見たコリスから声が掛かり、「フエラムネ パインアメ味」が商品化。“鳴るパインアメ”が消費者に喜ばれたのはもちろん、同社にとっても「ツイッター発のコラボレーション」という、貴重な経験となったのだ。
パインアメ公式ツイッター。“ 中の人”が「パインアメは吹いても鳴らない」と発表し、ネット上で話題となった
公式キャラクター「パインアメくん」のLINEスタンプ
他社の公式アカウントとつながり
思わぬコラボレーションに発展することも
パインがツイッターを始めて9年。環境は大きく様変わりした。今では企業がツイッターやインスタグラム、フェイスブックといったSNSを活用することは当たり前だ。広報や広告宣伝の専門部署すらなかった同社にも2018年、ついに広報室が誕生。会社の広報活動に協力してマッキーさんも日々ツイッターを更新している。
「始めたころは、『少しでも会社の役に立ったらいいな』くらいの気持ちでした。正直に言うと、ここまで話題になるとは想像もしていませんでした」とマッキーさんは言うが、多くの人が同社のツイッターをフォローしたくなるのには理由がある。
まず、すぐにまねできる工夫として、何より「見て楽しい、面白いつぶやき」である点を押さえていること。例えば、アイコンに使われている同社の公式キャラクター「パインアメくん」は、マッキーさんがツイッターのために描いたもの。季節や記念日などに合わせて描き直しているという。
また、ツイッターは短い文章中心になりがちだが、写真やイラストに加えたり、パインアメを連想させる「◎」を文章や絵文字に盛り込んだりすることで、フォロワーの印象に残るように心掛けている。
次に、つながること。企業によっては、フォロワーからのコメントに返事をしないところもあるが、マッキーさんは時間が許す限り返信する。「ツイッターの良いところは、リアルタイムに反応できたり、お客さまと直接やりとりができたりするところ」。フォロワーとの掛け合いの中で話題が膨らんだり、新しい商品のアイデアが生まれたりすることも珍しくないそうだ。
さらに、マッキーさんが勧めるのは、他社の公式アカウントとつながること。あまり関わりのない企業でも、コメントやフォローをするうちに注目が集まって、思わぬコラボレーションにつながることがある。実際、同社ではニッセンやセガ、シャープといった異業種企業とのコラボイベントやコラボ商品へ発展。それがきっかけとなり、従来とは違う場所で、違う顧客層にパインアメを広く知ってもらう機会ができたという。
「他社とのコラボは話題づくりだけでなく、従来とは違う売り場に『パインアメ』の名前が並ぶところに価値があります。常に新商品が発売されるお菓子は、商品棚の入れ替わりが激しいことが特徴。既存の商品が忘れられないためにも、お客さまの目に触れる機会を少しでも増やしていく努力が大切です」
広告宣伝の専門部署を持たない中小企業でも、ツイッターを使えばお金をかけずに大きな話題を集めることができる。パインは、アイデア次第で“バズる”、つまり、インターネットやSNSで一気に話題が拡散し、注目を集める企業になることを証明した良いお手本と言っていい。
『攻めるロングセラー パインアメ「中の人」の心得』(クロスメディア・パブリッシング刊)も大きな話題を呼んでいる
日常業務や商品の中に「バズる」ネタは隠れている
「初めこそネタに困りましたが、倉庫で見つけた昔の写真を掲載したり、新商品がコンビニに並んだ様子を投稿したりしているうちに、うまく回り始めました」。マッキーさんがこう話す通り、社員にとっては当たり前に感じる日常業務や会社の歴史、商品の中に「バズる」ネタが隠れている可能性は十分にある。
とはいうものの、これからツイッターを始めようと考えている企業の中には、どうしても「炎上」が気になり二の足を踏んでしまうところもあるだろう。しかし、マッキーさんは「実は、炎上はなかなか起こりません」とアドバイスする。
「商品にまつわることや会社に関係する情報発信を心掛けている限り、炎上する可能性は低いと思います。ただし、会社の公式アカウントであることを常に意識すること。主観的になり過ぎるのはよくありません。つぶやく前には必ず、受け取る相手の気持ちになって読み返すことをお勧めします」(マッキーさん)
大事なのは、目的を忘れないこと。会社や商品の話題から大きく外れずに、相手の気持ちを考えて発信することがポイントだが、これは普段の営業活動や店舗における接客であっても同じこと。ビジネスにおける鉄則と言っていい。
同社のすごいところは、ツイッターによって消費者の中に眠る「懐かしさ」に火をともしただけでなく、消費者や他社の視点を切り口にパインアメの新たな魅力を引き出していったところにある。そうした変化を恐れない姿勢は、創業から受け継がれてきた同社の企業DNAでもある。
「パインアメは昔と変わっていないように見えて、絶えず時代に合わせて改良されています。メーカーとしての商品や品質に対する強いこだわりが安定した販売数をつくっており、そこにツイッターという新たなツールが加わったことで今も販売数がじわじわと増え続けている状況です。これからも『パインアメを知っている』という人が増えて、キャンディーを購入する際の選択肢に、当社の商品を入れていただけるよう取り組んでいきたいと思います」(マッキーさん)
係長マッキーさん(ご本人の希望により写真を加工)。いまやインスタグラムやフェイスブックでも会社の“ 顔”だ。
PROFILE
- パイン㈱
- 所在地:大阪府大阪市天王寺区生玉寺町1-5
- 創業:1948年
- 代表者:代表取締役社長 上田 豊
- 従業員数: 105名(2019年3月現在)