その地域と関わりたいと本気で思っているメンバーに触発された
―― しかし、地域で事業として成立させるのは、簡単なことではありません。地域内外で熱い思いを持っていたとしても、ボトムアップで新規事業を立ち上げるのは、難しいのではないでしょうか。
庄司 熱量のある自治体職員を発掘して、その地域と関わりたいと本気で思っている地域内外の人々といかに接点をつくっていけるか。それが最大の課題です。
2023年5月に立ち上げた東京都の新島村(伊豆諸島の新島と式根島の2島からなる村)プロジェクトでは、農業の担い手不足が課題でした。
そこで、「特色ある農産品を売る付加価値1000万円以上の持続的なビジネスを創出すること」をテーマとして掲げました。新島村からは、若い島民3名が参加。最初は半信半疑の様子でしたが、島外メンバーと3カ月間、切磋琢磨しながらビジネスプランを練り上げるうちに表情が変わっていきました。
企画案の最終発表会には、約80名もの島民が観覧に駆け付けるほど盛り上がり、村の担当職員の方が感極まって涙する場面もあったほどです。島外メンバーも、「土着で推進していく」と腹を決め、実際に2拠点生活を始めたくらいにのめり込んでいます。2024年6月には島内外メンバーで合同会社を設立しました。
―― 計5回のセッションでは、企画案に対して「ターゲット層は?」「客単価は?」「他地域との差別化は?」など、第三者の審査員から曖昧な点を指摘される場面も多々ありましたが、回を重ねるごとに指摘を受けた点を1つずつクリアし、実現可能なビジネスプランへと成長させていきました。参加者にとっては新しい刺激的な経験だったのではないでしょうか。
庄司 営業力にしてもPRにしても、自分の経験やスキルを必要としてくれる地域の人たちが目の前にいて、6名程度のチームの中で活躍できる。
「この役割を担えるのは自分以外にいない」と思える経験は、大企業の中ではなかなか得られないでしょう。答えのない社会課題に夢中になって知恵を寄せ合い、解となる計画を練り上げていく中で人間的な学び合いが起こり、それぞれの思いが束になって事業の揺るぎない柱となっていくのです。
日本酒発祥の地である兵庫県宍粟市の認知度向上を目的に、100DIVEのプロジェクトから生まれた酒樽サウナ「mu-su」。キャンプ場や宿泊施設などをターゲットに受注生産で販売するほか、レンタル事業も計画している
国や都道府県もローカルスタートアップに期待
―― 現実問題として、ローカルビジネスを立ち上げるには相当な難しさがあるのではないでしょうか。
庄司 例えば新島のチームでは現在、合同会社として東京都が主催する島しょ部の産業振興に特化したビジネスプランコンテストにエントリーするなど、資金調達に向けて奔走中です。
東京都は、総務局の多摩・島しょ新興担当部署を中心に「全国の島しょ部のモデルをつくろう」と真剣に動いています。また、国としても、総務省が2023年にローカルスタートアップ支援制度を創設。「ローカル10000プロジェクト」と銘打ち、地域課題の解決に資する起業や新規事業の支援に取り組む自治体やチームに対して、さまざまな支援を実施しています。
当社では、東京都新島村をはじめとする16地域に「事業創造」「関係人口創出」「地域人材のバックアップ」という3つの価値を提供してきた実績に基づき、そのノウハウを全国に展開すべく、国や都道府県とも連携しながら今年から基礎自治体を幅広く募集することをスタートしました。
―― 市区町村の職員と、その地域内・外の人たちが1つのチームをつくり、リーダーシップを発揮して地域の課題解決に挑む。その取り組みを国や都道府県がバックアップする。多様性の時代にふさわしい、行政と民間の新しいパートナーシップが生まれているのですね。
庄司 関わる期間や深さは人それぞれです。「こうでなければならない」と枠にはめるのではなく、意志ある人を起点にしてチームをつくり上げていくことが大切だと考えています。
100DIVEが2021年に立ち上げた第1期プロジェクトの1つは、長野県小海町の特産品である鞍掛豆を活用した商品開発や販路開拓で産業の柱をつくり、まちの農業課題を解決していくというものでした。そこで結成されたチームは、法人化こそしていませんが、現在も「くらかけ豆メイト」として緩やかにつながっています。週末や長期休暇になると小海町の畑に集って鞍掛豆の手入れをし、各地の物産展に出店して販売活動を続けています。
―― 素晴らしいです。柔軟な発想と行動をもってすれば、地方創生の道はこれからさらに大きく開かれると感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
(株)100DIVE
- 所在地 : 東京都豊島区南大塚3-36-7 南大塚T&Tビル6F
- 設立 : 2021年
- 代表者 : 代表取締役 庄司 弥寿彦、嶋田 俊平