古田 2019年12月に開校したKDSアカデミーは、コロナ禍の影響による教育の停滞を防ぐ成果を生みました。その一方で、見えてきた新たな課題はありますか。
小林 技術をどこまでデジタル動画で教えられるかが課題です。一番大事な実技は、現場で現物を使い、音や匂い、触り心地など五感の「カン・コツ」を実践的にトレーニングする必要があります。それなくして本当の技術は伝えきれないのです。そこで、デジタルに限界があるなら、リアルを融合できないかと気付きました。
古田 実践的なリアルの集合研修と、多様な技術・技能に触れられるデジタル動画。両方の良いところを取って、より効率的で効果的な教育をしようと開始されたのが「ブレンドラーニング」です。
小林 デジタル動画教材を見て頭の中で作業内容をイメージしてから、OJTで実技訓練を受ける。その後、忘れていたらもう一度、動画を見直すなど、少しずつ学びが浸透し始めています。学びやすさに加えて、繰り返し学べることが大切です。
「育成期間を半分に」をスローガンに掲げた新入社員の導入教育・フレッシャーズコースでは、社員から「丁寧に教えてもらえる」「学びやすく、楽しい」と高い評価を得ています。1人の社員を一人前に育てるのにおよそ12年かかっていましたが、ブレンドラーニングによって6年で育ってもらうのが目標です。
古田 まだ取り組みの最中ですが、ポスターや「アカデミーブック」を作成して配布するなど、インナーブランディングも進められています。また、教えやすく学びやすいブレンドラーニングで、成長できる環境と仕組みが整ったKDSアカデミーは、優秀な新卒社員の採用につながっていますね。
小林 体系や特徴などをまとめた全社員に配布するアカデミーブックを採用ツールとしても活用しています。教育環境は応募者にとって大事な判断材料になりますし、入社後の成長ステージの見える化が安心につながります。新入社員だけでなく、ミドルやエキスパートを対象とした新コースも組み立てているところです。
古田 人材教育に関する今後の展望はいかがですか。
小林 技術を継承して終わりではなく、私たちは進化し続けなければいけません。現場の知恵を取り入れながら、社員みんなが教え、学び合い、仕事が楽しくなる状態にしていきたいですね。
古田 KDSアカデミーは教育ツールを超えた「人づくりのプラットフォーム」と言えます。管理を担うマネジメント職と、匠と呼ばれる技術のエキスパート職。経営には欠かせない専門力の発掘・育成・活躍が可能になるプラットフォームとして、多くの企業にとって良き先例になりますし、さらに成長を遂げていくでしょう。
小林 一人一人の力量や適性の評価基準を定め、人材マネジメントへつなげる取り組みを始動させました。スキルレベルや伸び代が一目瞭然になったので、より成長につながりやすい学びと、適材適所での個人の活躍につなげられると期待しています。
また、マルチスキル化にも力を入れています。専門系統一筋なのではなく、複数の学びの系統で技術を習得し、1人で何役もできるように。例えば、ゆとりのある部署が繁忙期の部署を「ちょっと手伝う」ことができれば、より柔軟に現場を運用できます。すでに事業部の事務スタッフがCADで鉄道設計の図面作成を支援しています。
古田 労働人口が減り続け、特に人材確保が難しいと言われる建設業界で、マルチスキル化による生産性の向上でますます「強くて、しなやか」なKDSになるでしょう。
小林 ブレンドラーニングという名を、とても気に入っています。ブレンドと聞くと、味わいをまろやかにするイメージがあります。学びは苦味を伴いますが、ブレンドすることで、よりスムーズに学べるようになることを期待しています。
古田 一人一人のキャリアを未来につなげるKDSアカデミーを、タナベ経営はこれからもサポートしていきます。本日はありがとうございました。
PROFILE
- JR九州電気システム(株)
- 所在地:福岡県福岡市博多区冷泉町4-17 博多祇園NKビル
- 創業:1952年
- 代表者:代表取締役社長 小林 宰
- 売上高:2939億1400万円(連結、2021年3月期)
- 従業員数:580名(2021年9月現在)