生成AIを活用した「アイドル生成AI」。世の中に存在しない架空のアイドルを自動で生成することができる
現実(リアル)の世界にいそうでいないバーチャルヒューマンをつくり出す、AIスタートアップ企業のデータグリッド。同社が手掛ける「クリエイティブAI」に、多くの企業が熱い視線を注いでいる。
次世代の主流として注目の生成AI
上記の画像をご覧いただきたい。テレビや雑誌などで見掛けるアイドルグループ――のように見えるが、実は彼女たち、この世界に存在しない。京都市に本社を置くAIスタートアップ企業のデータグリッドが開発した「アイドル生成AI」によって生成された“架空のアイドル”たちなのだ。
同社はAIの中でもGAN(敵対的生成ネットワーク:コラム参照)と呼ばれる最先端の技術を活用することで、本物の人間そっくりの架空アイドルを短時間で大量につくり出すことに成功。次世代の主流になるといわれる生成AIの先進事例として話題を集めた。
ここ数年、さまざまなビジネスの領域でAIの活用が急速に広がっていることは周知の通りだ。業務の自動化や需要予測、品質管理などの分野はもちろん、ユニクロが展開するAIコンシェルジュ「UNIQLOIQ(ユニクロ・アイキュー)」※1や、眼鏡専門店チェーンのジンズが展開中の眼鏡試着サイト「JINSBRAIN(ジンズ・ブレイン)」※2といった挑戦的な試みが、デジタルプロモーションの分野でも広がっている。
ただし、これまでAIが主に活用されてきたのは、「予測」と「認識」という二つの領域だった。それに対し、データグリッドが特化している生成AIとは、創造性を獲得した新技術である。
「生成AIは、簡単に言えば新しいものを創るAIです。世の中にない音楽を作ったり、絵を描いたり、文を作成したりするなど、予測や認識を行うAIとはまったく異なるアウトプットを生み出すことが可能になります」
そう語るのは、同社の代表取締役社長CEOである岡田侑貴氏。京都大学の学生時代から最先端のAI技術を学び、同じ研究室に在籍していた小川恭史氏(現執行役員CTO)と共に2017年に起業した。それ以降、GANを活用した「クリエイティブAI」の研究開発に取り組んできた。
※1 在庫確認やコーディネート提案、トレンド情報提供などを行うアプリのアシスタントサービス
※2 パソコンやスマートフォン上で眼鏡を試着し、似合うかどうかをAIが判定する無料サービス
「キャラクター生成AI」。多様なキャラクターをゲーム業界に提供している
先行事例のない挑戦に世界が感嘆
2018年6月、データグリッドはアイドル生成AIを発表した。同時にアニメ風の多様なキャラクターを自動生成する「キャラクター生成AI」(オンラインゲーム会社のアエリアと共同開発)もお披露目し、数々のメディアに取り上げられるなど大きな反響を巻き起こした。
生成したコンテンツの事業化も進んでいる。生成AIがつくったキャラクターをゲーム業界に提供するほか、一般ユーザーがアイドル生成AIで自分好みの架空アイドルを生成できるサービスをスタート(2019年6月)している。
順調に事業を展開しているように見えるが、「アイドル生成AIをつくってみて、まだ不十分な部分があると気付かされました」と岡田氏。問題は、人間の顔だけでは表現力が弱く需要が少ないこと。「より多くの分野で活用していただくには、全身の“バーチャルヒューマン”をつくること。さらに、それを動かすことが必要だと考えました」と話す。
そして約1年をかけて開発したのが、2019年4月に発表した「全身モデル生成AI」だ。体を含めた高解像度(1024×1024ピクセル)の架空モデルを自動で大量につくり出す技術は、世界を見渡しても先行事例がない。それだけに、「米国や欧州、中国など世界中からたくさんの問い合わせが寄せられている」(岡田氏)そうだ。
人間そっくりの架空モデルを無限に生成できる「全身モデル生成AI」
架空モデルの実用化に向け実証実験を重ねる
人間そっくりの架空のモデルを自動で大量に生成できるようになると、何が起こるのか――。既存の技術と組み合わせることで、各種窓口業務やオンライン学習、俳優など、人を主体とするあらゆるビジネスへの活用が想定される。その入り口として、データグリッドが注目しているのがデジタルプロモーションへの活用である。
分かりやすい例が、アパレル企業の広告やインターネット通販のオンラインショップだろう。同社の技術によって、商品を着用した架空モデルを短時間で大量に生成できるようになれば、従来のように実際にモデルに服を着用してもらい、スタジオでカメラマンに撮影してもらう必要はなくなる。
すでに広告企業と実証実験を行っている段階にあり、来年の実用化に向けて開発が進められているという。「通販サイトのモデルが、いつの間にか架空のモデルに置き換わっていた!」という日は、決して遠くないかもしれない。年齢や性別、人種を問わず生成できるため、世界中のデジタルプロモーションにおいて活用される可能性も十分にあるだろう。
しかし岡田氏は、全てが架空モデルに置き換わる未来は想定していないという。
「AIで生成したバーチャルヒューマンの活用先として、モデル産業は特に意識していますし、それに向けてリアルの人間と区別できないクオリティーを目指しています。ただ、それでも全てのモデルが置き換わるとは考えていません。AIがつくるのは外面だけ。内面をつくることはできません。個性やタレント性といった内面の部分がファンから支持されているモデルへの代替は難しいと思います」(岡田氏)
確かに、人気モデルが着用した服が一瞬にして完売するといった現象は珍しくない。そうした影響力を持つモデル(インフルエンサー)をうまく活用しながら、それ以外の部分は架空モデルに置き換えていく。そんな使い分けが効果的なデジタルプロモーションにつながる、と岡田氏は見ている。
人を主体とするビジネスであれば
あらゆる領域で活用できると思います
データグリッド 代表取締役社長CEO 岡田 侑貴氏
「クリエイティブAI」で世の中の役に立ちたい
起業からわずか2年ながら、世界をあっと驚かせる研究開発を続けるデータグリッドの存在感は日に日に増している。
「当社の技術は汎用的です。AIに学習させるデータを変えることで、多様なバーチャルヒューマンをつくることが可能。人を主体とするビジネスであれば、あらゆる領域で活用できると思います」と岡田氏は語る。これから、どのような分野へ広がっていくのか想像することすら難しい、無限の可能性を秘めていると言えそうだ。
「人間がもっと創造的な部分に時間を使えると、世の中はもっと良くなるはず。その気持ちを込めて、当社では『クリエイティブAI』という言葉を使っています。データグリッドは社員の9割以上がエンジニアですから、常に新しいことに挑戦し、世の中の役に立つクリエイティブAIを開発していきたいと思います」(岡田氏)
次はどんなサプライズを見せてくれるのか――。進化を続けるデータグリッドから目が離せない。
Column
GAN(敵対的生成ネットワーク)
「アイドル生成AI」や「全身モデル生成AI」などに活用されているGANは、深層学習(ディープラーニング)に基づく代表的な生成AI。二つのネットワークを競わせながら学習させることで、高い精度のアウトプットが生成できるところに最大の特徴がある。 例えば、アイドル生成AIの場合、画像を生成するAIと、それが本物か偽物かを見分ける(認識する)AIが敵対関係にあり、後者が偽物を識別する能力を高めると、前者はそのフィードバックを受けて改良を加え、本物と見分けがつかないアイドル画像を生成しようと学習を高める(下図参照)。これを何百万、何千万回と繰り返すことで、本物そっくりの架空アイドルが生成できるようになっていく。 二つのAIを使うが、アイドルの画像データを学習するのは識別するAIのみ。このため、生成するAIが初めてつくった画像は「テレビの砂嵐のような状態」(岡田氏)だ。そのレベルから、本物そっくりの架空のアイドルが生成されるまでわずか数時間。そのスピードには驚かされる。 「学習させるデータは音楽や文章、デザイン、数値などでも可能」と岡田氏。集めてきたデータの中にありそうでないアウトプットを生成する技術であり、今後はバーチャルヒューマンにとどまらず、あらゆる領域で活用が期待されている技術である。
PROFILE
- ㈱データグリッド
- 所在地:京都府京都市左京区吉田本町36-1 京都大学国際科学イノベーション棟西館1F
- 創業:2017年
- 従業員数:30名(2019年6月末時点)