経験が豊富で高いスキルを持つ高齢者を戦力化したい企業は少なくないはず。しかし、高齢者の再雇用には課題もある。その雇用を約30年にわたって促進しているプロフェッショナルに、支援の在り方を聞いた。
おもてなしシニア隊R
マッチングの妙で高齢者7400名の雇用創出
政府が掲げる「一億総活躍社会」の実現に象徴されるように、現在の産業界の人手不足の状況では、女性だけでなく高齢者の活躍も経済成長には不可欠だ。長年の経験による技術や知見の活用は、労働力不足という問題の解決だけでなく、技術継承や若手の人材育成という面からも注目されている。
その高齢者雇用に、四半世紀以上前から注力している企業がある。それがマイスター60だ。半導体製造装置や各種設備のメンテナンスと設計・開発を手掛けるマイスターエンジニアリング(東京都港区)の子会社として、大阪中小企業投資育成(大阪府大阪市)の出資を得て1990年に設立した。
「創業者で現会長でもある平野茂夫は、『サラリーマン、会社辞めればただの人』という川柳をラジオで聞いて、体は元気で仕事への情熱も失っていないのに、定年退職後はただの人になるのはおかしい、と当社を立ち上げました。『年齢は背番号 人生に定年なしR』というキャッチフレーズの下、シニアの雇用創出を使命に活動しています」
そう設立の背景を語るのは、マイスター60の取締役シニアビジネス事業部長・井口順二氏である。これまで約7400名に及ぶ高齢者の雇用を創出するなど、創業時に掲げた使命を果たしてきた。
同社の提供するサービスは「人材派遣」「紹介予定派遣」「人材紹介」だ。人材派遣は、マイスター60のスタッフとして派遣先の企業で働く。紹介予定派遣は、派遣スタッフとして一定期間働き、派遣契約終了の際に本人と派遣先の双方が合意した上で、派遣先の直接雇用となる。人材紹介は、企業の業務内容に適した人材を紹介し、直接雇用となる。累計約7400名の雇用創出とは、この総数を指す。
現在は362名の高齢者が本部および派遣先で働いている。また、企業からの求人件数は約750件あり、その内訳は、施設・設備310件、設計・施工240件、技術系80件、事務系75件、専門職40件など(2019年3月31日現在)。施設・設備管理や設計・施工分野への求人が多いのは、親会社のマイスターエンジニアリングが施設・設備管理からスタートした会社で、今でも主要事業の一つだからである。
マイスター60のスタッフの最高年齢は79歳、平均年齢は65.93歳。ほとんどが派遣先で働く派遣スタッフで、中には勤続15年の大ベテランもいる。
多くの高齢者が活躍しているマイスター60。成功の背景には、派遣先企業の求人情報の正確な把握がある。
現在、求人の際、年齢制限の記載は特別な場合を除いてできない。従って、60歳以上の求職者が希望する求人に応募すると、年齢で不合格になることも多い。
「当社は必ず営業担当者が企業を訪問し、入念なヒアリングを行います。年齢についても『60歳から65歳までなら問題ないが、それ以上になると難しい』といった細かいニーズを聞き取って把握し、それにマッチした人材を派遣するようにしています」(井口氏)
セカンドキャリア支援プログラムを
企業と高齢者の両方に提供
では、企業は高齢者のどのような要素にニーズを感じているのだろうか。マイスター60が行ったアンケート調査やヒアリングを通して浮かび上がってきたのは、「知識や経験が豊富で即戦力」「現役世代に比べてコストが安い」「社会人としての常識を十分に備えている」。雇用コストもさることながら、スキルに期待していることが分かる。一方、高齢者の方は「生活のため」「やりがい・生きがいを求めて」「健康のため」が主な理由のようだ。
長年にわたり、多くの高齢者と企業のニーズをマッチングさせてきたマイスター60は、高齢者がセカンドキャリアを踏み出す際の成功例と失敗例を数多く見てきた。
「失敗例として一番多いのは、マインドチェンジができなかったケースです。つまり、現役時の職務や地位にこだわったり、プライドが邪魔したりして、新しい職場に適応する柔軟性に欠ける場合です」(井口氏)
成功要因としては、「経験が求人ニーズに適合している」「専門性が高く、実務執行能力が高い」「新しいことにチャレンジする意欲がある」「明るい、若々しい」「バランス感覚・柔軟性に優れている」などを井口氏は挙げる。
このように、マイスター60にはマッチングサービスで培ってきた多くのノウハウが蓄積されている。そのノウハウを「シニアセカンドキャリア支援プログラム(SSSP)」として体系化。再雇用制度を導入している企業の人事部門に、高齢者活用のメリットと注意点、高齢者の強みと弱み、活躍事例、高齢者が職場に望むことなどの情報を提供する。
一方で、雇用延長を選択するかどうかを迷っている企業内対象者には、雇用延長や他社での再雇用に当たっての心構え、再就職の成功事例と失敗事例の説明、必要なスキルと事前準備、企業が高齢者に期待していることなどを伝えている。
このSSSPにより、再雇用を希望する高齢者にマインドチェンジの重要性を周知し、再就職する上での準備を支援するとともに、企業に対しても受け入れ態勢の整備を働き掛けているのだ。
加えて、人材の支援策として、2016年に「設備管理技術者育成プログラム」をスタートした。同社の派遣サービスで中核を占める施設・設備管理分野の技能を持つ人材を自社で育て、企業への派遣を増やすために生まれたプログラムだ。
現役時代は事務系など施設・設備管理以外の仕事に従事し、その後、職業訓練校で6カ月間、設備管理を学んで基本的な資格を取得した人をマイスター60で採用する。入社後は社員としてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で実務経験を積み、スキル評価後に派遣スタッフとして活躍してもらう。
「職業訓練校に通って設備管理の基礎を学び、基本的な資格を取得しているものの、実務経験がなく就業の場を得られない高齢者に、働く場を提供するプログラムです。現在は、施設・設備管理など専門分野のスキルを身に付けたシニアの方が少なくなっているので、人材を育成できるスキームとして考えました。すでに多くの方がこのプログラムを利用し、派遣スタッフとして活躍しています」(井口氏)
語学に秀でた高齢者の仕事の創出も手掛ける
単なるマッチングサービスだけでなく、ユニークなセカンドキャリアをつくり出す取り組みを実践している。2014年に創設した「おもてなしシニア隊R」の活動だ。
海外駐在など国際的な経験が長く、日本語以外の言語でのコミュニケーションに秀でた高齢者が、外国人訪日客のおもてなしをするサービスである。東京タワーの飲食/売店フロアでの着物の着付けやガイドサービスのスタッフとして派遣されたのをきっかけに、デパートの健康食品免税店での販売促進業務なども行っている。
おもてなしシニア隊R のように、特別なスキルを備えた高齢者は少なくない。「今後は、さまざまなスキルを持つ高齢者の再雇用を支援できる体制を整えたい」と井口氏は言う。
「当社の登録者には、経営管理職(事務系)として働いていた方も多くいらっしゃいますが、そうした方々に対する求人数はまだ不足しています。今後は、経営管理職の方々の経験を生かせる求人開拓をより一層進めるとともに、新たな職種へのチャレンジを支援するプログラムも構築したいですね」(井口氏)
2020年に設立30周年を迎えるマイスター60。超高齢社会が進む現在、同社の果たす役割がさらに深まることは間違いない。
マイスター60 取締役 シニアビジネス事業部長 井口 順二氏
PROFILE
- ㈱マイスター60
- 所在地:東京都港区芝4-1-23 三田NNビル3F
- 設立:1990年
- 代表者:取締役会長 平野 茂夫?取締役社長 小倉 勝彦
- 売上高:12億1000万円(2019年3月期)
- 従業員数:362名(2019年3月末現在)
