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モデル企業
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【企業事例】優れた経営戦略を実践する企業の成功ストーリーを紹介します。
モデル企業 2021.10.29

「学びのブレンド」で技術継承し、未来をつくる人材を育成 JR九州電気システム

 

 

タナベ経営 九州本部 本部長代理 古田 勝久(左)、JR九州電気システム 代表取締役社長 小林 宰(おさむ)氏(右)

 

 

九州旅客鉄道(JR九州)100%出資のグループ会社として鉄道電気工事や建築・情報通信工事を手掛けるJR九州電気システムは、2020年、人材育成の強化と技術の継承・進化を目指して企業内大学「KDSアカデミー」を開校。タナベ経営の「アカデミーアワード2021」を受賞し、独自の「ブレンドラーニング」へとさらなる進化を続けている。

 

 

鉄道、新幹線、建築設備
社会インフラを支え続ける

 

古田 JR九州電気システム(以降、KDS)は1952年創業で、鉄道電気工事や新幹線建設などの電気・設備工事事業を展開されています。

 

小林 コア事業である鉄道電気工事は、電車を動かす電気の供給、安全運行を支える信号設備などの新設・更新・メンテナンスを行っています。JR九州をはじめ、九州各地の鉄道事業者がお客さまです。

 

新幹線建設工事は九州・北海道・北陸新幹線で実績を重ね、現在は2022年秋の開業に向けて、九州新幹線西九州ルート工事を進めています。また、駅舎や駅ビル、ホテル、マンションなどの建築・情報通信設備工事、太陽光発電や光通信の発電通信事業も手掛けています。

 

古田 小林社長は2018年の社長就任後、真っ先に人材育成の強化に取り組まれました。KDSアカデミーを立ち上げた理由を教えてください。

 

小林 スマートフォン1つあれば何でもできる時代に、未来につながる当社の強みは何だろう、と考えてみました。想像を超える技術革新が起きるデジタル社会も、さまざまなインフラなくして成り立ちません。鉄道など大切な社会インフラを現場でつくり、支える専門的な技術・技能と人材が、当社の強みだと再確認しました。

 

どうすれば、しっかりと事業をつなぎ、成長し続けていけるか――。そう思案していた時に、タナベ経営から、デジタル時代にふさわしい「学びのデジタル化」を提案いただきました。そこから、デジタル動画教材を制作し活用するKDSアカデミー開校への挑戦が始まったのです。

 

 

 

「KDSアカデミー」は講師も撮影も社員が担当する

 

 

現場を主役にした運営体制で系統別に技術を学ぶ

 

古田 JR九州グループに加わって30周年を契機に、「NEXT KDS」をコンセプトに掲げる未来へのビジョンを策定し、社員に発信されました。KDSアカデミーはその一環です。

 

小林 ビジョンを実現するために、技術・技能の継承や人材育成のやり方を進化させる意図があります。鉄道設計・安全・信号・通信・建築電気などの技術・技能を16科目の「学びの系統」に体系化しました。科目別にデジタル動画教材を制作し、いつ、どこにいてもオンラインで学べます。

 

古田 立ち上げをサポートしながら、「現場で仕事をする社員が主役だ」という小林社長の強い思いを感じていました。KDSアカデミーの運営体制を3階層の組織に分けたのには、社長の思いが伝わりやすく、より多くの社員を巻き込める環境をつくり、推進力を高めていく狙いがありました。

 

小林 他人事になりがちだった教育を、みんなが参加できて「教えも学びも、主体は自分」という意識になれる体制をつくろうと、3つの組織を立ち上げました。私が委員長を務め意思決定をする「アカデミー委員会」、人材育成の方向性をリーダーたちが協議する「アカデミー協議会」、科目別に技術のエキスパートがカリキュラムや動画教材を作成する「ワーキングチーム」です。

 

3つの組織が連携することで、学びのデジタル化を進めると何がどう変わるのか、私も社員もよく見えますし、何より社員の「変わろう」「進化しなきゃ」というやる気が高まったと感じています。協議会はマネジメント層から部課長クラスへ、ワークチームはエキスパートから若手へと、次第にメンバー構成が次代を担うメンバーへ拡大しつつあります。また、総務部内の研修課を部に昇格し、「教育アカデミー部」も新設しました。

 

古田 技術・技能の継承や人材育成に注力することで、どのような変化がありましたか。

 

小林 高度で専門的な技術は、習得に時間がかかります。その上、これまでOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は九州各地に点在する現場で、しかも、終電後の夜間工事の現場の作業中に実施しなければならないことも多く、現場の技術力を継承する難しさがありました。

 

また、若手社員が増える半面、長年の経験と高い技術を持ち、かつ若手の育成役を担えるベテラン社員が減っており、鉄道という重要な社会インフラを守る「思い」が薄れてきているように感じていました。仕事が細分化・専門化して、この仕事が全社システムの中でどのような意味を持つのかが見えず、目の前の作業をきちんとできればいいという意識になっていたかもしれません。

 

しかし、デジタル動画教材なら時間・場所を問わず、深く広く技術を学べる環境が整います。それに、デジタルネーティブの若い社員は、デジタルの学びの方が親しみやすい。また、教えと学びの全社統一基準ができることで、拠点やインストラクターが異なっても、高いレベルで技術や仕事の仕方を均質化できるのは大きなメリットです。

 

古田 ワークチームで教材制作を進める中で、拠点ごとの「正しい教育、技術を身に付ける方法」の違いが判明しましたし、良いところは積極的に全社へ導入されました。エルダー制度はその1つです。トップダウンから現場の知恵を生かすボトムアップへ、自ら育ち、育てる環境へと変わるプロセスを、私も社長と一緒に肌で感じていました。