【図表2】アイティエルホールディングスが目指すプラットフォーム構想
今後もITLHDはM&A戦略を加速する考えだ。そのため、ENCOMのような公開案件情報をいち早くつかむほか、非公開案件の情報収集にも努めている。さらには、企業データなどを基に、経営者の年齢などから事業承継の必要性がありそうな企業を洗い出し、直接打診することもあるという。
「これまでは、事業承継の手段としてM&Aを希望された案件が多かったのですが、今後は企業の再生案件にも取り組んでいきたい。また、これからの時代、ベンチャーやスタートアップが会社を立ち上げて、成功軌道に乗ったものを売却するといった案件が日本でも増えてくると考えます。こうしたケースにも対応していきたいです」と佐々井氏は抱負を語る。
ITLグループの中には、EC(電子商取引)などの事業系企業と、システム開発などを行うソリューション系企業がある。これらを組み合わせてシナジーを高めていくのが、戦略の1つだ。
また、ソリューション系企業を組み合わせ、各企業が強みを発揮することでシステム開発の上流から下流まで一気通貫の開発受託を目指す。さらには、ソリューション系企業間でエンジニアをはじめとする人材の交流を促進することによるシナジーの追求も検討している。
中長期の展望について、佐々井氏は次のように語る。
「当グループが目指すのはITビジネスのプラットフォーマー。M&A戦略をさらに強化することで、パズルの空きを埋めていくようにグループ内にないピースを獲得し、グループ各社の特長や強みを生かして、時代の要請であるDX(デジタルトランスフォーメーション)の成功事例を積み上げ、競争優位を確立していきます。
そのためには、ビジョンや経営哲学をグループ全体に浸透させる必要があります。失敗を恐れず挑戦する企業風土の醸成や、従業員を大切にする経営姿勢などを共有していくことで、持続的成長を目指します」
全国の社長の平均年齢は62.49歳(東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」2021年8月)。高齢化が進み、事業承継ニーズが増えるのに比例して、第三者承継の手段としてのM&Aへの関心も年々高まっている(中小企業庁「2021年版 中小企業白書」2021年7月)。このことについて佐々井氏は、「経営の先を見据え、時間をかけた準備が欠かせない」と言う。
「事業承継は、親族や従業員への承継、M&Aを含めて、さまざまな手段があります。それぞれ一長一短があるので、企業と経営者の事情に応じた選択が重要です。もしM&Aを選択するとしても、売却先の情報収集などに時間がかかるため、日ごろからM&Aに関する知識を吸収し、情報収集に努めることが求められます。
また、株式については、複数の親族が保有している場合、ある程度は取りまとめていくことがM&Aを円滑に進める上での必要条件となります。資本関係が複雑だと、交渉が進まないことは少なくありません。
さらに、金融機関からの借り入れの多寡も交渉に影響します。経営者本人の個人保証をどうするかなど、金融機関と事前に話し合っておくことをお勧めします」(佐々井氏)
M&Aによる事業承継は、譲渡・譲受両社にとって、自社だけでは難しい成長発展を遂げる転換点になり得る。グループ各社の「共存共栄」を掲げるITLHDは、消費者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を最適化するサービスプラットフォーム(【図表2】)の実現に向け、M&A戦略を着実に推進していく。
パズルの空きを埋めていくように
グループ内にないピースを獲得し、
グループ各社の特長や強みを生かして、
競争優位を確立していきます。
PROFILE
- (株)アイティエルホールディングス
- 所在地:東京都港区赤坂2-23-1 アークヒルズフロントタワー17F
- 設立:2017年
- 代表者:代表取締役社長 佐々井 文吉
- 売上高:15億円(連結、2020年9月期)
- 従業員数:500名(連結、2021年8月現在)